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第十三話

 女剣士はオークに向かって勢いよく剣を抜く。


「危ない!」


 その行動に何ができるわけでもないのに、俺は思わず飛び出した。その瞬間、彼女は剣を振り上げると敵に駆け込む。


「桜華一閃!!」


 その気合の入った叫びと同時に彼女は剣を振り下ろした。だが、オークが手に持ったこん棒を一振りすると、体ごと弾き飛ばされる。

 地面へと転がる剣士。

 それを見たオークたちは、彼女へ群がった。


「どいて!!」


 後ろからキマラの声が鳴り響く。その声に俺は地面へと伏せた。

 もの凄い風切り音とともに、矢が一直線の光線を描き、巨大猪の時のようにオークを貫通する。驚いて動きの止まった他のオークたちも、キマラは次々と仕留めていった。


「よ、よかった」


 剣士はその様子を見届けた途端、安堵の声を漏らすと気を失うのだった。


 ☆


 倒れてしまった女剣士を安全なところまで移動させると、そっと地面に寝かせた。

 戦いで疲れ切った俺たちも、近くの倒木に腰を下ろす。


「ねえ、ヒロ」


 キマラが何か言いたげに左手を伸ばすが、その手を途中で止めた。

 もちろん俺は、彼女を信頼している。だが、この能力のことを話せば、キマラを何かのトラブルに巻き込む危険にさらしてしまうかもしれない。

 俺は彼女のことも心配して、言おうかどうか悩んでいた。


「ご、ごめん。実は……」


 嘘をつくか、本当のことを言うか。


 だが、俺が相当悩んでいると見たのか、キマラはひょいと立ち上がる。


「いいわ。無理に言わなくて」


 そう言って、こちらを向いた彼女。それに俺はこくんと大きくうなずいてみせる。

 とりあえず、黙っておこう。

 そう思った瞬間、寝ていた剣士がむくっと頭をあげ、その茶色いショートヘアを大きく揺らす。


「あっ、気がついたみたい」


 キマラのその声に、剣士の彼女は頭をこちらへ向けた。そして笑顔を見せたかと思うと、両手を前に組む。


「ああ、私は天国に来たのですね。美しい天使様」


 俺たちに向かってそう言うと、彼女はうっとりとした表情で青い瞳を閉じた。


「私は天使じゃないわよ」


 キマラがそう答えると、彼女はすっと俺を指差した。


「だって、お二人ともこの世のものとは思えないほど美しいので。ここは天国に間違いないです」


 そう言うと彼女は再び両手を組み、祈りを捧げるように膝をつく。そして、続けてこう言った。


「ああ、お二人のしたキスも何かの儀式だったのですね……私は幸せな最後を迎えられたのですね」


 あれを何かの儀式と勘違いしてる……俺がそう思った時だった。彼女は両手を広げると俺に向かって走り出す。

 明らかに俺に抱き着こうとしている。そう思った俺は彼女に捕まる寸前に左へと避けた。

 すると、彼女の両腕は大きく宙を掴むように空振りした。


「て、天使様?」


 俺の行動に意外そうな顔をする彼女。その彼女に向かって、俺はあきれたように腰に手をあてた。


「お、俺は天使じゃないし、お前はまだ生きてるぞ」

「えっ!?」


 彼女は俺の言葉に目を大きく開くと、パチンと自分の頬を強く叩く。

 痛いだろ、それ。

 瞬間的にそう思えるくらいの音が周囲に響き、俺とキマラは顔をこわばらせる。


「だ、大丈夫か?」

「い、痛いです。本当、生きてますね」


 そうつぶやくと同時に、彼女はキマラの背中へと視線を移し、何やら探し出した。


「な、何?」

「本当に羽がないんですね。美しい方だったので天使かと」

「そんなわけないじゃない」


 キマラは冷静にそう答えると、彼女がなぜオークに襲われていたのかを確認した。


 ☆


 彼女の名前はメロンと言い、森に山菜を取りに来たところ、いるはずのないオークたちに襲われたのだという。


「あの、私からも一ついいですか?」


 彼女は自分のしている金属製の胴鎧に手をあてると、まっすぐこちらへ視線を向ける。

 装備は少し幅が広めの長剣に、鎧以外は軽装の剣士といったところだ。彼女も冒険者なのかもしれない。


「お二人は……その、死ぬことを覚悟してキスをしてたのですか?」

「あ、あれは……」


 見られていたのに気がつかなかった、というより余裕がなかったというのが正解だろう。

 さてどう答えようか……俺が考えていると、キマラが静かに言った。


「忘れなさい」

「えっ、でも……」

「いいから、忘れなさい!」


 キマラは顔を真っ赤にしながら、メロンに向かって威圧する。それに一瞬、何か言いたげに戸惑うも「はい」とメロンは答えた。

 納得いかないながらも、命の恩人のいうことは断れなかったのだろう。


 ☆


 俺たちは念のため、三人一緒に町まで戻ることにした。


「あ、あの」


 途中、メロンは前を歩く俺たちに話しかける。


「なに?」


 さっきは少し強く言い過ぎた。そう思ったのか、キマラは後ろを振り向くと優しくそう答えた。


「お、お二人を『お姉さま』とお呼びしてもいいですか!!」

「えっ!?」


 俺たちは彼女の気合の入った申し出に、驚くとともに顔を見合わせる。


「だって、こんなに美しい人に出会ったことなくて……しかも二人!!」


 嬉しそうにそうはしゃぐと、俺たちの間に駆け寄った。そして顔をぐいっと近付けると、キラキラとした目で俺とキマラの顔を交互に覗き込む。

 いやあ、ぐいぐいくる子だな。

 俺がそう思い、彼女の積極的な態度に少し身を引いた時だった。


「もう、しょうがないわね。いいわよ」

「えっ、でも」


 キマラの答えに俺は驚き、逆にメロンは大きく両手を上にあげて喜びだす。


「やったー!」


 子供のようにはしゃぎだした彼女に、キマラは強い口調で注意した。


「ただし! さっきのキ……スのことは内緒だからね」


 キスのところを恥ずかしそうに、体をくねらせながら言うキマラ。

 だが、メロンはそれに元気よく答えた。


「はい! はい! はい! あの『キス』のことは『ぜええええったい』に誰にも話しません!!」

「もう、そんな大声でしかも強調して言わない!」

「はい」


 彼女に怒られながらも、メロンは満面の笑みを浮かべていた。

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