アンラ攻略チャート
私はアンラを見る。
「……だった?」
「うん」
「過去形?」
「そう」
アンラは頬杖をついたまま、あっさりと頷いた。
「私も昔、その病気だったから」
「…………」
私は一瞬、言葉を失った。
「あなたも?」
「うん」
「魔力過敏症?」
「そう」
「…………」
私はアンラを見つめる。
ゲームでは、アンラが魔術に関して天才的な才能を持っていることは知っていた。
でも――。
こんな話は知らない。
「じゃあ……どうやって治したの?」
「自分で」
「…………」
アンラは、何でもないことのように答えた。
「自分の魔力の流れを調べて」
「どこで過剰になってるのか確認して」
「そこを調整した」
「そしたら治った」
「…………」
「まぁ、私の場合は少し軽症だったから」
「自分でなんとかできたけどね」
「…………」
私は、思わずアンラを見つめた。
(すごい……)
私はゲームの知識として、魔力過敏症という病気の名前を知っている。
けれど。
実際に患者はラベンしか見たこともない。
症状から、どんな状態なのかを判断することもできない。
それなのに――。
「その子」
アンラが口を開いた。
「何歳くらい?」
「うーん……そこまでは分からないけど」
「小さい女の子よ」
「小さい女の子……」
アンラは、少しだけ考え込む。
「じゃあ、あまり体力がないと仮定して……」
「その子って、普段寝込んでる感じ?」
「そうだと思うわ」
「じゃあ――」
アンラは指を折りながら考え始める。
「子供ながら、かなりの魔力が体の中を流れていると推測して……」
「神経とか、筋肉とか」
「あと、脳とかにも流れちゃってるんじゃない?」
「…………」
「だから、体を動かしたり、大きな刺激を受けたりすると――」
「一気に症状が出て、気絶しちゃう」
「…………」
アンラは、そこで少しだけ黙った。
「なるほどね」
「ふむふむ……」
「なるほど」
そして――。
「だいたい分かった」
「…………」
私は、しばらくアンラを見つめていた。
(すごい……)
(少し話しただけなのに、ここまで分かるものなのね……)
私には、実際にその子を見ても分からない。
それなのにアンラは。
ほんの少し話を聞いただけで、その子の状態を頭の中で組み立てている。
やっぱり――。
この子は、本物の天才なんだ。
「うーん……」
アンラが、もう一度考え込む。
「…………?」
「考えたら――」
アンラは、少しだけ顔を上げた。
「実際、その子のこと見てみたくなっちゃったな」
「…………!」
私は思わず目を見開いた。
(この流れは!)
(助けてくれるパターン!)
(あのアンラが!)
(ゲームにもない、物凄いイベントよ!)
「だったら!」
私は思わず身を乗り出した。
「…………」
アンラが私を見る。
「いや」
「…………え?」
「でも、学校の外に出るのがめんどくさいのが勝ってるし」
「…………」
「見なくても、大体予測できたからいいかな」
「…………え」
「あと、自分の魔法の開発にも没頭したいし」
「…………」
「その子には悪いけど」
「そういうことだから」
「…………え」
私は固まった。
「…………」
「…………え?」
アンラは、何事もなかったかのように机へ頬杖をついた。
(アンラ・ダグネス……恐ろしい子だ)
(さっきの流れは、ほぼ助ける流れだったでしょうに)
(なのに――)
(めんどくさいが勝ってるから、助けない!?)
(そんなことがあるの!?)
(この子にとって、ラベンは確かに他人だけど)
(子供が昔、自分と同じ症状にかかっていたと聞いたら、普通は助ける流れでしょうに!)
