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悪役令嬢に転生したので、ヒロインを殺します――私は“悪”だから  作者: フーマ


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魔力過敏症

 キルザに案内され、私たちはラベンの部屋へ入った。


「はぁ……はぁ……」


 ベッドの上で、ラベンが浅く息をしている。

私たちに気づいたのか、少しだけ顔を上げた。


「あれ……お客さん?」


 そして、私を見ると表情が明るくなる。


「エラーラおねえちゃん! また来てくれたの?」


「ええ。今日は私のクラスメイトを連れてきたわ」


 私は隣にいるアンラへ視線を向けた。


「この子がアンラよ。あなたの体を診てもらうために来てもらったの」


「あなたがラベンちゃん?」


「そうだけど……。あなたが私の体を?」


「うん、アンラ。アンラ・ダグネスって言うよ」


 アンラはラベンの顔を覗き込む。


「じゃあ、早速見せてもらおうかな」


 そう言って、アンラはラベンへ近づいた。


 そして――。


「…………」


 ラベンの体に触れようとする。


 いや。その手つき、どう見ても怪しいんだけど。


「おい! 俺の妹に何をするつもりだ!」


 当然、キルザが声を荒らげた。


「ひぃっ!」


 アンラが肩を跳ねさせる。


「た、ただ……見るだけです」


「見るだけで、なぜそんな手つきになる?」


「えっと……魔力の流れを調べるために……」


「本当だろうな?」


「ほ、本当です!」


 アンラは私の後ろへ少し隠れた。

……この子、本当に大丈夫かしら。


「おい」


 キルザがこちらを見る。


「こいつは本当に大丈夫なんだろうな?」


「ええ。魔術の才能だけは確かのはずだから……多分」


「多分ってなんだ!」


「…………」


 でも、今はこのアンラに頼るしかない。

 とりあえず、アンラにはラベンを診察をしてもらうしかないわね。


◇


「うーん……なるほどね」


 しばらくして、アンラが顔を上げた。


 どうやら、ラベンの状態を一通り調べ終えたらしい。

ラベンは疲れたのか、ベッドの上で目を閉じていた。

少し息は荒いものの、先ほどより少し落ち着いている。


「どうだったの?」


 私はアンラに尋ねた。


「すごいね、ラベンちゃん」


「すごい?」


「うん。この小さな体で、よくこれだけの魔力に耐えてるよ」


 アンラはラベンを見つめながら続けた。


「前にも少し説明したけど、改めて魔力過敏症について話すね」


「わかったわ」


「この子は、体の大きさに対して宿している魔力が膨大すぎるんだよ」


 アンラは自分の胸元に手を当てた。


「本来なら、魔力は体の中を循環しながら、少しずつ体に馴染んでいくんだよ。でも、

 この子の場合は魔力が多すぎて、体が受け止めきれていない」


「受け止めきれていない……?」


 キルザが聞き返す。


「そう。体の中でうまく処理できない魔力が、余ったままになっているんだよ」


 アンラはラベンの手元へ視線を落とした。


「その余った魔力が、体や神経にまで影響を与えている。

 だるさやめまい、頭痛なんかも、そのせいだと思う」


「…………」


「私の時も似たようなものだったけど、ここまでひどくはなかったね」


「そういうことだったのか……」


 キルザは、ようやく納得したように頷いた。けれど、すぐに表情を引き締める。


「それで、ラベンは治せるのか?」


「うーん……」


 アンラは少し考え込んだ。


 そして――。


「ちょっと試してみるね」


 ラベンの手を取った。


「…………?」


 次の瞬間。ラベンの荒かった呼吸が、少しずつ穏やかになっていく。

強張っていた表情も緩み、まるで深く眠っているかのようになった。


「おお……!」


 キルザの顔に、希望の色が浮かぶ。


「治ったのか?」


「ううん。治ってないよ」


「何?」


 アンラはラベンの手を握ったまま答えた。


「これは一時的に、ラベンちゃんの魔力を私の方にも少し流しているだけ」


「アンラにも?」


「うん。ラベンちゃんの体に集中している魔力を、私の方へ分けている感じかな」


 そう言って、アンラはラベンの手を離した。


 すると――。


「……はぁ、はぁ……」


 先ほどまで落ち着いていた呼吸が、再び荒くなっていく。


「…………!」


 キルザが息を呑んだ。


「そんな……」


「ごめんね。今のは治療じゃないよ」


 アンラは申し訳なさそうに言った。


「手を握っている間だけ、少し楽にできるってだけ」


「なら、ずっと握っていればいいんじゃないのか?」


 私は素直な疑問を口にした。けれど、アンラは首を横に振る。


「それは無理だよ」


「どうして?」


「ずっとラベンちゃんの魔力を受け止め続けるんだよ? 

