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ホノカちゃんが姿を消してから一時間。スマホも持たずに外へ出たのが心配で、シージーを振り切って車に乗り周辺を探し始めた。
ところが村のどこを探しても見つからない。ただでさえこの村はだだっ広い上に自然が多い。車を降りて林の中や森の中を探し、かつて誰かが住んでいた家の中に入って呼び掛けてみても、結局見つからなかった。
あの時外に出ようとするのを力づくでも止めておけば、と今更後悔しても遅いのにそればかり考える。
陽が暮れて夜になり家に戻り、途中から探し始めてくれたシージーと探した場所を共有する。一先ず休憩を取ってから、再び外に出て二人で二手に分かれて探し始めた。
夜ならどこか家の中に籠っていてもおかしくないだろうと思ったのに、彼女はどこにもいなかった。
とりあえず今日はもう探すのはやめにして、明日また探そうとシージーと話した。
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コンコン、とノックの音が聞こえる。どうぞ、と声を掛けるとシージーが遠慮がちに部屋に入ってきた。いつもは鍵を掛けていてもこじ開けてくるのに、ノックをするなんて随分殊勝だ。
いつもこの時間に私に会いにくる時は、過度な露出のベビードールを身に付けすぐさま私に抱きつこうとしてくるのに、今日はきちんとホノカちゃんが貸したパジャマを着て、俯きながら入ってきた。私を見て申し訳なさそうに眉を下げる。
「……レイ、ごめんね」
「何で謝るの?」
「私がホノカにあんなこと言ったから、出て行っちゃったんだよね……。まさかここまで思い詰めるなんて、思ってなくて……」
ランタンの薄明かりが私たちを照らす。ホノカちゃんをずっと探していたので、ケーブルは断線したまま放置してある。修理する余裕は無かった。もちろん電気は点かない。
「それに最近、レイ私に優しかったでしょ?だからホノカ、嫉妬してたのかも」
「嫉妬」
「うん……だって、この間までレイの話しても嬉しそうに聞いてくれてたのに、最近浮かない顔してたもん。嫌だったのかも」
シージーは私に近付き、隣へ座る。ソファがギッと音を立てて軋む。シージーの甘ったるい香水の匂いが、鼻腔をくすぐった。
「私、大人げなかった。ホノカがレイのこと大切だって知ってるのに、つい自慢しちゃって。……ごめんねレイ、私のせいだ」
シージーは俯く私の膝に手を添える。こんな世界で暮らしているのにシージーの手は一切荒れておらず、真っ白で滑らかで、爪も綺麗に手入れされていた。シージーの爪を見て、ホノカちゃんのことを思い出す。農作業時にグローブをはめるのを忘れ、土が爪の間に入って取れない、と嘆いていたな。
私はシージーの手に自分の手を重ねる。彼女は分かりやすく狼狽えた。透けそうなくらい白い頬に、内側から滲んだように朱色が浮かぶ。困惑しているのに、どこか嬉しそうにも見えた。
「え……え?!レイ?!」
「シージー」
「え、ええ?!」
私はそのまま彼女の手を握り、目を見つめる。そしてその赤くなった頬に触れ、親指で撫でた。シージーは更に動揺して目を白黒させる。
「わ、え、あの、レイ」
「嫌?」
「嫌、じゃない、けど……」
「私をその気にさせたのは、シージーだよ」
そう言って、私は彼女の肩を掴んで押し倒す。彼女の黒髪が、濡れたように艶を放ってソファの座面に広がった。ギシッとソファが大きく軋む。私は彼女へ覆い被さった。
「あの、私、お風呂とか、その、えっと」
「……ベッドの中でも満足させる自信、あるんじゃないの?」
私がそう言うと、彼女は耳まで真っ赤になって、恥ずかしそうに黒い瞳を潤ませた。そして、震える指で私の服の裾を掴む。
「あんなの、強がりだもん……。誰にも体なんて、触らせてない。レイ、レイだけだよ……」
私は微笑んで、シージーの滲む涙を拭う。雪のように白い肌、真っ赤な唇、朱色が浮かんだ頬。全てが私に向けて彩られていた。
「あのね、レイ、大好き。ずっと、ずっと大好きだったの。本当だよ、大好き。触って、レイ……」
シージーは震える声でそう言い、私の頬に手を伸ばした。私はその手に頬擦りし、彼女を見つめ返す。
「もっと呼んで?」
「レイ……大好き、レイ……」
「シージー」
果実のような唇を薄く開き、シージーは目を閉じた。
視界がお互いの顔しか見えないほど近づいて、そして――
腰に隠していた注射器を彼女の肩へ刺す。プランジャーを押し込み中身を注入すると、驚いて彼女は目を開いた。何が起こったのか理解できない、というような表情を浮かべて、そしてガクッと意識を失った。
すぐに針を抜き、注射器をゴミ箱へ放り投げる。意識が無いことを確認して、立ち上がった。
「ごめん」
そう呟くと、背後から拍手が聞こえてくる。アズマがバルコニーからこちらを見つめ、そして中へ入ってきた。
「いや、名役者……このまま、行為が始まると思って思わず見入ってしまったよ。君もホノカもハニートラップの練習でもしたのかい?」
私はベラベラ喋るアズマを無視して、シージーの体を触り始めた。腹部に硬い感触があり、服を捲り上げると、ポーチが巻き付いていた。それを開いて中から端末とやらを取り出す。コンパクトな正方形のものだ。ボタンが真ん中に付いているだけの随分シンプルな作り。誤作動防止のためか、ロックがかかっているようだった。それを自分の懐へしまう。
「外してくれないのかい?」
「ホノカちゃんの無事を確かめてから。その前にシージーを拘束。不審な動きをすればスイッチを押します」
そう短く吐き捨てるように言うと、アズマは手を広げた。
「やれやれ……人使いが荒いねぇ」
私は無視して、眠るシージーの力の入っていない上体を、引っ張って起こした。




