第十四話
冒険者ギルドに到着すると、ランクが一番高いキマラが報告する。
話好きの彼女らしく、間に余計な話がやたら入るので、受付嬢がうんざりした顔をし始めた矢先だった。
「この子がたくさんのオークに追いかけられていて、あっ、オークってどうしてあんなに太って……」
「オークが複数ですか!?」
「そうね。三体は私たちでやっつけたけど」
「えっ!? 倒したのですか!!」
話の途中だったキマラは、突然、カウンターから身を乗り出した受付嬢にびっくりする。その声は冒険者ギルド内に響き、周囲の冒険者たちも騒めきだした。
「と、とりあえず報告して緊急クエストを出さないといけませんね」
俺たちは別室へ案内されると、ここまでのいきさつを色々と訊かれる。
どうも俺たちのランクだと普通はオーク一匹でもかなり厳しいらしい。と、いうか普通は死んでもおかしくないと言われて怒られた。
それが今回は三体討伐である。
俺のスキルのことは誤魔化しつつ、結局キマラがなんとか倒したことで納得してもらう。
そして、部位は持って帰れなかったものの、他の冒険者のそれらしきものを見たという報告と俺たちの詳しい話から、オークがいるのはまず間違いないだろうということになった。
「詳細は分かりました。オークは人型モンスターでも集団で行動すると聞いてます。なので、まだ数がいると考え、討伐隊を結成する緊急クエストを発動します」
ギルド職員は真面目な顔でそう言うと、俺たちが話したことをまとめた紙を抱えて、扉から出て行った。
俺たちは応接室で三人取り残される。
「これって、帰っていいのかな?」
「ここで待ってるように言われなかったし、いいんじゃないかしら」
「うー、私、腹ぺこなんですよ」
最後に言ったメロンの言葉に、俺とキマラは思わず笑ってしまう。そして、三人で冒険者ギルドを後にすると、遅めの昼食を食べたのだった。
☆
翌朝、討伐隊を組んだ冒険者たちが、昨日の遭遇地点へと向かうことになった。俺たちは討伐隊には参加せず、宿の部屋から彼らが町を出発するのを見送ることにした。
「大丈夫かな?」
「大丈夫よ。私よりベテランの冒険者や傭兵あがりもいるし」
キマラは昨日の戦闘で使った武器や防具を丁寧に整備しながらそう言った。矢もある程度は自分で作って補充するらしい。
器用にナイフで木を削ると、鳥の羽や糸を使って矢羽を丁寧に仕上げていた。
「凄い器用なんだな」
「こんなの簡単よ。あっ、でもまっすぐ飛ぶ矢を作るのはコツがいるかしら? 私は魔法で補正してるけど」
そう何でもないことのように言うと、次に俺のナイフを取り出した。
布で丁寧に拭き、小瓶を取り出すと何やらオイルを塗り始める。
「ご、ごめん。俺のナイフまで」
「いいのよ。どうも体を動かしていないと落ち着かないのよね」
ちゃんと覚えないといけないな。そう思って彼女の手元を見ていたが、実際、その作業が早すぎて良くわからなかった。
「よーし、これでばっちりね。あら、もう水がないじゃない」
そう言って空になった水差しを持つと、キマラは部屋から出て行こうとする。それに「俺が汲みにいくよ」と声をかけようとした時だった。
キマラが扉を開けると、目の前になぜかメロンが立っていた。
「メロン、もう体は大丈夫なの?」
彼女は終始、元気そうにしてはいたが、昨日倒れたばかりだ。彼女の体を心配し、キマラはそう声をかける。
すると、メロンは彼女を見上げるようにして口を開いた。
「はい、私は大丈夫です。あの……お姉さま方は討伐隊に加わらなかったのですか?」
「参加しなかったわよ」
メロンはその返事を聞くと、キマラの体を触りだす。その手は腰やお尻、胸の谷間にも入り込んだ。
「ちょっ、いやっ。水差し落としちゃう」
キマラは頬を赤らめながら、襲い掛かる触手のようなメロンの手の動きに身をよじって抵抗する。
そして、なんとか水差しをテーブルに置くと、両手で自分の体をガードした。
「よかったです……どこか怪我をされたわけではないのですね」
メロンはそっと胸を撫でおろす。
「だ、大丈夫よ!」
キマラはそう強めに返事をすると、「もう、変な趣味があるのかと思っちゃったじゃない」とつぶやいた。
「キマラお姉さまは大丈夫と」
メロンはその言葉とともに、まっすぐ俺の方へ向き直る。そして、ズカズカと向かってきた。
「メ、メロン」
その行動に俺が呑気にメロンへ声をかけた瞬間だった。
「に、逃げてヒロ」
キマラの叫びに俺は身の危険を感じ、部屋の奥へ逃げ出す。だが、メロンは素早く俺の前へと回り込み、両手を掴んでベッドへと押し倒した。
鍛え抜かれた剣士の力はこんなに強いのか。
「おとなしくしててください」
身動きできない俺に向かって、彼女は真剣な顔で言った。そして、キマラの時と同じように、俺の体もその両手で遠慮なくまさぐる。
時々、かかる彼女の吐息。そして、この体になってから誰にも触られたことのない箇所の感触に――っ、逃げだしたくなる俺。
「ゆ、ゆるして……」
思わず漏れた哀願するような言葉。それを聞いたキマラは鬼の形相になると、メロンに向かって怒鳴り出す。
「もう、私のヒロに何してるの!!」
彼女はメロンを両手で懸命に引き離そうとする。それでもしばらく俺の体を触り続けたメロンだったが……。
「ふう、安心しました。ヒロさんも無事……」
そう言って両手を離したところで、キマラが頭にゲンコツをくらわした。
痛そうな鈍い音が部屋に鳴り響く。
「いったーい、何するんですか」
「あんたがヒロに……そのエッチなことをするから怒ってるの!!」
「エッチ……そ、そ、そんな目的で体に触ったんじゃないです!」
メロンは自分がしたことを思い出し、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに下を向いた。
「もう、わかってるわよ。でも、もうわかったでしょ、ヒロも私も何ともないから」
「はい。討伐隊に参加しないから、どこか怪我でもしたのかと思って、心配で……ご、ごめんなさい」
メロンはそう謝ると、何度も何度も俺たちに頭を下げたのだった。




