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悪役令嬢に転生したので、ヒロインを殺します――私は“悪”だから  作者: フーマ


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再起動

 ザザザザザ――。


「…………」


 暗い。

何も見えない。何も聞こえない。


 ただ――。


 ノイズだけが響いている。


 ザザザザザ――。


「…………ここは?」


 私は辺りを見渡す。その時。


 闇の向こうから――。


 一人の少女が現れた。


「…………!」


 私は息を呑む。


 銀色の髪。ツインドリル。


 見間違えるはずがない。


「……エラーラ?」


 そこに立っていたのは――。


 もう一人の私。


 いや。


 正確には――。


 私が転生する前の。


 エラーラ・ウィクス。

彼女は何も言わず、私を見つめていた。


 その瞳は――。

赤く染まっていた。


「…………」


 そして。エラーラが口を開く。


「私は――あなたに託したはず」


「…………」


「私の願いを」


 声が響く。頭の中へ直接、叩き込まれるように。


「…………何を?」


「…………」


 エラーラは答えない。


 ただ――。


 私を見つめる。


「思い出して」


「…………」


「私達は――」


 ノイズが強くなる。


 ザザザザザ――。


「『悪』だから」


「…………!」


 その瞬間。頭の中に、何かが流れ込んできた。


 お茶会。婚約破棄。

ロインをナイフで刺したこと。


 そして――。


 私が、この世界へ来た理由。


「…………」


 私は胸を押さえる。


「…………私」


 何かを忘れていた。とても大切なもの。


「…………」


 エラーラが、もう一度口を開く。


「思い出せ」


「…………」


「あなたは――」


「…………」


「私の代わりに――」


 ザザザザザ――。


「『悪』を貫くのでしょう?」


「…………!」


 視界が歪む。世界が崩れていく。


「待って!」


 私は手を伸ばす。


「あなたは――」


 エラーラの姿が遠ざかる。


「何を――」


 ザザザザザ――。


 そして――。


「――はっ!」


 私は目を覚ました。


「…………!」


 身体を起こす。

心臓が激しく鳴っている。


「…………夢?」


 額に手を当てる。息を整える。


「…………」


 そこで。

頬に何かが伝っていることに気づいた。


「…………?」


 指で触れる。濡れていた。


「…………涙?」


 私は自分でも驚く。


 どうして――。


 夢を見ただけなのに。どうして、私は泣いているのだろう。


「…………」


 けれど。

考えれば考えるほど、胸の奥が苦しくなっていく。

忘れていた。自分が何のために、この世界へ来たのか。


 何をするために、ここにいるのか。


「…………」


 私は涙を拭う。

それでも。次から次へと、溢れてくる。


「……なんで」


 震える声が漏れる。


「なんで……忘れてたの?」


 あれだけ大切だったはずなのに。

あれだけ強く決めていたはずなのに。


 私は――。


「…………」


 ゆっくりと呟く。


「私の目的……」


 そして。


「…………ロインを」


 一瞬、言葉が詰まる。


「……殺すこと」


 その言葉を口にした瞬間。


 胸の奥に――。


 冷たい感覚が走った。


「…………」


 私はベッドの上で固まる。


「まさか……」


 今日一日の出来事を思い返す。

ロインと話した。フレンと笑った。

ジョミナーと食事をした。セレブスとも。アンラとも。


 まるで――。


 昔からの友達だったかのように。


「…………」


 そして私は気づく。


「私……」


 自分の手を見る。


「ゲームの一部に――」


 言葉が震える。


「なりかけていた……?」


 ――その瞬間。


 私は初めて、この世界に来てから感じた違和感の正体に気づき始めていた。


「…………」


 私はゆっくりと周囲を見る。どうやら、夜中らしい。


「…………アンラ」


 ふと、上の階を見る。

二段ベッドの上。いつもなら、そこにはアンラがいる。


「…………」


 けれど。誰もいない。


「あぁ……」


 私は小さく息を吐く。


 確かゲームでも――。


 アンラは夜中に起きて、魔法の開発をしていた。


「ゲーム通り、か……」


 少しだけ安心する。

今、この部屋にアンラがいなくてよかった。


 もし――。


 さっきの独り言を聞かれていたら。


『ロインを殺す』


 そんな言葉を聞かれていたら。どう考えても怪しまれる。


「…………」


 私はベッドから降りる。そして机へ向かった。


