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悪役令嬢に転生したので、ヒロインを殺します――私は“悪”だから  作者: フーマ


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アンラ・ダグネス

 私はロインを見つめたまま、しばらく動けなかった。

その隣では、フレンがロインと楽しそうに話している。


 そして――。


 アンラが、ロインへ近づいていった。


「ロインさんに会えるなんて、嬉しい!」


「…………!」


 私は思わず目を見開いた。


(……あれ?)


 この展開。

私は――知っている。


(見たことがある……!)


 ゲームの中で。

何度もプレイした『恋する姫と終わらない奇跡』で。

私はとっさに身構えた。


「あら、私もうれしいわ。アンラ」


 ロインは、いつものように優しく微笑んだ。


「…………」


 やっぱり。この優しさ。この笑顔。


 間違いない。


(この後……)


 アンラがロインに優しくされる。


 そして――。


 そこから、不幸なイベントが始まる。


「ロインさん」


 アンラは嬉しそうにロインを見る。


「私、新しい魔法を開発したんです」


「新しい魔法?」


「はい」


 アンラは小さく頷いた。


「今回は――手から花を出す魔法です」


「まあ。素敵ですね」


「よかったら、手を出してみてください」


「ええ」


「…………!」


 私は思わず一歩踏み出しかけた。


(待って!)


 それは駄目!


(その魔法は――)


 花なんて出ない。私は知っている。

この後、何が起こるのか。


「それは――」


 だが、止めるより先に。ロインが手を差し出した。


「こうですか?」


「はい」


 アンラが魔法を発動する。


「…………」


 私は息を呑んだ。


 そして――。


 パァァッ!


 ロインの手元が、眩い光に包まれた。


「…………!」


 光が消える。


 そこに現れたのは――。


「…………」


「…………」


 花ではなかった。


「きゃっ!」


 ロインの頭。


 肩。腕。制服。


 その全身に――。


 大量のキノコが生えていた。


「…………」


 沈黙。


「…………あれ?」


 アンラが首を傾げる。


「おかしいな……」


 ロインは自分の身体を見下ろす。


 そして――。


「すみません……」


「い、いえ……」


 ロインは困ったように笑った。


「大丈夫です」


「…………」


 私は絶句した。


(やっぱりだ……!)


 このイベント。ゲームで見たことがある。

アンラの不幸イベント。独自に魔法を開発するものの、完成度が妙に低い。


 そして――。


 なぜか毎回、ロインを実験台にする。


 その結果。

ロインの魅力が下がったり。やる気が下がったり。

勉学の能力が下がったり。場合によっては周囲の好感度まで下がる。


(これ……本当にゲーム通りだ)


 私はロインを見る。

キノコまみれになった彼女。


 そして、アンラ。フレン。


 周囲の生徒たち。


(ということは……)


 この世界でも。

ゲームのイベントは発生する。

そういうことなのだろうか。


「ちょっと、アンラ!」


 突然、フレンが声を上げた。


「開発したばかりの魔法を、いきなりロインに使わないの!」


 フレンはロインの身体についたキノコを手で払い落としていく。


「ほら、こんなに……」


「でも……」


 アンラは少し申し訳なさそうに俯く。


「ロインさんが……力になるって言ってくれたから」


「…………」


 私は目を見開いた。


(それも……同じ)


 ゲームでも。

ロインはアンラにこう言うのだ。


『魔法開発の力になる』


 その一言がきっかけだった。

アンラは自分の魔法研究をさらに進めるようになる。


 そして。

新しい魔法を作ってはロインに見せる。試す。失敗する。


 また作る。またロインに試す。その繰り返し。


(まさか……)


 私はロインを見る。

そして、ゆっくりと拳を握った。


(ここまでゲームと同じなの……?)


 そうだ。


 これも――ゲーム通りだ。

アンラは自分で新しい魔法を作ろうとしている。

そして、その魔法をロインに見せる。

ロインはいつものように優しく受け入れてしまう。


 その結果――。


 アンラはさらに調子に乗って、妙な魔法を作り続ける。

ゲームでは、そこからいくつもの不幸なイベントへ繋がっていった。


(……やっぱり)


 私は思わず、口元を緩めた。


(ゲーム通りだ)


