第十五話
水差しを手に持ったキマラを先頭に、三人で階段を下っていく。さっきの騒ぎで俺も喉がカラカラだ。
「どうして、私たちが討伐隊に参加すると思ったの?」
「あれだけ強いお姉さま方なら、冒険者ランクも高いと思ったので」
「あー、それでギルドから討伐隊に個別招集されていると思ったのね」
「はい」
キマラの言葉にメロンは笑みを浮かべ、そう答えた。
「うーん、残念だけど私もヒロもそんなにランクは高くないの。私はDでヒロはGよ」
「えっ!? Gランクって登録したばかりのひよっこ……あっ、ごめんなさい」
「ああ。そうだ、ひよっこだ」
謝るメロンに俺が笑顔でそう返す。キマラもそうよねと言わんばかりに笑ってみせた。
「ヒロ」
「ん?」
「ナイフ持ってきたのよね」
「ああ、少しでも慣れておこうと思ってな」
井戸のある裏庭。そこは広くて、ナイフを振っても問題ない。
だから、ここに来る途中でウッドブロックさんに教わったナイフの使い方を復習しようと思ったのだ。
少しでも慣れておけば、実戦でも戦える……と思いたい。
「メロン、よかったらヒロに戦い方を教えてくれる?」
「えっ、私がですか?」
「ええ、後衛の私より前衛をやっているメロンのほうが適任だと思うの」
「そ、そういうことなら」
メロンは自分でいいのかと、不安そうに俺の顔を覗き込む。
「よろしく頼むよ」
「は、はい! お姉さま! きゃー、がんばりますぅ!」
彼女は両手をあげて派手に喜ぶと、キマラの手から水差しを奪い取った。
「私が水を汲んできますので、お二人は先に行っててください」
「う、うん」
思わず返事をした俺とキマラ。それを聞いたメロンは、あっという間に走り去る。
「井戸も同じ裏庭だよな」
「そうね」
まあ、いいか。
俺たちは同時にそう思ったのだろう。二人で顔を合わせると裏庭へと歩き出したのだった。
☆
「こうか?」
先に手本として見せてもらったメロンの動き、それを同じように構え、下から上へと振り抜く。
「はい。基本の構えはそうです、女性は力が弱いので」
どうもウッドブロックさんの動きは男性向けらしく、小さい体格の俺たちは違う動きをしないといけないらしい。
その流れるようなメロンの動作を、上手く動けないなりに何度も挑戦してみた。
「最初よりもだいぶ動けてます」
「ほ、ほんとうか!」
「はい。後はそれをうーんと……朝と昼に合間をみてですね。そう、一日五百回ぐらい繰り返せばいい形になると思います」
「えっ! そんなに!?」
「はい。私は欠かさずに一日千回以上は剣を振ってますので」
彼女は可愛い顔で、平然とそう答えた。あ然としてキマラのほうを見ると、彼女は首を横に振る。
やっぱり、普通の回数じゃないらしい。
メロンはさらに二度、三度と色々な動きでナイフを振ってみせた。
「うーん、久しぶりにナイフを振りましたが、だいぶ腕が鈍っているようです。ナイフの鍛錬も日々の訓練に追加しないといけないです」
俺から見れば、彼女の動きは非常に滑らかで無駄がないように見える。だが、きちんと武術を習った事がある者にはまだまだなのだろう。
俺も少しはキマラの役に立たないと、守ってもらってばかりじゃしょうがないからな。
そう思い、教わったことを思い出しながら、俺もメロンと一緒に淡々とナイフを振り続けた。
「ねえ、二人ともそろそろ終わりにしましょ」
いつの間にか夢中になっていた俺たちに、キマラはタオルを放り投げる。
「ありがとうございます」
「ありがとな」
汗だくになっている体を拭き、俺はナイフを鞘にしまう。そして、その場に大の字になって倒れこんだ。
「あー、疲れた」
「ふふっ。もう、ヒロったら子供みたい」
そう、キマラは俺を見て笑った。そして、そばに歩いてくると右手を差し出した。
「ほら、部屋に戻って着替えるわよ」
「えー、もう少し休んでからにしようぜ」
「もう、髪が長いんだから土で汚れるわよ。そんなに可愛いんだから、少しは身だしなみに気を使いなさい」
「お、おう」
さすがに『可愛い』と言われるのは慣れないな。
戸惑いながらもそう返事をすると、俺はキマラの手をとり立ち上がった。
そして、俺たちの部屋へと向かうのだった。
☆
「メロンはどこに行ったのかしら……はい、これ着替えね」
「あ、ああ」
そう言って、前に買ってもらった着替えを受け取った俺は、キマラに背を向けた。
今は女同士とはいえ、さすがに見るわけにはいかないよな。
そう思いながらも、一瞬、爆乳の大きく揺れる様を想像してしまった俺は、雑念を振り払うべく首を横に振った時だった。
突然、バタンと勢いよく扉が開く。
「お姉さま方、タライを借りてきました。水も一緒に汲んできましたよ」
タライを左の脇に抱え、右手に水のいっぱい入ったバケツを持ったメロンが現れた。
「ち、力持ちなのね……」
驚くキマラに、「えっ? そうですか?」と平然と答えるメロン。彼女はドンと大きな音を鳴らし、バケツを床へと着地させた。
タライもバケツも木製だし、水も合わせれば相当の重さだぞ、あれ……。俺は『彼女は絶対に怒らせないようにしよう』と、心に誓う。
「これも動かしますね」
重そうな机を軽々と上に持ち上げ、天井にぶつけそうになる。それを部屋の端へと楽々と移動させると、タライを部屋の中央に置いた。
「うーんと、お先に失礼しますね」
彼女は俺たちに確認するようにそう言うと、防具を外し豪快に脱ぎ始めた。
躊躇がねえ。
その突然の行動に俺は思わず固まってしまい、引力に引かれるように目が釘付けになった。そんな中、スルスルッと服を脱いでいくメロン。
少したれ目の可愛らしい丸顔なのに、意外と胸はあるんだな。俺はそう思うとともに、心臓が高鳴り顔が熱くなっていくのを感じた。
「ふう」
吐く息とともに、日に焼けた手でタオルを握ると、メロンはそれを水に浸し体を拭き始めた。
その仕草の一つ一つに思わずごくんと、自分の唾を飲み込む大きな音が鳴る。
「何見てるの!」
その俺の様子をじっと後ろから見ていたキマラが、突然、鋭い声で怒鳴った。