「……まずは、整理しないと」


 私はペンを手に取る。

そして一冊の本を開いた。誰かに見られても問題ないように。

ただの勉強のノートに見えるように。そのページに、私は書き始めた。


『カリバー学園』


『ここはゲームのホーム画面とも言える場所』


 ペンを止める。


「…………」


 そして、その下に続けた。


『なぜ私は、本来の目的や意思が変わったのか』


「…………」


 少し考える。


 そして――。


『これは私の憶測だが、この学園の雰囲気に飲まれると、

 ゲームの一部として認識される可能性がある』


 そこまで書いて。

私は、ある出来事を思い出した。


 学園へ入った時。


 門を抜けた瞬間――。


 ――ザザッ。


 小さくノイズが走った。


「…………あの時」


 ペン先が止まる。


「あのノイズは……私をゲームの一部にしようとしていた?」


 私は考える。確かに。


 学園に来てから――。


 ロインを殺すという意思が、少しずつ薄れていった。

最初は、そんなことに気づきもしなかった。


 昨日の朝。ロインと出会った。


 フレンと話した。


 そして――。


 キノコのイベント。


「…………」


 今思えば。あの時からだった。

ロインと一緒にいることに、妙な安心感を覚えていた。


 まるで――。


 これが当たり前の日常であるかのように。


「…………」


 私はさらに書き足す。


『学校に入った時から、違和感があった』


『ロインと出会った時も』


『キノコイベントの時も』


『そして今日、一日を過ごしている間も』


 ペンが走る。


『学校の外では、このようなことは起きなかった』


「…………」


 エラーラの家。そこにいる間は、私は私だった。


 ロインを殺す。

その目的を忘れたことなんて、一度もなかった。


「つまり……」


 私はペンを止める。


「この学園そのものが……」


 少しだけ背筋が寒くなる。


「私をゲームの中に引き込んでいる?」


 ――ザザザザザ。


「…………!」


 一瞬。あのノイズが聞こえた気がした。

私は周囲を見渡す。


「…………」


 何もない。静かな部屋。私は息を吐く。


「……考えすぎ、かな」


 そう呟きながらも。

ペンは止めなかった。


『対策』


 新しい文字を書く。


『学園では、雰囲気に飲まれないこと』


『ロインたちと仲良くなりすぎないこと』


『ゲームの登場人物として振る舞わないこと』


 そして――。


 最後に一つ。


『目的を忘れないこと』


「…………」


 私は、その言葉をじっと見つめる。

さっき夢の中で聞いた言葉が蘇る。


『私たちは――悪だから』


「…………」


 私はゆっくりと、その言葉を書き加えた。


『私は悪だから』


 ペン先が止まる。


「…………」


 その文字を見つめる。


「これは……」


 私は小さく呟いた。


「私が私でいるための言葉」


 目的を忘れそうになった時。

また、この学園に飲み込まれそうになった時。

この言葉を思い出せばいい。


「私は――悪」


 小さく呟く。


「だから、忘れない」


 私は本を閉じようとした。


 その時――。


 ガチャ。


「…………!」


 ドアが開いた。


「あれ……起きてたんだ」


「…………!」


 アンラだった。


「…………」


 私は咄嗟に本を取り上げる。


 そして――。


 さっきまで書いていたページを隠すように、別の本を上から重ねた。


「どうしたの?」


「……目が覚めたから」


 私は平静を装う。


「勉強の見直ししてたの」


「へぇ」


 アンラがこちらを見る。いつものように。


 じっと。私の目を覗き込む。


「…………」


 やめて。今は特に。


「あなたこそ、なんでこんな時間に?」


 私が聞くと。

アンラは突然、目を輝かせた。


「聞いてくれるの!?」


「…………え?」


「いやぁ! さっき、真っ暗にする魔法を思いついたのですよ!」


「…………」


「それを書き起こそうと思って戻ったところ!」


「…………あー」


 私は額に手を当てる。


「また実用性がなさそうな……」


「ありますよ!」


「はいはい」


 私は本を閉じる。


「まぁいいわ」


 そしてベッドへ戻る。


「とにかく、寝る邪魔はしないでね」


「はぁい」


 アンラはそう言って、机へ向かった。


「…………」


 私は布団に入る。とりあえず。

今考えられることは、まとめた。


 原因も。対策も。


 そして――。


 目的も。


「…………」


 なら、次は。

私は目を閉じる。


「……計画を立てないとね」


 ロインを殺すための――。


 次の計画を。

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