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悪役令嬢に転生したので、ヒロインを殺します――私は“悪”だから  作者: フーマ


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パーティ加入

 ナイナは、何も言わなかった。

ただ、じっと私を見つめている。


「……意味が分かりません」


「そうでしょうね」


 私は苦笑した。


「私だって、上手く説明できるとは思っていないわ」


「では……」


 ナイナが、少し震える声で尋ねる。


「私は……どうすればいいのでしょうか」


「どうすれば?」


「今回のことです」


「…………」


「私は、何も知らないふりをしていればいいのですか?」


「それも一つの方法ね」


 私は少しだけ目を細める。


「あなたは、今回のことを知らなかった」


「私に頼まれたものを用意しただけ」


「そして――」


 私はナイナを見る。


「私が何をしたのかを、今知った」


「…………」


「だったら、知らなかったことにしてしまえばいい」


「何も見なかった」


「何も聞かなかった」


「そうすれば、あなたは何も悪くないわ」


「…………」


 ナイナは俯いた。


「……本当に、それでいいのでしょうか」


「さあ?」


 私は肩をすくめた。


「私に聞かれても困るわ」


「…………」


「あなた自身の問題でしょう?」


 ナイナは何も言わない。

私は、そんなナイナをじっと見つめた。


 この子は――。


 たぶん、ずっとこうだったのだ。

自分で何かを決めることを、あまり許されてこなかった。

誰かに仕えろと言われれば仕える。

命令されれば従う。

必要とされた場所にいる。


 それが、ナイナにとって当たり前だったのだろう。


「……エラーラ様」


「なに?」


「私は……」


 ナイナが顔を上げる。


「あなたが、エラーラ様ではないことは分かっています」


「…………」


「最初から、少しだけ変だと思っていました」


「そうでしょうね」


「言葉遣いも」


「…………」


「考え方も」


「…………」


「人を見る時の目も」


 ナイナは少しだけ苦笑した。


「全部、違いました」


「それなのに――」


 私は続きの言葉を待った。


「私は、あなたについていきました」


「…………」


「どうしてなのか……自分でも分かりません」


「ただ」


 ナイナは胸元に手を当てる。


「あなたのそばにいると」


「ちゃんと、自分がここにいるような気がしたんです」


「…………」


「私は今まで、誰かに必要とされることばかり考えていました」


「役に立たなければいけない」


「命令されたことをしなければいけない」


「そうしていればいいと思っていました」


「でも――」


 ナイナは私を見る。


「あなたは、私に自分で考えろと言う」


「…………」


「私ならどうするのかって」


「…………」


「それが……少しだけ嬉しかったんです」


 私は黙った。

正直に言えば、私はナイナを利用していただけだった。


 必要なものを用意させた。ロインを連れてこさせた。


 そして今も――。


 自分の味方にしようとしている。

それなのに。その言葉を聞くと。


 ほんの少しだけ、胸が痛んだ。


「……変な子ね」


「よく言われます」


「そう」


 私は小さく笑った。


「じゃあ、もっと変になりましょうか」


「…………え?」


「私は、これからも悪をするわ」


「…………」


「一度や二度じゃない」


「これから先も、私は自分の目的のために動く」


「その途中で、あなたに危険が及ぶことだってあるでしょうね」


「…………」


「それでも――」


 私はナイナを見る。


「私についてくる?」


「…………」


 ナイナは答えなかった。

視線を落とし、しばらく黙っている。


「……分かりません」


「そう」


「怖いんです」


「何が?」


「あなたが、これから何をするのか」


「…………」


「今回のことだって……」


 ナイナの声が震える。


「フレン様が大怪我をしました」


「ロイン様も、危ないところでした」


「もし……何かが少し違っていたら」


「…………」


 私は何も言わなかった。


「私は……その手伝いをしていたんですよね」


「えぇ」


「…………」


「だから、怖いなら離れてもいいわ」


「…………」


「私は止めない」


 ナイナが顔を上げる。


「本当に……?」


「えぇ」


「怒らないのですか?」


「怒る理由がないもの」


「…………」


「あなたが自分で選ぶことなんだから」


「…………」


 ナイナはまた俯いた。長い沈黙が落ちる。


「…………」


 私は待った。急かすつもりはなかった。

ナイナが自分で決めなければ意味がない。


 私が「ついてきなさい」と言って、それに従うだけなら。


 それは今までと何も変わらない。

この子は今、自分でストーリーのスタートボタンを押そうとしている。


「…………」


 やがて。


「……どうしたら、いいのでしょうか」


 ナイナが呟いた。


「…………」


 私は少しだけ目を細める。


「まだ、決められない?」


「はい……」


「そう」


 私はナイナの前へ歩み寄った。


「だったら――」


 私は、ナイナの肩へ手を置く。


「目をつぶりなさい」


「……え?」


