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第6話「初戦」

今日からまた連載再開です!


「さぁ! トーナメントの開催だァァァ!」


 会場に響く司会者の声が響き渡る。


 選手の入場。


 観客席からは歓声が響き渡り、会場全体が熱気に包まれている。ゼタ領の人民がどれだけこのトーナメントを楽しみにしていたのかが伝わってくるようだ。


 会場は石造りとなっており、俺たちを取り囲むような形で円になっている。天井はなく、筒抜けになった会場には蒼い空がどこまでも広がっている。

 そして外縁には観客席があり、観客席は4階建てになっており、大勢の人々が入れるように設計されている。


「そぉれじゃあ、トーナメントのルール説明だぁ!」


 選手の入場が終わると、司会者はキンキンと耳に響く声でルール説明に入ろうとする。


「ルールは単純! 相手を戦闘不能にしたヤツが勝者! もちろん命の取り合いはナッシングだぜェ! 対戦相手はコッチでキメた対戦マッチングになってるから楽しみにしてくれだぜ!」


 ぶわっと会場が湧いた。

 あまりの会場の熱気に素直に圧倒される。


「会場盛り上がってるな! 俺はワクワクしてくるぜ」


 セリウスは場馴れしているのか、余裕そうな面持ちだ。


「それじゃあ早速対戦マッチの発表だ! 初めての対戦マッチは【ルシアVSヴィヴィアナ・サイレース】だァァァ!」


「おいおい! ルシア一発目からじゃないかよ! しかも相手は女だぞ! こりゃどんな戦いになるかワクワクするな!」


 セリウスは俺の背中を叩きながら、ハハハっと大胆に笑う。


 《サイレース》という名前に聞き覚えがあるが……。

 まさかとは思うが……偶然だろう。


 いや、偶然だと()()()()()()


 はるか後方でカリンの母親らしき人物が見えた……気がした。


 居たのが確かなら、殺意の籠った復讐者の眼でこちらを視認していた。


「それじゃあああ! 初めの対戦は会場の準備ができ次第、始まるぜェ! それまで待っててくれよなァァァ!」


 会場の熱気とは相反して、冷や汗が一筋流れた。



 ――――――



「ルシア、頑張れよ! 初戦が女だからといって油断するな!」


 平手でバシン、と背中を叩かれる。


 言わずもがな、これが地味に痛かったりする。


 だが、素直にセリウスからの叱咤激励はありがたかった。


「……セリウス、もしかしたら相手は知っている人物かもしれない」


 セリウスは驚きの顔を隠さず、


「ほんとうか! 知り合いと当たるなんて奇遇だな!」


 奇遇……これが奇遇や、偶然ならばなんという運命のイタズラだろうか。


「ルシアくん、逢いに来たよ♡」


「やっ、どうだい緊張してないかい?」


 一見眠気を誘うようなゆったりとした声音の人物と、人一倍爽やかに喋る人物――ロゼッタ・マリィと、シルファ・ストームベルトの両名がそこにいた。


 ――ロゼッタはいつも通り距離が近いのを除けば、なんら代わり映えのない、いつもの面々だった。


「お! もしかしてルシアの連れか! こりゃあ自己紹介しないといけないな。俺はセリウス・ラインボルトっつうもんだ! ルシアとは仲良くやらせてもらってるよ! よろしくな!」


