キャラクターエラー
「なんだ、今の音は!?」
「何が起こってるんだ!?」
「みんな、あまり動かないほうがいい!」
あちこちから、戸惑う声が聞こえてくる。
「何が起きたの……?」
「誰か、明かりを!」
「一体、何が――」
ざわざわと。会場が騒がしくなっていく。
私は、その場から少し離れたところで立っていた。
「…………」
そして――。
少しずつ。少しずつ、明かりが戻っていく。
暗闇に慣れていた目に、会場の景色が浮かび上がってきた。
「……」
倒れている人。散らばった料理。乱れたテーブル。
そして――。
「…………」
私は、目を見開いた。倒れたシャンデリア。
その下に――人がいる。
「……ロイン?」
金色の髪が見えた。間違いない。
ロインだ。
私は思わず息を呑む。
「……」
やった。そう思った。
けれど――。
――ザザッ。
「……え?」
本当に、一瞬だった。
瞬きをするよりも早く。視界が、ほんの僅かに揺れた。
「見間違い……?」
私は目を細める。
もう一度、シャンデリアを見る。
「…………」
違う。
そこにいるのは――。
「……フレン?」
ロインではなかった。
シャンデリアの下にいたのは、フレンだった。
私の計画では、あそこにいるはずだったのはロインだ。
なのに――。
「いや……いやよ!」
ロインの声が響く。
「誰か! フレンを!」
声を荒げる聖女。
その顔には、涙が浮かんでいた。
「よかった……」
フレンが、かすかに声を漏らす。
「ロインに……ケガが、なくて……」
そう言って。フレンは意識を失った。
どうやら、まだ生きている。
「早くっ! 誰か、フレンを!」
ロインが叫ぶ。
その声に反応して、周りにいた生徒や教師たちが一斉に集まってくる。
「おい、とにかくこのシャンデリアをどかすぞ!」
「急げ!」
何人かでシャンデリアを動かそうとする。
けれど――。
「くっ……重い!」
「四人でも動かせないぞ!」
なかなか持ち上がらない。
「何やっている! どけ!」
そこに現れたのは――ジョミナーだった。
四人の生徒が、その場を離れる。
「うぐぐぐっ!」
ジョミナーがシャンデリアに手をかける。
「ぐっ……!」
そして――。
ガサッ。
シャンデリアが、持ち上がった。
「おぉ……すごい!」
「おいっ! 長くは持たない! 早く彼女を!」
周囲の生徒たちが、フレンを引き出す。
そして――。
フレンは、シャンデリアの下から救出された。
「全く……何が起こっているんだ……」
ケインが頭を抱える。
「パーティーは中止だ」
ケインは周囲を見回す。
「フレンを医務室へ。私も同行する。後の者は、ここを片づけておけ」
「私も、ついて行っていいでしょうか?」
ロインがケインに尋ねる。
「……いいだろう」
そうして、ロインもフレンと共に医務室へ向かっていった。
こうして――。
パーティは終わった。
けれど。
会場の周りでは、まだざわざわと声が飛び交っている。
「あの、エラーラ様」
ナイナが私に話しかけてくる。
……それもそうよね。
今回の事件の真相を知っているのだから。
「ちょっと、外の空気でも吸いましょうか」
私はそう言って、会場の外へ出る。
ナイナも、それについてくる。
「それで、あの、エラーラ様――」
「おい! エラーラァァアア!」
ナイナの言葉を遮るように、声が響いた。
「……!」
振り返る。
そこにいたのは――ジョミナーだった。
ジョミナーは、そのまま私の胸ぐらを掴む。
「お前だろ!」
「今回の件をやったのは、お前だろ!?」
「…………」
私は黙っていた。確かに。
今回の騒動を起こしたのは、私だ。
あのシャンデリアが落ちるようにしたのも――私。
「俺は分かってるぞ!」
ジョミナーが声を荒らげる。
「お前がシャンデリアを運んでいたことを!」
「そして、今回のパーティーでも、何やらこそこそしていたな!」
「……まずは、この手を放しなさい」
私は、胸ぐらを掴んでいるジョミナーの手を見る。
「苦しいわよ」
そう言って、私はその手をどけた。
「ええ。シャンデリアは確かに運んでいたわ」
私はジョミナーを見つめる。
「でも、ただ運んだだけよ」
「設置したのは、ほかの生徒でしょう?」
「それに、こそこそしていたっていうけど……」
一歩、ジョミナーへ詰め寄る。
「私はただ、にぎやかなところが嫌いなだけよ」
「だが!」
ジョミナーが睨みつける。
「怪しい人物は、お前しかいない!」
「だったら――」
私も睨み返す。
「確かな証拠を見せなさい」
「私も、何の証拠もなく疑われて……腹が立ちますわ」
「くっ……! だが!」
私たちは、声を荒らげて言い合う。
「おい! 二人とも、何を言い争っている!」
そこへ現れたのは、セレブスだった。
「セレブス!」
ジョミナーが振り返る。
「こいつがやったんだ!」
セレブスは、ジョミナーの肩に手を置く。
「落ち着くんだ!」
「フレンが重傷を負って、悲しい気持ちがあるのは分かる」
「だが、人に当たるとは……少し君らしくもない」
「いったん冷静になれ」
「少し、ここから離れよう」
そう言って、セレブスはジョミナーを連れて、その場を離れていく。
私は、その背中を見つめる。
そして――。
ジョミナーの口元が、動いた。
――ザザッ。
「オボエテオケ」
「……!」
何……?
