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第8話「ドリトル・カーネル」


 ドリトル・カーネル。


 彼は、この〈ゼタ〉の領地の貧民街で育った。


 幼い時より、病弱の母の看病をしており、弱い母を守るために必死に闘った。


 強い者が尊敬され、弱い者は見下される。


 それが、この領地のルールだった。


 ドリトルは――小柄だった。


 舐められることも多く、誰も彼を認めなかった。


「ガキが、何ができる」


「お前なんかに、負けるわけがない」


 そう、言われ続けてきた。


 まず、ドリトルは見た目から変えた。


 髪の毛の右側を刈り上げ、龍の刺繍を入れた。


 見た目から舐められないように。


 次に肉体的なところを変えた。


 肉体を鍛え上げ、小柄な身体からは想像ができないほどの筋肉量を獲得した。


 ドリトルは(よわい)10歳にして、貧民街の子供達を束ねる立場になっていた。


 ドリトルには守るべきものもおり、強くあらねばならなかった。


 齢11歳になる時、ドリトルは〈ゼタ〉より《神位》を授かった。


 ドリトルの強さはそこらの大人をゆうに超える強さになっており、いつの間にかドリトルは貧民街の住民から恐れられる存在になっていた。


 だが――ここで想像し難い誤算が生じた。


 ドリトルの母親が何者かに殺害された。


 ドリトルは嘆き、怒り狂った。


 貧民街を破壊する勢いで、犯人を探し回った。


 犯人はドリトルに恨みを持つ、貧民街の名もない男であった。


 ドリトルは記憶がなくなるほど、相手が原型を残さないほど、惨殺した。


 そのとき――ドリトル・カーネルの《神位》は《開放》段階へと昇華し「爆破」の能力を手に入れた。


 爆破の能力。


 それは、強力だった。


 みんなが恐れ慄いた。


 そして、ドリトルは決めた。


 トーナメントに出て自身の強さを証明し、〈ゼタ〉に母親を蘇らせてもらおうと。


 例えそれが叶うかどうかわからない幻想だとしても、そこに縋り付くしかなかったから。


 

――――――


 

「はああああ!」


 ドリトルが叫ぶ。


 ――ドオン!


 鉄パイプを振るったあと遅れて大爆発が起こる。


「こんな所で負けたら、舐められて終わるだけだ。何より母さんのため……あんたには負けてられない……!」


 ドリトルの年齢からは考えられないほど冷静に言い放たれる。


 そして――鉄パイプが、何度も振るわれる。


 爆発。


 爆発。


 爆発。


 俺はギリギリのところで避け続けるが、確実にダメージは受け続ける。


「このままじゃ、ジリ貧だな……」


 だが――。


 負けるわけにはいかない。


 俺にも、目的がある。


 〈絶対者〉共を鏖殺する。


 それが、俺の目的だ。


「ッ!」


 俺は大剣を振るった。


 ドリトルの鉄パイプと、再びぶつかり合う。


 幾ばくかの爆発が起きる。


 だが――今度も、爆発する前に剣を引いた。


 最小限のダメージに抑える。


 俺はドリトルとの実力は開いている。


 だが、どうにかして勝たなければいけない。


 どうすれば勝てるか。


 そんな思考すら無視して、攻め込んでくるドリトル。


 会場中で爆発が止まない。


 確実に戦闘不能にするという勢いで、鉄パイプを振るってくる。


 それに追随して、爆発が起こる。


 ――そして。


 俺はいつの間にか会場の端まで追い詰められていた。


「ここまでだな」


 ドリトルはそう言うと、鉄パイプを大きく振りかぶり、振り下ろす。


 会場全体に爆発音が響き渡り、噴煙が立ちのぼる。


「ルシア!」


「……ルシアくん」


 誰もが決着がついたかと思ったが――。


 ――俺は大剣を盾にして、身を守っていた。


「――ッ! 小賢しいんだよ! 早く倒れてくれ!」


 ドリトルは先程までのぶっきらぼうな口調とは一変して、頭に血が上ってきたのか、言葉遣いは大きく乱れ、荒々しい言葉遣いになる。


 感情に身を任せて、鉄パイプは何度も、振り下ろされる。


「死ね! 死ね! 死ね!」


 その度に爆発が起き、それを大剣ひとつで受け止めてみせた。


 ダメージがないといえば嘘になるが、無いよりは圧倒的にマシだった。


「おぉぉっと! ドリトル選手、ルシア選手に立て続けに攻撃を仕掛ける!」


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 度重なる「爆破」能力の使いすぎか、息切れをおこすドリトル。


