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悪役令嬢に転生したので、ヒロインを殺します――私は“悪”だから  作者: フーマ


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計画書

 翌朝。

私はいつもより早く寮を出た。アンラを待つこともしなかった。

昨日までなら、なんとなく一緒に教室へ向かっていた。


 けれど、今日は違う。

 

「……悪だから」


 小さく呟いて、廊下を歩く。教室には、まだ誰もいなかった。

私は席に座ると、昨日書いたノートを取り出した。


『目的を忘れないこと』


 その文字を指でなぞる。

忘れない。絶対に。


 そう思っていたところで――。


「それじゃあ、連絡事項だ」


 教壇に立ったウィザー・マルシクが、面倒くさそうに口を開いた。


「近日、カリバー学園の建国記念日がある」


 教室が少しざわつく。


「それに合わせて、学園では記念パーティーを行う」


 パーティー。その言葉を聞いた瞬間。

私の頭の中に、ゲームの記憶が蘇った。


『恋する姫と終わらない奇跡』


 建国記念日のパーティー。

攻略対象との好感度を上げることもできるイベント。


 そして――。

 

 ロインと同じ場所にいられるイベント。


「なお、パーティーの準備を手伝う生徒も募集する」


 ウィザーは黒板に予定を書きながら続けた。


「参加するかどうかは自由だ」


 一度、教室を見回す。


「私としては、こんなくだらない日に時間を使う必要などないと思っているがな」


「……先生、参加するんですか?」


 誰かが聞いた。


「私は強制参加だ」


 即答だった。


「まったく、ケイン様はなぜ教師まで強制参加させるのだ……」


 深いため息。


「だが、生徒は自由だ。魔法研究でも勉強でも、自分のためになることをしていろ」


 それから少し間を置いて、


「もっとも、建国記念日なのだから、建前上は『参加して学園に貢献する』と言っておこう」


 教室に小さな笑いが起きる。私は黙って聞いていた。


 パーティー。準備。


 そして――自由参加。

ゲームでは、このボランティア活動に参加することで、様々な能力値が上がる。

魔法だったり。剣術だったり。勉強だったり。

そして、場合によっては攻略対象との好感度も。

ゲームでは、貴重な時間を使うかどうかを選ぶイベントだった。


 でも――。


 この世界では違う。

私はメニュー画面を開けない。能力値を選んで上げることもできない。

それでも、ゲームと同じイベントは起きる。


 私はこれを利用する。


「……エラーラはどうするの?」


 突然、横から声がした。


「っ!?」


 アンラだった。いつの間に隣にいたのか。

アンラはいつものように、私の目をじっと見ている。


「……参加するの?」


「え、ええ」


「ふーん」


 アンラはそれだけ言うと、また前を向いた。


「……何よ」


「別に」


 そして数秒後には、机に突っ伏していた。


「寝るの早すぎでしょ……」


 私は小さく呟いた。


 そして――。

この選択には、もう一つ理由がある。 


 私はロインを殺す。

そのために、パーティー会場を事前に確認しておきたい。

ゲームでもこのイベントはよく覚えているが、自分の目で確認しておきたかった。


 どこに何があるのか。人の流れはどうなるのか。

どこなら人目を避けられるのか。


 もちろん。危険はある。

パーティーを利用して派手なことをすれば、それだけ自分の正体に近づく可能性も高くなる。


 失敗すれば、私自身が疑われる。

 

 それでも――。


「……やる意味はある」


 私は小さく呟いた。これは、ただロインを殺すためだけじゃない。

私は、この世界に飲み込まれかけた。


 学校が楽しいと思った。

友達みたいに笑った。

みんなと一緒に昼食を食べた。

気づけば、自分がゲームの一部になりかけていた。

  

 だからこそ。


 私は――自分の手で、この世界を壊す必要がある。

派手に。私が私であることを証明するために。


「……私は悪役令嬢。これくらいやらなくっちゃね」


 小さく笑う。


「そうよね。エラーラ」


◇


 放課後。

私はボランティアの集合場所へ向かった。

そこには、すでに何人かの生徒が集まっていた。


 そして、その中心に――。


「へぇ」


 フレン・ドレドがいた。

どうやらボランティアのリーダーらしい。

ゲームでもそうだった。


「エラーラって、こういうのに参加するんだ」


 フレンが少し意外そうに笑う。


「よろしくね」


「……ええ。よろしく」


 本当は、あまり話したくない。

けれど、参加する以上、リーダーであるフレンと話す必要がある。

仕方ない。


「今日は主に会場の準備だよ。荷物を運んだり、飾りつけをしたり」


 フレンが説明する。


「それと、参加者は――」


 その名前を聞いた瞬間。私は一瞬だけ動きを止めた。


「ロインとジョミナーもいるよ」


「……そう」


 できるだけ平静を装う。視線を上げる。

少し離れた場所。


 そこに――。


 ロインがいた。

その隣には、ジョミナー。楽しそうに話している。


 私はすぐに視線を逸らした。


(……なるべく近づかないようにしましょう)


