↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生したので、ヒロインを殺します――私は“悪”だから  作者: フーマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/45

廃墟

 カリバー学園では、五日間学校へ通い、二日間休みになる。

土曜日と日曜日がこの休みである。


 ゲームの中でも、この二日間は貴重な時間だった。

攻略対象と街へ出かけたり。学園で勉強したり。

イベントを探したり。


 何もしなければ、何も起こらない。


 逆に言えば――。

自分から動けば、何かが起こる。


 だからこそ。

この二日間をどう使うかは重要だった。


 そして今回。

私には、行かなければならない場所がある。


 ――廃墟。


 キルザ・アショルと出会う場所。


 問題は。

ここがゲームではないということだった。


 ゲームなら、マップが表示され、休日になれば行きたい場所を選ぶだけでいい。


 街へ行く。学園へ残る。イベントへ向かう。

そんな選択肢が、画面に表示される。


 けれど――。

現実には、そんな便利なものはない。

廃墟へ行くなら。そこまでの道を調べて。


 馬車を用意して。

実際に移動しなければならない。


「…………」


 しかも。

廃墟は、かなり遠い。

歩いていくなんて論外。

私一人で馬車を用意するのも難しい。


 だったら――。


「ナイナね」


 私はそう呟いた。

すぐに手紙を書く。余計なことは書かない。


『二日後の学校が終わる時間に、廃墟へ向かう手はずをお願い』


 それだけ。

場所については、ゲームの中で覚えていた情報を書いておいた。


 ナイナなら、それで十分だろう。

私は手紙を封筒へ入れる。


 そして――。

ナイナへ送った。


 ◇


 二日後。

学校が終わる。

生徒たちは、それぞれ帰路についていく。


 私も校門へ向かった。


「…………」


 明日から二日間は休み。

この世界では、それが当たり前だった。


 けれど――。


 前の世界では違った。


 土曜日。日曜日。

世間では休日と呼ばれている日。


 私は、普通に仕事をしていた。

朝から出勤して。

平日と変わらない仕事をして。


 帰る頃には、もう夜。


「…………」


 休日なのに。休んだ記憶なんて、ほとんどない。

むしろ。休んでいる人たちを横目に、働いていた。


 ……嫌な記憶だ。


「まあ……」


 私は小さく息を吐く。


「今は関係ないわね」


 そう呟いて、校門の外へ目を向けた。


 すると――。


「あ」


 小さな馬車が一台、こちらへ向かってきた。

馬車が私の前で止まる。


「エラーラ様!」


 御者席にいたナイナが、こちらへ駆け寄ってくる。


「遅くなって申し訳ありません!」


「……ちゃんと来るか不安だったわ」


「本当に申し訳ありません!」


「いいわ。とりあえず、乗りましょう」


「はい!」


 私は馬車へ乗り込む。ナイナも御者席へ戻った。


「それでは、出発しますね」


「お願い」


 馬車が動き出す。


 カタ。


 カタ。


 カタ。


 夕暮れの道を、馬車が進んでいく。


「…………」


 しばらくして。私は、ふと気づいた。


「……というか」


「はい?」


「なぜあなたがまだ馬車を引いてるのよ」


「…………」


 ナイナが少しだけ黙る。


「……それは」


「あなた、ずっと私のところまで来て、今度はそのまま廃墟まで行くつもりでしょう?」


「はい」


「なんで?」


「慣れちゃいましたから……」


「慣れちゃいましたから、じゃないわよ」


 私は呆れてしまう。


「ウィクス家、少しは余裕が出てきたんでしょう?」


「まあ……少しは」


「だったら馬車の使用人くらい雇いなさいよ」


「…………」


「なんで貴方がやってるのよ」


「それは……」


 ナイナは少し考えてから。


「私以外がやるのは、問題では?」


「…………」


「その……」


「何?」


「エラーラ様をお迎えに行くのに、他の者を使うのもどうかと思いまして」


「…………」


 私は少しだけ目を細める。