 こちらもこのまま立て続けに攻撃されてたら、たまったもんじゃない。


 爆破の余韻として辺りには煙が充満していた。


 周囲の見通しは最悪だ。


 俺は左手に手斧を形成した。鎖はジャリと音が鳴らした。


 右手で大剣を支えた。


 その間にもとめどない爆破攻撃が襲ってくる。

 

 やがて攻撃が止み、煙が晴れ、見通しが良くなった。


「ハァ……ハァ……まだ死にやがらねぇのかクソ野郎」


 右手の大剣で何とか耐えていた。

 

「……なんとか耐えさせてもらってる」


 正直、大剣で防ぐのもそろそろ限界だった。


「それじゃあ……そろそろ死ね」


 鉄パイプを振り上げるドリトル。


 ――刹那


 彼は鎖に取り囲まれ、絡み付くように巻かれていく。


 ドリトルは鉄パイプを振り上げるような体勢で手斧の鎖に拘束されている。


「――お前! いつ鎖を!」


「ドリトル――キミが攻撃してる間に仕込ませてもらった。鎖の音は爆発音で聞こえなかっただろう?」


「――クゥッ!」


「おおっと! ルシア選手、いつ縛るために鎖を用意していたのか全くわからないィィィ!」


 振りほどこうと、藻掻くドリトルだが、全く外れるような気配はない。


「――オレはこんな所で負けてられない! 母さんを生き返らせるために! オレは優勝して〈ゼタ〉様に母さんを蘇らせてもらうんだ!」


「…………死んだ人間はもう戻らない。どんなに願っても、どんなに恋焦がれても。俺たちにできるのは死んだ人間を抱えて生きていくことだけなんだよ」


「ハァ……ハァ……! クソッ! オマエが、偉そうに語るな!」


「……あぁ、すまない……だが、俺は君を越えていくよ」


 俺は爆破を防ぐために持っていた大剣を捨て、拳でドリトルの顎を殴った。


 ドリトルは、先程の凶暴性に反して、その一撃で簡単に落ちた。


「ドリトル選手を抑え、勝利したのは……勝者――ルシア!」


 司会者の声で会場は歓声に沸いた。


 俺はそれを背に控え室に戻った。



 ――――――



「ルシア! いま治療す……なんかいらなそうだな!」


 セリウスは俺の様子を見てハハハッと笑った。


 いつも大怪我ばかりしてきたから、現状の様子を見て、治療は必要ないと感じたのだろう。


 普段から心配をかけてしまっている人物のひとりだから、今回は上手く立ち回れたのではないだろうか。


 まぁ、爆破の影響で火傷や、多少の怪我はしたのだが、《神位》の治癒力ですぐ回復するだろう。


「ルシアくん、お疲れさま」


「お疲れ様だよ、ルシア」


 声をかけてきたのは、ロゼッタとシルの両名。


「ルシアくん、今日は上手に戦闘できていたね」


 ロゼッタは眠気を誘うような落ち着いた声で褒めてくれる。


「たしかに今日は怪我がいつもに比べれば少ないね。いつもが多すぎるっていうところもあるけど……」


 ロゼッタに同意しながらも、シルはどこか心配そうだった。


「まぁ、良かったな! 今回怪我がねぇってことは俺がいらねぇってことだ!」


 セリウスはいつも通りハハハッと笑うと、


「次の対戦は! セリウスVS……」


 遠くから司会者のセリウスを呼び出す声が聞こえた。


「おっと、俺の出番だな! いっちょひと暴れしてくるかァ!」


 大胆に笑いながら、セリウスは会場に歩いていった。


「なんだか、セリウスさんって〈ゼタ〉様に似てるよね」


 唐突にシルは言う。


「〈絶対者〉の神子なんてものをやってると似てくるんじゃないか」


 そんな何気ない会話を交わしつつ、


「明日に備えて、俺は先に宿に帰ってる」


 と言った。


「ルシアくんが帰るならワタシも帰る♡」

 

「ちょ、君たちは急だな……僕も帰るよ! あ、でもセリウスさんの試合を見ていかなくていいのかい?」


 シルはセリウスの試合について尋ねてくる。


「あぁ、セリウスなら必ず上がってくる。決勝戦はセリウスとだと考えている」


「そうなのかい?」

 

「あぁ」


 そう、決勝戦はセリウスとの戦闘になるはずだ。


 ここで少しでも情報収集した方が良いのだろうが、如何せん疲れ果ててしまった。いますぐにもベッドに横になりたい気分だ。


「――帰ろう」


 俺はそう言った。

 

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