第7話「爆破」
『ボクたちが会うのは、これで何度目になるかなぁ……?』
――何度目だろうな。
〈ゼロ〉は唐突にひょんな問いを投げかけてくる。
実際、数えているわけではないから、わかるわけがなかった。
『まァ、いいや! 今回もね、キミにいいことを教えてあげるために呼び出したんだ』
――今度はなんだ?
『次の対戦相手についてと、〈ゼタ〉くんについてだよ』
――次の対戦相手についてと、〈ゼタ〉についてだと?
『ウン! キニナルヨネ? キキタイヨネ? どんなこともわかっちゃうボクすごくないかい!』
――無駄話はいい、早く要件を聞かせてくれ。
『つれないなぁ……まァ、ボクは寛大だからゆるしてあげる! まずは次の対戦相手についてだけど……《神位》保持者で「爆破」の能力を使ってくるよ』
――「爆破」の能力か、厄介だな。……しかし、それだけの理由で呼び出したわけじゃないだろう。
『御明答! キミにハッキリと能力所持者と、そうじゃない人達の違いを話してなかったなァ……と思ってね……』
――珍しく語尾が弱くなっていくじゃないか。
『いや、そうなんだけどね……ゴメンね! 説明が遅くなっちゃって☆ いやァ、謝れるボクってエラいなァ!』
いつもの台詞めいた喋り口調で1人しゃべり続ける〈ゼロ〉。
『単刀直入に行こう! 「能力保持者」は《放流》段階に到達しかけている者たちなんだ! だから、みんな個別につよ〜い能力が使えるんだネ! スゴいね!』
――なるほど、だから俺は未だ武器の具現化しかできていないわけか。
『そういうこと! よくわかったでしょ! ……あと〈ゼタ〉くんについてなんだけど、彼の《神位》既に《放流》段階だから、今のキミじゃあ敵わない』
――は? それじゃあどうやって勝てばいいと言うんだ。このままでは復讐を果たせないじゃないか。
『ん〜、それはキミの頑張り次第……! どうにか《放流》段階までいけるように頑張ってみてよ』
他人事のように励ましの言葉を送られる。
『それじゃあ、今回の話は以上だよ。まったね〜!』
――おい、待て! 《放流》段階へ行くには……。
――ズブン。
言い終わる前に意識が落ちていく。
この感覚にも慣れてきたが、〈ゼロ〉は言い終わる前に俺とのセッションを閉じやがった。
落ちていく。意識はゆっくりと閉じた。
――――――
「ルシアくん、ルシアくん…………あっ♡」
緊張するほどの距離感で俺の名前を呼ぶ人物――ロゼッタ・マリィはハイライトのない眼で、嬉しそうに微笑んだ。
「ルシアくん、おはよう」
「あぁ、ロゼッタおはよう」
何気ない挨拶を交わす。
俺は気になっていることを尋ねた。
「俺はどれくらい寝てた……? まだ大会は開催してるか」
「うん、まだやってるよ。ルシアくんの試合が終わってから1日経っているよ」
「そうか……」
俺は周囲を見渡すと宿屋の部屋にいた。
どうやら試合が終わってから宿屋のベッドへ運ばれたみたいだ。
窓から外を見ると、暗くなっており、遠くから街の騒がしさが聞こえてくる。
「大会はどうなった……?」
「司会者の人が説明忘れていたみたいで、大会は数日間に渡って開催されるみたいだよ」
「――そうなのか、安心したよ」
「うん、だから今日はゆっくり休んで、明日の試合に備えた方がいいよ」
ゆったりとした声音でロゼッタは言う。
そして、それに――とロゼッタは続ける。
「ルシアくんの戦い方は無茶をしすぎだよ。私が愛殺をするからまだ死なないでね♡ まぁ、ワタシが近くにいる限り死んでも死なせないけど……」
容姿端麗の顔が歪むほど、恍惚とした顔でロゼッタは言い放った。
「愛殺? ……って言うのがよくわからないがありがとう。頼もしい限りだ……だがロゼッタも危なくなったら俺が護るから」
もう俺は誰も失いたくなかった。
失うことで誰かが悲しみに暮れるのも、復讐をすることになるのも俺だけでいい。
しかし、無茶した戦い方が多い気がするから、これからの戦い方を考えないとな。
そんなことを考えつつ、ロゼッタの顔を見ると素っ頓狂な顔をしていた。
するとみるみるうちに、顔から湯気が出るのではないかというほど真っ赤に染まっていく。
「お、おい……大丈夫か……?」
「……………………殺してやる」
一言ポツリと言うと、真っ赤な顔のまま、とんでもない速さで部屋から退出していった。
「なんだったんだ?」
ロゼッタのことは、よくわからないまま、俺は明日に備え眠りにつくことにした。
――――――
――宿屋の廊下にて
「ハァ……ハァ……」