私はアンラを見る。
「すぅ……すぅ……」
寝ている。
「…………」
(この子)
(純粋な……)
(悪だな)
そして――。
そのまま午前中の授業が終わった。
場面は、食堂へと移る。
「…………」
食堂へ入ると。珍しく、アンラがいた。
「…………あ」
私は、アンラを見る。
(そういえば)
(今日、チョコレートケーキが出る日なのね)
どうやらアンラも、それを知っていたらしい。
アンラは料理を受け取ると、そのままテーブルへ座った。
私は少し考えて――。その隣へ座る。
「…………」
アンラがこちらを見る。
「……何?」
「いやぁ……」
私は笑う。
「今朝の話なんだけど」
「…………」
アンラの顔が、くわっとこちらへ近づいてきた。
「……今は至福の時」
「…………」
「邪魔しないで」
「…………」
「あと、その話はめんどくさいから行かないよ」
「…………」
私は少しだけ肩を落とした。
「はぁ……分かったわよ」
そして――。
私も昼食を食べ始める。
「…………」
まぁ、それもそうよね。
所詮はアンラにとって、ラベンは他人。
自分には関係のない子供。
わざわざ学校の外へ出てまで治療するメリットなんて、アンラには何もない。
(仕方ないわね……)
そう思っていると――。
「やっぱり」
アンラがケーキを一口食べる。
「チョコはケーキで食べるのが至福」
「…………」
アンラは、とても幸せそうな顔でケーキを食べていた。
普段は眠そうな目が。今だけは、少しだけ輝いている。
「…………」
私は、その様子を眺める。
そして――。
「…………ん?」
ふと、何かが引っかかった。
「ねぇ、アンラ?」
「……邪魔しないでって言ったよね」
「違うわ」
私はケーキを見る。
「このケーキ、あげようと思って」
「…………」
アンラの動きが止まった。
「え?」
ゆっくりと私を見る。
「……本当に?」
「ええ」
「私に?」
「そうよ」
私は頷く。
「あなた、好きでしょ?」
「うん」
アンラは即答した。
「好きだけど」
そして、首を傾げる。
「エラーラも好きでしょ?」
「ええ」
「じゃあ、なんで?」
「…………」
私は少しだけ笑う。
「まぁ……あげようと思って」
本当は――。
(めちゃくちゃ食べたいけど)
けれど。ラベンのためなら。
これくらい――。
「そういうことなら」
アンラは嬉しそうに笑った。
「いただきまーす」
「…………」
アンラがケーキを食べ始める。
「…………」
私はアンラを見る。
「…………」
アンラの手が止まった。
「……なんで見てるの?」
「…………」
「ニコニコして、気持ち悪いよ」
「…………」
私は笑顔のまま固まった。
「…………」
「……これ食べても、私、外に出ないから」
「ぱくっ」
「えっ」
アンラは、そのままケーキを食べる。
「それはずるいわよ!」
「ん?」
「返しなさい!」
「もう食べた」
「まだ残ってるでしょう!」
「…………」
私はアンラからケーキを取り返そうとする。
「ちょっと!」
「やだ」
「アンラ!」
「うーん……」
アンラはケーキを抱える。
「今日はついてる日だ!」
「意味が分からないわよ!」
「ふふ」
「返しなさい!」
「やだー」
「もう!」
結局――。
もみくちゃになりながらも。
アンラは私のケーキを、全部食べた。
「…………」
「…………」
「私のケーキが……」
アンラは、満足そうにお腹をさする。
「上げるって言ったじゃん」
「…………」
「ケーキ、おいしかった」
「…………はぁ」
私は大きくため息をつく。
ケーキをあげて、アンラに協力してもらう。
そんな作戦だったのに。
見事に失敗した。
(やっぱり……)
(食べ物だけじゃダメなのね)
「はぁ……」
私がもう一度ため息をついた、その時。
「でも――」
アンラがぽつりと呟いた。
「チョコのケーキ」
「…………?」
「ホールでいっぱい食べたいなぁ……」
「…………」
「一個じゃ足りない」
「…………」
「いっぱい食べたい」
アンラは、空になった皿を見つめている。
「…………」
「そんなの――」
私は思わず言った。
「三ツ星でもないと、作ってもらえないでしょ……」
「…………」
その瞬間。
私は――。
「…………」
考えた。
「…………」
チョコレートケーキ。ホールでいっぱい。
「…………」
そして。
頭の中に、一つの考えが浮かぶ。
ケーキを。用意する。
「…………」
私は、ゆっくり顔を上げた。
「…………」
アンラが私を見る。
「どうしたの?」
「…………」
私は――。
目を見開いた。
「それだっ!」
「…………?」
食堂中に、私の声が響いた。




