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第五話

 冒険者の装備選びって、もっとこう防御力とか耐久性とか機動性とかを重視するもんじゃねえの!?


「ねえ、この革のブーツ。お洒落でぜったいヒロに似合うと思うの!」


 なんで町中でスイーツ選んでる女子高生のテンションなんだよ!

 ……まあ、キマラに買ってもらうものだから文句は言えないけどさ。

 

「あの子、元気でいいねえ。うちの娘もあのくらい元気だと店も任せられるのにな」


 お店の人に迷惑かと思ったが、どうも店主のドワーフのおじさんにはキマラは高評価らしい。


「得物は何を使う予定だい、お嬢ちゃん」


 その言葉に俺は彼女のほうをじっと見る。おい、呼んでるぞキマラ。

 夢中になって革のベストを選んでる彼女に、俺が話しかけようとした時だった。


「おい、変わった服のお嬢ちゃん。あんただよ」


 ふいに肩を叩かれた俺は、何を言ってるんだと思いながら振り向いた。俺がお嬢さん……あっ、俺、女だった。


「ご、ごめん」

「いいよ。で、得物は何を使うんだい」

「得物? あっ武器か、うーんと何か扱いやすいものを」

「えっ、決まってないのか。うーん、力もなさそうだし……これなんかどうだ?」


 カウンターの上に手ごろな大きさのナイフを並べていく店主。それは刃渡り30センチくらいのいわゆるサバイバルナイフのような見た目をしていた。

 それについ心を躍らせ、目を輝かせる俺。


「なんだい、興味津々じゃないか」

「ああ」


 俺はいくつかのナイフの中から、戦争ものの映画でよく見たスタイルのものを手にとると構えてみせた。


「ぷっ、ははっ。全然なっちゃねえな」


 俺を見て高笑いする店主。その声を聞いて、キマラがいくつかの革靴とベストを手に戻ってくる。

 そして、それらを俺の目の前に置くと、手に持っているナイフを見て言った。


「あっ、武器を選んでたのね。ふーん、なかなか良いナイフじゃない」


 彼女に褒められるとなんだか嬉しくなる。


「武器はこれで決まりね。でね、このブーツを履いてみてくれる?」


 えっ、もう武器は決まりなんだ……あっさりと決まったことに戸惑う俺だったが、彼女の『早くこれを履け』と言わんばかりの圧に、急いで今履いている革靴を脱いだ。

 俺の脱ぎ散らかした靴を、キマラはさりげなく揃えて横に置く。俺は、彼女のそんな仕草を自然と目で追っていた。


「ねえ、この猫の刺繍可愛い~」


 ハイソックスにある猫の刺繍に気がついて、彼女がそれを指差すと満面の笑みを浮かべる。

 本当だ。小さい猫の刺繍が入っている。先輩って、そういうの好きだったんだ。

 と、彼女のクールな見た目に似合わない女の子らしい一面を知って、少し俺は嬉しくなった。


 彼女は俺の足にブーツを履かせるのかと思いきや、ハイソックスに手をかけると、スルスルッと脱がし始めた。そして、それを顔に近づけると軽く匂いを嗅いだ。

 それに唖然とする俺。


「あ、あの……」

「うーん、なんの植物なのかしら。全然、わからないわ。この素材の肌触りは魔法で再現できそうだけど」

「魔法?」

「そうよ。そういう魔法があるの。衣服の肌触りを変える魔法……まあ、あまり役にたたないけど、革製品や麻の服につかうと着やすくなるわ」

「なるほど」


 それはエルフ特有の魔法だろうか?

 そんなことを考えていると、彼女はハイソックスの中に手を入れた。そして耐久性を確かめるように中で拳を握ったり開いたりすると、それの肌触りを確認するように頬へ擦りつける。

 あの……キマラさん、変態にしか見えないのでその仕草やめてくれませんか。


「ほんと、丈夫で薄い。こんな素材初めて見たわ、何の植物かしら?」


 ハイソックスを頬に当て、悩んでるエルフの美少女。

 控えめに見ても、シュールな光景である。


「あ、あの、ブーツは?」

「あっ、そうよ。ブーツよ」


 その言葉にやっと我に返る彼女。どれだけハイソックスに夢中なんだと思いながらも、ブーツをいくつも試着してみせた俺だった。


 ☆


 亜人地域の東の端、そこに冒険者ギルドで建てた宿はあった。一晩、俺たちはそこに泊まり、明日の朝早くに出発することになる。

 夜はモンスターたちが活発化するらしく、明るいうちに移動するのが安全らしい。


 そして翌朝、町を出た俺たちは街道を歩いていた。


「ごめんね」


 前を歩いていたキマラが、突然こちらへ振り向くと謝りだした。


「なんだ突然?」

「私が亜人だから、馬車に乗れなくて」


 基本、亜人は乗り合い馬車には乗れないそうだ。例外はBランク以上の冒険者だけらしい。

 そんな申し訳なさそうな表情を浮かべている彼女に言った。


「装備も揃えてもらったし……俺、一人だけじゃ何もできなかったし」


 確かに何もできない。能力向上のスキルも他人を強化するだけのスキルだ。しかも、発動条件が彼女とのキスときた。

 キス……その言葉にキマラの唇を意識して、思わず耳まで熱くなる。


「どうかしたの?」


 そう言って近づいてくる彼女の顔と唇。それに耐え切れなくなった俺は、視線を宙に泳がせると話題を変えた。


「ど、どこに行くんだっけ?」

「港町でエイルってところよ。そこは亜人と人間の地域が分かれてないの。あそこならモンスターも強くないし、一緒に冒険もしやすいわ。あっ、そうそう、スパイクボア(巨大猪)の肉が意外と高く売れたのよ、だから旅費の心配はいらないわ。それから……」


 彼女はそう答えると、せきを切ったように話し出す。これのおかげで結構こっちの世界の知識が増えてありがたい。道中、「うん、うん」と返事をしながら、よく聞くようにしている。

 買ってもらった外套、そのフードを深くまで被っているが、不思議と暑くはなかった。


「なあ、いつもこんな気温……いや、この辺は寒い時期とか暑い時期とかないのか?」

「この辺はずっとこんな感じよ。暑くもなく、寒くもなくっていうか。もう少し北のほうへ行くと寒くなるけど」

「なるほどな」


 俺がそう返事をすると、キマラはしばらくこっちを見つめていたがまた話し始めた。

 そんな質問をする俺を少し不思議に思っているのだろうか?

 いや、怪しんでいるというより、興味深いと言ったところか。


「この辺で一旦休憩にしましょ」

「うん」


 話し過ぎて喉が渇いたのだろう。キマラは水筒を手にすると街道脇の森の中へと入っていった。置いて行かれないよう、俺も急いでついて行く。

 少し歩くとまだ道が見えるところに、少し開けた木陰があった。


「ここがちょうどいいわ」


 彼女はそう言うと、そのまま地面に座り水筒に口をつける。俺も横に座ると、水筒を取り出した。

 そして、口をつけようとした時だった。

 目の前の大木の後ろから、普通より一回り大きな兎が現れる。頭には角もついていた。


「なあ、兎が」


 俺がのんきにそれを報告しようとした、その瞬間だった。


「早く構えて!!」

「えっ!?」


 キマラはすぐに立ち上がると、腰のナイフを手にする。

 俺はそれを見て、慌てて前へと振り返った。すると兎は頭の一本角をこちらに突き出しながら全力で駆けてくるのだった。

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