今のは……。
まるで、頭の中に直接聞こえてきたような――。
背筋が凍る。
「…………」
私は、その場に座り込んだ。
「あの……大丈夫ですか、エラーラ様?」
ナイナが心配そうに声をかけてくる。
「えぇ……」
私は息を整える。
「少し、言い争いに疲れただけよ……」
そして、ナイナを見る。
「それで――次は、あなたね」
「……はい」
ナイナは、少しだけ表情を曇らせる。
「今回の件……エラーラ様ですよね?」
「…………」
まあ。そうなるわよね。
「……そうね」
私は小さく息を吐く。
「あなたとは、話さないとね」
ナイナは息をのむ。
「さて……まずは、あなたの考察でも聞こうかしら」
「……エラーラ様がおっしゃるのでしたら」
ナイナは一度、息を整える。
「このナイナの考察をお話しします」
そして、私を真っ直ぐに見つめた。
「今回の件――すべての始まりは、あの袋です」
「あの袋?」
「はい。あれをエラーラ様に渡したのは私です」
ナイナは続ける。
「中に入っていたのは、周囲を暗くするためのもの。
それも、私がヤーショル様から頂いたものです」
「……」
「そして、私を使ってロイン様を誘導させた。
シャンデリアのところまで連れて行かせたのも、すべて計画のうちだった」
ナイナの目が鋭くなる。
「その後、エラーラ様が瓶を割る。会場が真っ暗になったところで、
何らかの方法でシャンデリアを落とした。」
少しの沈黙。
「――そうではありませんか?」
きりっとした目つきで、ナイナが私を見る。
「上出来よ」
私は微笑んだ。
「ただし、シャンデリアを設置したのは、別の生徒たちだけれどね」
◇
――パーティ準備前。
「ここにシャンデリアを置いておきますわね」
「ああ、あとは任せてくれ」
体格のいい二人組が、梯子を使ってシャンデリアを設置していく。
「ふぅ……こんなものか」
二人が作業を終え、梯子を降りようとした、そのとき。
「あっ、ごめんなさい。シャンデリアの装飾が外れてますわ」
「なに?」
「少し待ってください。私が直します」
外れていた装飾。
――もちろん、わざと外しておいたものだ。
私は自然な流れで、もう一度梯子を上る。
そして、誰にも気づかれないように。細く、目立たない糸を仕掛ける。
あとは、落ちるようにしておくだけ。
◇
「――といった感じで、あとは糸を引っ張って、ああなったってわけね」
私は淡々と話す。
「やっぱりエラーラ様じゃないですか!」
ナイナが声を荒らげる。
「何を考えているのですか!」
「……まぁ、当然こうなるわよね」
正直なところ、ナイナにはいずれバレると思っていた。
暗くするためのものを頼んだのも私。
ロインを誘導させたのも私。
そして、シャンデリアを落としたのも私。
何もかも、ナイナは知っている。
「……さて」
私はナイナを見る。
「あなた、私が誰だかわかる?」
紫色の瞳を、ナイナに向ける。
「……エラーラ様、ですよね」
「本当に、そう思う?」
「え……?」
「あなたは、エラーラに長いこと仕えていたのでしょう?」
「……はい」
「なら、変だとは思わない?」
私は一歩、ナイナへ近づく。
「今までの私に――違和感はなかった?」
「……」
ナイナは黙り込んだ。
やっぱり。気づいていたのだ。
何かがおかしいと。
「……あなたは、誰ですか?」
ナイナは、そう言った。
「……そうね」
私は少し考える。
「私は誰なのか……なんて、あんまり考えたこともなかったわ」
そして、ナイナを見る。
「ただ、一つだけ分かっていることがある」
私は小さく笑った。
「私は――」
少しだけ間を置く。
「悪だから」