 私だって疲れるし、集中が切れたら危ないから」


「危ない?」


「うん。ラベンちゃんの魔力の流れを読みながら、少しずつ自分の方へ流さないといけないんだ。

 かなり集中力がいるし、体力も使う」


 アンラは自分の手を見つめた。


「私だから、これくらいはできるけど……長時間は無理だよ」


「…………」


 キルザの表情が曇る。


「つまり、治せないということか?」


「うーん、難しいね」


 アンラは正直に答えた。


「私が手を握っている間だけ楽になる。でも、離したら元に戻っちゃう」


「そうか……」


 キルザは、眠っているラベンを見つめた。

その表情には、隠しきれない落胆が浮かんでいた。


「…………」


 ……残念ね。


 この子は、ゲームの設定では生まれた時からこの病気を抱えていた。

それなのに、ゲームの中ではロインによって治されていたはず。

ロインがラベンの手を握り、優しい表情を浮かべる。


 あのイベント。


 どこかで見たことがあるような……。


「…………」


 私は、アンラの手を見る。

ラベンの手を握っていた、あの仕草。


 そして――。


(あっ……!)


 思い出した。

そうだ。ゲームの中で、ロインはラベンの手を握っていた。


 あの時は、ただ手を重ねているように見えたけれど。


(もしかして……)


 ロインは、ラベンの膨大な魔力を受け止めていたんじゃないかしら。

確か、そんな描写だったはず。設定資料にも書いてあった気がする。


『魔力過敏症』


 そんな小さな記述が。

ゲーム本編では病名すらほとんど出てこなかったから、すっかり忘れていた。


(だから、ロインの魔術と知識のポイントが高いと、治療イベントが発生するのね……)


 魔力を受け止めるだけの技術。

そして、ラベンの魔力をどう扱えばいいのか理解する知識。

その両方が必要だった。


(なるほど……。そういう仕組みだったのね)


 私は、アンラへ視線を戻した。


「ねえ、アンラ」


「ん?」


「そのラベンちゃんの魔力って、誰かが受け止めてあげることはできないのかしら?」


「受け止める?」


「ええ。さっきみたいに、誰かの体に魔力を流すような感じで」


「それは、かなり難しい技術だよ」


 アンラは首を傾げた。


「まず、ラベンちゃんの魔力の流れを完全に読まないといけない。

 私でも、少しなら分かるけど、これだけの魔力を全部把握するのは無理だよ」


「そうなの?」


「うん。さっきの方法だって、かなり集中して、少しずつ流していたんだから。

 ずっと続けるなんてできないよ」


「…………」


「それに、魔力を受け止める側にも負担がかかる。誰にでもできることじゃないね」


「そうか……」


 キルザが小さく呟いた。また、表情が暗くなる。

アンラはラベンを見つめながら、ぽつりと言った。


「何か、魔力を受け止めてくれる物でもあればいいんだけどなぁ……」


「物……?」


 私は、その言葉を繰り返した。

人の代わりに魔力を受け止める物。

そんな道具があれば、アンラの体力や集中力に頼らなくても済むかもしれない。

けれど、そんな都合のいい物があるのだろうか。


「…………」


 物。道具。


 珍しい品。


 それを探すなら――。


(商人……)


 ふと、一人の男の顔が浮かんだ。


「もしかしたら、アイツなら知ってるかも」


「アイツって誰だ?」


 キルザが私を見る。


「私には商人のつてがあるのよ」


「なんだ。ただの商人か。貴族なら誰だって商人のつてくらいあるだろう」


「ただの商人じゃないわよ」


 私は小さく笑った。


「闇の商人なのよ」


「…………闇商人ってことか?」


 キルザの眉が、わずかに動く。


 そう。アイツなら、普通の商人が扱わないような品物も知っているはず。


 魔力を受け止める道具。

そんな変わった物についても、何か情報を持っているかもしれない。


(ヤーショル……)


 私は、心の中でその名前を呼んだ。


(あなたなら、何か知っているわよね?)

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