第十二話
森の中というより山道に近いだろうか。その木々の中を通り抜けるとなだらかな傾斜地に出る。
そこに小さな草地があった。
ここだけあまり木が生えておらず、太陽の光がよく当たっている。
「前に来た時に見つけたの」
「へー、そうなんだ」
キマラだけが知っている薬草の採取ポイント、そんなところか。
俺たちは少し休憩をすると、さっそく薬草採取を始めたのだった。
☆
「あっ、それは違うわ」
そういうと俺の後ろから、草を抜こうとした手をキマラは掴んで止めた。町中で手を繋いでいたのと違い、こうやって触られると思わずドキッとする。
――ちちち近い!?
彼女の整った顔が近づき、いい匂いが鼻を刺激する。
その状態で彼女は周辺の何かを探し出した。
そして、視線を止めた彼女は、右の草の方へと俺の手を誘導すると優しく耳元でささやいた。
「こっちよ、ねっ」
「う、うん」
ドキドキして顔が熱くなるのを感じながら、そう返事をする。そして、キマラに言われた草を採取すると革袋へと入れた。
「後で私が見ておくから、迷ったらかまわず袋に入れちゃっていいわよ」
「うん、ごめん」
「いいの。最初はみんな分かんないから」
彼女はそういうと俺から離れ、再び薬草を探し始めた。
それから、もう一時間近くになるだろうか。
袋の半分くらいまで入った草を見て、『たぶん、半分ぐらいは薬草だろう』と似たような草がたくさんあることに少し不満をいだいた時だった。
「な、なんだ!」
どこからか分からないが、大きな物音と、かすかに助けを呼ぶ声が聞こえてきた。
それにキマラは立ち上がると、声のした方向へ駆け出す。
俺はその行動に、慌てて置いてあった革袋を手に取ると後を追った。
「はあ、はあ」
どこまで走る気だ。
そう思った時、彼女は森を抜けた場所で立ち止まる。先は下りの急こう配になっており、眼下の木々の間には道が見えた。
そこで数体のモンスターに追われている若い剣士を見つける。剣を携えていることから、彼女が剣士であることは俺にもすぐに分かった。
「ちょっと、これお願い!」
その言葉と同時に、こちらに向かって背負い袋を投げるキマラ。俺がそれを受け取ったのを確認すると、彼女はそのまま崖のような山肌を駆け降りた。
「ちょっ……行っちまった」
俺も行く。
そう言おうと思ったが、彼女の背中は見る見る小さくなっていく。
「もう、どこから降りればいいんだ」
周囲を見渡しても降りる道はなさそうだった。俺は一度地面に置いた荷物を再び手にすると、覚悟を決めた。
☆
さすがに同じルートはきついと思った俺は、少しずつ下りやすいところを見つけては進んで行くことにした。
そして、苦労の末にキマラを見つけ出した。
「おーい、もう、下りるの大変だったんだからな」
「ちょっ! ヒロなんで来たのよ!」
そのキマラの驚きが混じった怒りの声に、俺は少したじろぐ。
俺だって、やっとの思いで下りてきたんだぞ。俺は彼女の態度に、少しは言い返そうと思った。
「なぜって……」
俺がそこまで言いかけた、その時だった。
森の中から豚のような鼻と牙がある、がたいのいい人物が三人現れる。いや、あれは人ではない、アニメやゲームとかでよく見るオークだ。
現れた三体のオークの先頭の目には、矢が刺さっている。奴らはこん棒を振り上げると、俺たち目がけて突然駆け出した。
「もう、一人でなんとかするつもりだったのに」
キマラは俺の手を掴むと、森の奥へと駆け出した。転びそうになりながらも、必死にそれについていく。
「だって、一人じゃ無理だろ」
「もう、あんたがいてどうなるの!」
キマラの怒鳴り声に俺も勢いで声を荒げた。
「あの子は無事なのか?!」
「あの子は私が逃がしたの!」
彼女はそんな中でも下を指差し、そこに木の根がでていることを指し示すと「跳ぶわよ」と言って誘導してくれた。
二人は同時にそれを跳び越える。
「なあ、あれオークだろ」
オークという言葉が通じるか分からないが、他の名前は浮かばなかった。
オークは序盤に出てくる比較的弱いモンスターじゃないのか。少なくともゲームではそうだ。
「そうよ」
「オークって弱いモンスターなんだろ?」
「もう! そんなわけないじゃない!」
俺の言葉に思わずキマラがこちらへと振り向いた。その時、足元にあった草に足をとられ、二人同時に前へと勢いよく転げてしまう。
「ヒロ、怪我はない!?」
「だ、大丈夫」
俺の言葉に安心したように彼女は笑みを浮かべる。だが、足の遅いオークたちをだいぶ離したとはいえ、追いかけられてることには変わりなかった。
「すぐ逃げて、私がなんとかするから」
「で、でも」
「いいから! 逃げて!」
「でも、かなり強いんだろ!」
まっすぐ見つめる俺に、キマラは大きくうなずいた。
「だからヒロだけでも」
「なあ、あのスパイクボア(巨大猪)を倒した技なら倒せるか?」
その言葉に一瞬、驚きの表情を見せるキマラ。
「えっ……ええ、勝てるわ。でも!」
彼女は「そんなの無理」とでも言いたかったのだろう。だが、俺はその台詞を邪魔するように、強引にキスで唇をふさいだ。
突然のことにキマラは目を丸くする。
「ちょっ……こんな時に何してるのよ!」
顔を真っ赤にしながらも、どこか嬉しそうに彼女は俺を突き放した。
だが、自分の状態が変化していることに気がついたのだろう。戸惑いを隠せない様子で言った。
「えっ、これ魔力が……いける! いけるわ!」
彼女は弓を手にすると、すぐさま矢を引いて待ち構える。
そして、矢を放とうとした瞬間だった。
「に、逃げてください!!」
そう叫んで、俺たちとオークとの間に駆け込んだ人物。それは逃げたはずのあの女剣士だった。