「いいから」


「…………」


「今だけは、何も考えなくていいわ」


「…………はい」


 ナイナがゆっくりと目を閉じる。


「…………」


 私は、その顔を見つめた。


 何を言うつもりなのか。

自分でも分からなかった。


 ただ――。


 胸の奥に。何かが引っかかっている。


「私は……」


 口から、自然と言葉がこぼれた。


「…………」


 自分の声なのに。どこか違う。


「この世界の悪役だったわ」


「…………」


 胸の奥から、何かが押し出されるように。


「私は、エラーラの悪の意思を継ぐ」


「…………」


「エラーラができなかったことを」


「私がする」


「…………」


 そして――。


 私は、ほんの少しだけ笑った。


「私たちは、悪だから」


「…………!」


 ナイナの瞼が震える。


 そして――。


 ゆっくりと目が開いた。


「…………」


 私は何も言えなかった。


 今の言葉は。本当に私が言ったのだろうか。


 それとも――。


「……今のは」


 ナイナが呟く。


「…………」


「エラーラ様の言葉でした」


「……え?」


「口調も……」


 ナイナは私を見つめる。


「言い方も……」


「…………」


「エラーラ様が話していた時と、同じでした」


 私は何も答えなかった。


「……そこに、いるのですね」


「…………」


「エラーラ様は……」


 ナイナが、少しだけ震える声で続ける。


「あなたの中にいるんですか?」


「さあ」


 私は小さく笑った。


「どうかしらね」


「…………」


「私にも、分からないわ」


 それは嘘ではなかった。さっきの言葉を口にした瞬間。

自分が自分ではなくなったような感覚があった。


 まるで――。


 誰かの意思を、私が口にしているような。

そんな、不思議な感覚。


「でも」


 私はナイナを見る。


「一つだけ分かっていることはあるわ」


「…………」


「私は、これからも悪をする」


「…………」


「エラーラができなかったことを」


「私が代わりにやる」


「それが、私の選んだ道よ」


「…………」


 ナイナは、しばらく黙っていた。


 そして――。


「……分かりました」


「…………」


「私も、決めます」


 私は何も言わずに待った。


「私は――」


 ナイナは胸に手を当てる。


「あなたについていきます」


「…………」


「エラーラ様だと思ったからではありません」


「…………」


「あなたの中に、エラーラ様の意思を感じたから……だけでもありません」


 ナイナは、まっすぐ私を見る。


「私は――」


 一度、息を吸う。


「私自身が選んだんです」


「…………」


 その言葉を聞いた瞬間。

胸の奥が、少しだけ熱くなった。


「そう」


 私は小さく笑った。


「それなら、いいわ」


「はい」


「後悔するかもしれないわよ?」


「それでもです」


「危険な目に遭うかもしれない」


「分かっています」


「私が、あなたに何をさせるかも分からないわよ?」


「それも……分かっています」


「…………」


 ナイナは、もう迷わなかった。


「それでも、私はあなたについていきます」


「…………」


「私自身が、そうしたいからです」


 私は、少しだけ目を細めた。


「ふふっ」


「……何か?」


「いえ」


 私は手を差し出す。


「ようこそ」


 ナイナは、その手を見る。


 そして――。

そっと握った。


「はい」


「これからは、あなたも共犯者ね」


「……はい」


 ナイナは小さく笑った。

ナイナが、自分の手を見る。


「……そういえば」


「何?」


「私の名前」


「…………?」


「ナイナ、ですよね」


「えぇ」


「最初は……変な名前だと思っていました」


「でしょうね」


「名前がなかった私に、突然つけてくださった名前ですから」


「…………」


「でも」


 ナイナは少しだけ笑う。


「今は、とても好きです」


「どうして?」


「あなたがくれた名前だからです」


「…………」


「私には、それだけで十分なんです」


 私は少しだけ目を伏せた。


「そう」


「はい」


「なら、よかったわ」


「…………」


 ナイナが笑う。


「これからも、ナイナと呼んでください」


「えぇ」


 私は頷いた。


「何度でも呼んであげるわ」


「…………はい」


 私は立ち上がる。


「さて」


「はい?」


「いつまでもここにいるわけにはいかないでしょう」


「そうですね」


「パーティーも滅茶苦茶になったことだし」


「……それは、エラーラ様がやったんですよね」


「さあ?」


「…………」


 ナイナが呆れたように私を見る。


「もう……」


「ふふっ」


 私は笑った。


「行きましょう、ナイナ」


「どこへ?」


「決まっているでしょう?」


 私は歩き出す。


「これから、もっと悪いことをするのよ」


「…………」


 ナイナは一瞬だけ黙って。


 そして――。


「ふふっ」


「何を笑っているの?」


「いえ」


 ナイナは私の隣へ並ぶ。


「私も、悪ですから」


「…………」


 思わず。私も笑ってしまった。


「面白い展開だわ」


 ――こうして。


 私の「悪」に。初めて、味方ができた。

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