 今回の目的は、ロインと仲良くなることじゃない。

会場を見ること。それだけ。だから私は、なるべく人の少ない場所で作業を始めた。


 飾りを運ぶ。机を動かす。小さな荷物を運ぶ。


 そして――。


「これもお願いできる?」


 フレンが言ってきた。

目の前に置かれたものを見て、私は固まった。


「……何よ、これ」


「会場に設置するシャンデリアよ」


「…………」


 冗談かと思った。けれど、本物だった。


「これ、私一人で運ぶの?」


「大丈夫大丈夫。意外と軽いから」


 私はシャンデリアを持ち上げた。

重い。想像以上に重い。


「ぐ……っ重いじゃない!」


 一歩。二歩。


「ちょっと……これ、誰がこんなもの作ったのよ……!」


 足がふらつく。


「もう……!無理!」


 その瞬間。腕から力が抜けた。


「――危ないだろ?」


 横から伸びた手が、シャンデリアを支えた。


「……!」


 ジョミナーだった。


「無事か?」


「……ええ」


 私はシャンデリアから手を離した。ジョミナーがそれを地面へ置く。


「無理するな」


「……別に」


 私は顔を上げる。


 そして――。


 ジョミナーの手に視線が止まった。

そこには、傷跡があった。


「……」


 ジョミナーも気づいたのか、自分の手を見る。そして、私へ向けた。


「これを覚えているか?」


「…………」


 覚えている。忘れるはずがない。


 あの日。


◇


 私のナイフを――。


 手で止めている。


「……っ!」


 私は息を呑んだ。

ナイフは、それ以上進まない。

ジョミナーの手によって完全に止められていた。


◇


 忘れることもない。

初めてノイズが起こった、あの日の出来事。

私はジョミナーの手に残った傷を見つめる。


「ロインが友達と言っている以上、許す」


 ジョミナーの声は静かだった。


「だが、この傷がお前が何をしたのかを覚えていることを忘れるな」


「…………」


 私は傷から目を逸らさない。


「……忘れることないわ」


 それだけ答えた。

ジョミナーも、それ以上は何も言わなかった。

 

 険悪な空気が流れる。その時。


「ジョミナー!」


 遠くから声がした。ロインだった。


「こっち手伝って!」


「ああ、今行く」


 ジョミナーは私を見る。一瞬だけ。

そして、ロインのもとへ歩いていった。


 私はその背中を見送った。ロインが私を見る前に。

私はその場を離れた。


 なるべく。

なるべく、顔を合わせないように。


 けれど――。


 歩きながら、私は自分の手を見る。昨日までは、この学園が楽しいと思っていた。

今は違う。私は思い出している。自分が何者なのか。何をするために、この世界へ来たのか。


 そして――。


 この世界に飲み込まれないために、何をしなければならないのか。

パーティー。そこで、私は動く。

危険なのは分かっている。失敗する可能性だってある。


 それでも。


「……やらないと」


 ロインを殺すため。


 そして――。


 自分が、このゲームの一部ではないと証明するために。


「私は――悪だから」


 その言葉を胸の中で繰り返した。


◇


 数日後。

私は誰にも見られないように、アンラが書いていた魔法の内容を自分のノートへ写していた。

私には、魔法を使えない。


 なら――物を使えばいい。私には使える闇の商人がいる。

書き写したノートの一部を切り取り、それを添えてナイナ宛に手紙を書く。


 手紙の内容は。


『これと同じような物がカリバー建国記念日のパーティにほしい。

 物がないならヤーショルを頼りなさい』


 そして――。


 パーティー当日。


 私は会場へ向かった。


 人の声。音楽。飾りつけられた会場。豪華なシャンデリア。


 たくさんの生徒たち。


 その中には――。


 ロインもいる。フレンも。ジョミナーも。


 私は一度だけ、会場を見回した。


 そして。


「……来たわね」


 ナイナが走ってきた。


「エラーラ様!お呼びいただき感謝します。」


 ナイナは私に頭を下げた。


「…そんなことより例の物は?」


「これです」


 ナイナは袋を私に渡す。


「いったいこれをどうなさるつもりですか?」


 不思議そうに聞くナイナ。私は笑った。


「何ってパーティーよ」

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