ロゼッタ・マリィは赤面していた。
ルシアくんといると初めての「ドキドキ感」に襲われるのに、さらに先程の言葉で余計に「ドキドキ感」がました。
こんなことは人生で生きてきて、初めての経験だった。
最初は単なる不思議でオモシロイが、何故かドキドキする人だったのに、この胸の高鳴りはなんなのだろうか。
警戒するべきなのだろうか。
いまのロゼッタにはわからない感情であった。
「……部屋に戻ろう」
熱を帯びた顔を隠せないまま、トボトボと部屋に戻るのであった。
――――――
闘技場に、歓声が響き渡っていた。
巨大な円形の闘技場。
観客席には、無数の観客が詰めかけている。
今日――2日目のトーナメントが開催される。
待機所には早々にセリウスが準備運動していた
「よお、ルシア! 昨日は大丈夫だったか! だが、俺がいれば誰1人死人はださないけどな!」
待機所にはセリウスの声が響き渡る。
ダンダン、と背中を叩かれるのはだいたい慣れてきた気がする。
「さあァァァァァ! 今日はトーナメント2日目だァァァァァ! 勝ち上がるのは誰だァ!」
観客たちが、歓声を上げる。
「ルシア! 傷は大丈夫かい!」
シルは心配そうに駆け寄ってくる。
「心配かけたが、もう大丈夫だ」
《神位》の身体能力強化のお陰で回復力も上がっているし、恐らくセリウスが傷を治してくれていたのだろう。傷はもう既に完治していた。
「それはよかったよ……前も言ったけど、本当に無茶する戦いはダメだよ」
「いつも心配かけてしまってすまない。昨日ロゼッタにも言われたばかりだ」
「もうルシアは無茶する奴だって覚えたから大丈夫だよ」
シルはどこか呆れたように頭に手を当てながら告げる。
「さァさァ! つぎの試合は! 【ルシアVSドリトル】だァァァァァァァ!」
「そろそろ俺の出番だな、じゃあ行ってくる」
俺は闘技場へと歩き出した。
――――――
俺は闘技場の中央に立つ。
対戦相手は――。
「…………」
少年だった。
緑色の髪に右側が刈り上げられており、龍の刺繍が入っている。厳つい見た目と小柄な身体の相反した見た目。
タンクトップを着ており、一見清潔感は感じられない。
だが――その目は、鋭かった。
「オレはドリトル・カーネルだ。よろしく頼みます」
「……ルシアだ」
ドリトルが、鉄パイプを構えた。
「――《神位》開放」
漆黒の右腕に黒い靄が集まり、紅黒の大剣と鎖がついた手斧が両手に顕現する。
〈ゼロ〉からの情報によれば「爆破」の能力を持っている。
気を引き締めていかなければ。
「それでは両者――始めッ!」
司会者の声が会場全体に響いた。
瞬間――。
ドリトルが、俺に向かって踏み込んできた。
踏み込んだ場所は砂埃が舞い、一瞬にして距離を詰めてくる。
「――ッ!」
鼻先を鉄パイプが掠っていく。
――避けなければヤバい!
後方へすぐさま飛び退ける。
――ボンッ!
俺が先程までいた場所は爆発した。
「――危なかった」
しかし、ドリトルの追撃は止まらない。
俺は剣を構える。
ドリトルが鉄パイプを振り下ろす。
ガキィンッ!
剣と鉄パイプがぶつかり合う。
予想以上の重さだ。
小柄な身体からは想像できない力。
《神位》の身体能力強化に加え、振り下ろす直後に細かな爆発で武器の振り下ろす力をさらに倍増させていた。
だが――。
「甘い」
次の瞬間――。
ドオンッ!
大剣と鉄パイプが当たった場所から、爆発が起きた。
「ぐあッ!」
爆風に吹き飛ばされる。
地面を転がり、なんとか立ち上がる。
爆発直前に後ろに引き下がっていたから、なんとか致命傷にはならなかった。
「これが……」
これが《神位》を《放流》段階にまで迫る人間の実力。
ドリトルが鉄パイプを構える。
こちらもこのまま押されてばかりではいられない――!
手斧を手放し、大剣を両手に持ち、大きく踏み込む。
軽々と避けられるが、即座に地に刺さった大剣を手放し、左手に手斧を形成する。
それを横薙ぎに振るう。
その攻撃は武器で防がれる。
――ドオン!
手斧と鉄パイプが交わった瞬間、爆発が起きた。
後ろに引いたが、「爆破」の能力は厄介だ。
噴煙に紛れて、ドリトルが再び走り込んでくる。
鉄パイプが振るわれる。
俺は避けた。
だが――。
ドオンッ!
その場で爆発が起きた。
「くそッ!」
連続で襲いかかってくる。
連続して小規模の爆発が起きる。
俺はギリギリのところで必死に避け続ける。
俺は安全圏まで引き下がった。
「あんた強いな」
「どうも」
――お互い武器を構え直し、1歩大きく踏み込んだ。