「……あなた」


「はい?」


「私の正体を知ってから、言うようになったね」


「…………」


 ナイナは少しだけ笑った。


「そりゃ、悪ですからね。私も」


「…………」


 私は思わず黙る。


 そして――。


「ふふっ」


 小さく笑った。


「随分と染まったものね」


「エラーラ様のせいですよ」


「私のせい?」


「はい」


「……まあ、否定はしないわ」


 馬車は、そのまま進んでいく。


 カタ。


 カタ。


 カタ。


「それで」


 しばらくして、ナイナが口を開いた。


「エラーラ様」


「何?」


「一つ、気になっていたことがあるのですが」


「何かしら?」


「なぜ、廃墟なのでしょうか?」


「…………」


 私は少しだけ考える。

ナイナからすれば、当然の疑問だろう。

わざわざ休日を使って。馬車まで用意して。


 向かう先が――廃墟。


「ま」


 私は窓の外を眺めながら答えた。


「新しい武器の調達、といったところかしら」


「…………武器、ですか?」


「ええ」


「廃墟に武器があるのですか?」


「そういうことじゃないわ」


「……?」


 ナイナが首を傾げる。私は小さく笑った。


「そのうち分かるわ」


「…………」


「今は、それだけ分かっていればいいの」


「はい」


 ナイナは、それ以上聞かなかった。

少ししてから。


「そういえば」


 私は前を向いたまま尋ねる。


「ウィクス家はどうなの?」


「まあ、順調ですね」


「そう」


「トニック様に比べたら、まだまだですけど」


「まあ、あの人と比べるのは酷でしょう」


「そうですね」


 ナイナが小さく笑う。


「アルゴー様も頑張っておられますよ」


「……そう」


 父親の話を聞いて、私は少しだけ黙った。


「前よりは、良くなってる?」


「はい」


「事業の方は?」


「そちらも少しずつですが」


「そう」


 私は窓の外を見る。

夕暮れの景色が、ゆっくりと流れていく。


 少し前までなら。

こんな話を聞く余裕なんてなかった。


 けれど――。


 今は。


「それで」


 私は再び尋ねる。


「どれくらいで着くの?」


「計算では……明日の昼には着くかと」


「明日の昼?」


「はい」


「……遠いわね」


「廃墟ですからね」


「それもそうか」


 私は背もたれに体を預ける。

馬車は変わらず進んでいく。


 カタ。


 カタ。


 カタ。


 その揺れが、妙に心地よかった。


「…………」


 ……眠い。

今日は学校が終わってから、そのまま馬車に乗った。

明日の昼まで移動。


 そして、廃墟に着く。


 思っていた以上に――。

体力が必要らしい。


「…………」


 私は目を閉じる。

少しだけ。本当に少しだけ休むつもりだった。


 けれど――。


 ◇


「エラーラ様」


「…………」


「エラーラ様」


「ん……」


 私はゆっくり目を開けた。


「着きましたよ」


「…………もう?」


 寝ぼけたまま、馬車から降りる。


 そして――。


「…………」


 目の前に広がる光景を見た。


 崩れた壁。伸び放題の蔦。

長い年月、誰も使っていないことが一目で分かる。


 周囲には人の気配もない。

ただ、静かな森の中に。

ぽつんと、古びた廃墟が残されていた。


「……本当に、ゲーム通りだ」


 思わず呟いた。その時。


「エラーラ様?」


 ナイナが馬車から降りて、こちらへ来ようとする。


「……ナイナ」


「はい?」


「あなた、ずっと馬車を走らせていたのでしょう?」


「ええ、まあ……」


「だったら、少し休みなさい」


「ですが――」


「私は一人で大丈夫よ」


「…………」


 ナイナは少し迷ったあと。


「……分かりました」


「ここで待っていて」


「はい、エラーラ様」


 私はもう一度、廃墟を見る。


「…………」


 さて。ここからだ。

まだ会ったことのない攻略対象。


 キルザ・アショル。


 待ってなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。