 少しだけ安心した。

この世界に来てからというもの、何もかもが私の知っているゲームと違っていた。


 エラーラの家。私自身の存在。


 だから――。


 こうしてゲームで見たイベントがそのまま起きることが、妙に嬉しかった。


「……ふふ」


「?」


 ロインがこちらを見る。


「エラーラ様?」


「…………」


「そんなに面白かったのかしら?」


「…………」


 しまった。笑っていたらしい。


「……まぁね」


 私は誤魔化すように答えた。


「そうですか?」


 ロインは不思議そうに首を傾げる。


「ええ。少しだけ」


「ふふ。ならよかったです」


 ロインは笑った。


 その笑顔を見て――。


(……やっぱり苦手)


 私は心の中で呟く。何をされても。

どんな状況でも。この女は、こうやって笑う。


 ゲームの中でもそうだった。


 そして――。


 それが、私にはどうしても理解できない。


「ほら、アンラ」


 フレンがアンラの肩を叩く。


「早く行かないと遅刻するよ」


「……うん」


「エラーラ様も行きましょう!」


「ええ」


 こうして――。


 私たちは四人で廊下を歩き始めた。


 …………。


 ………………。


 ……………………


(…………あれ?)


 しばらく歩いてから。

私は、ふと足を止めそうになった。


(なんで?)


 右を見る。ロイン。

左を見る。フレン。

後ろにはアンラ。


 そして私は、その隣を歩いている。


(なんで私、四人で仲良く登校してるみたいになってるの!?)


 おかしい。絶対におかしい。


(私はロインを殺すために、この学園へ来たのよ!?)


 それなのに。


 なぜか――。


 主人公。親友。不幸を呼ぶ謎の少女。

そして悪役令嬢。四人で仲良く学校へ向かっている。


(なんだこの展開は!友達か!)


 私は心の中で叫んだ。


(私はこの女を殺すために来たのに!!)


 思わず頭を抱えたくなる。

だが、そんな私の心情など知る由もなく。


「エラーラ様、こちらですよ」


 ロインが振り返る。


「……分かってるわ」


「ふふ」


 ロインは嬉しそうに笑った。


(だから、その笑顔をやめなさい……!)


 私は無表情を保ちながら歩き続けた。

やがて、階段へ差しかかる。


 ここから先は――。


 一つ星と二つ星。

それぞれの教室へ向かう道が分かれる。


「私たちは二つ星だから、二階ですね」


 フレンが言う。


「そうね」


 私は頷いた。

そして、私はアンラとともに三階へ向かう。


「それでは、エラーラ様」


 ロインがこちらを見る。


「また後で会いましょう!」


「…………」


 そして――。


 ロインは、にこりと笑って手を振った。


「またね!」


「…………」


 私はその手を見つめる。


 そして――。


(振り返すわけないでしょう)


 私は何事もなかったかのように背を向けた。


「…………」


 ロインの手は、しばらく宙に浮いたままだった。


「……エラーラ様?」


「行くわよ、アンラ」


「……うん」


 私はアンラを連れて階段を上る。


 背後から――。


「……ふふ」


 ロインの小さな笑い声が聞こえた気がした。


「…………」


 私は振り返らない。


 ただ――。


(ゲーム通りのイベントは起きた)


 その事実だけを、頭の中で繰り返していた。


(なら、まだ大丈夫)


 そう思った。


 けれど――。


 この時の私は、まだ知らなかった。

ゲーム通りに進んでいることが、必ずしも「予定通り」という意味ではないことを。


 教室の前までやってくる。私は扉へ手を伸ばした。


 その瞬間――。


「遅い!」


「…………!」


 扉を開けるより先に、鋭い声が飛んできた。


「私の授業は十分前に来い!」


 私は思わず足を止める。


「…………」


 教室の前に、一人の男が立っていた。


 青い髪。整えられた髪の隙間から覗く、鋭い瞳。


 そして――眼鏡。


 いかにも真面目そうな教師だった。


「…………」


 私は、その顔を見つめる。


(…………嘘)


 知っている。ものすごく知っている。

ゲームの中で、何度も見た。


 攻略対象の一人。魔術の教師。


 そして――。


(ウィザー・マルシク……!)


 まさか。こんなところで会うなんて。


「お前が今日から入る生徒か?」


「…………はい」


「なら覚えておけ。私の授業に遅刻は許さん」


「わ、分かりました……」


 私は小さく頷いた。ゲームの舞台に立った。

ロインにも会った。アンラのイベントも、ゲーム通りに起きた。


 そして今度は――。


 攻略対象の一人と、初対面から怒られた。


(…………)


 私は眼鏡の奥からこちらを睨むウィザーを見る。


(……なんで私、初日から怒られてるのよ)

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