 いつも通りハハハッと大胆に笑いつつ、肩を組んできながら自己紹介をした。


「僕はシルファ・ストームベルトだよ、よろしくね」


「……ロゼッタ・マリィ」


 シルは普段通り清涼感に溢れる笑顔で自己紹介を返す。


 ロゼッタに至っては何故かセリウスと俺が肩を組んだ辺りから殺意のオーラを向けている気がする……。


「……おい、ルシア。なんで俺はあの嬢ちゃんから殺気を向けられてるんだ」


「それは知らん」


 セリウスには申し訳ないが、本当に俺にもわからなかった。

 だが、当の本人は「戦意があって、ヤル気があるってことで良いことだ! ハハハ!」と笑っているからきっと気にしなくて大丈夫だろう。


 するとロゼッタはギュンと距離を詰めてきて、腕を組んできた。

 まるで俺がセリウスに取られないようにするかのようだ。


「ルシアくん、ワタシの愛殺が終わってないから負けないでね♡」


 いつも通り狂っている距離感でロゼッタは言った。

 ハイライトのない眼がやけに怖く見えるのは気のせいだろう……。


 ――その時


 後方から誰かわからないが猛烈な殺気を向けられた。


 瞬時に顔を向けると、そこには誰もいなかった。


「どうしたのルシアくん……?」


「あぁ……気のせいだ。まあ、頑張ることにするよ」


 内心動揺しているのか、中身のない言葉しか出てこなかった。


 ――――――



 ――本戦にて


「みんなお待たせしたなァ! やァァァァァァァァッッッと始まったなァ!」


 会場のボルテージは最高潮を迎える。


 俺は会場の中心へ歩み始める。


「東側! ルシアァァァ! 西側! ヴィヴィアナァァァ!」


 会場から歓声が上がる。


 中には賭け事をしている輩もいるようで「ヴィヴィアナ勝てェェェ!」などと叫ぶ輩もいる。


 対面には殺気を隠そうとしない――カリンの母親が立っていた。


 起きてほしくなったことが、いま現実になっている。


「貴女……ヴィヴィアナ・サイレースっていう名前だったんですね」


「そうですね。それがどうかしましたか? もしや、何か都合の悪いことがおありで?」


「いえ……いや、なんでもないんだ」


 そう、なんでもない会話。何気ない会話。


「さァ! 両者出揃った! 準備はいいかァ! それでは、試合開始ィィィ!」


 冷えついた空気とは相反して、会場は盛り上がりをあげていく。


「――《神位》開放」


 唐突にそんな言葉が鼓膜を震わせた。


 ――ヴィヴィアナは《神位》を開放した。


「〈ゼタ〉様より《神位》を授かりました。これで私は貴方を殺せます」


 彼女は静かに、そして冷徹に言い放つ。表情はただ、凍てつくような表情をしていた。


 その右手には鮮やかな赤の鋭利なレイピアが握られている。そのレイピアは、まるであのとき見たカリンの血と似ており、あのときのことを想起させる。


 彼女は右手を前に出し、中段に腰を据えた構えを取ると――瞬時に踏み込んできた。


 その攻撃は右肩に突き刺さった。


「――なぜ、このトーナメントに参加した!」


「貴方にそんなことを聞いている余裕があるのですね。貴方を簡単には死なせない」


 止まらず、繰り出される刺突。

 急所だけは外すように当ててくる。


「くぅっ……」


 俺は彼女をなるべく傷付けたくはなかった。


 いや、正確には傷付けることができない。その資格がない。


 たしかに彼女はゼタ領への同行を希望していた。


 まさかこんなことになるとは考えもしなかった。

 

 とりあえず、いまは試合に集中するしかな――。


 ――刹那。


 一瞬の油断でレイピアの刺突が腹部を抉った。


「アナタのせいで……アナタのせいで! カリンは死んだんです。私は貴方をユルサナイ……私は貴方がカリンのことを言ったとき、どうしても納得できなかった」


 冷たく言い放ち、言葉を続ける。


「なんでこの人が生きて、カリンが死ななければいけなかったのか……夫は早くに亡くなり、私の人生の全てはカリンが第1になった」


 腹部へ刺さったレイピアをさらに深々と差し込んでくる。


 この人はいま復讐心に囚われている。


 その復讐心をいまの俺には否定できない。


 だから――。


「ヴィヴィアナさん、すまない」


「――私はいまから貴方を殺します」


 持っているレイピアで何度も、何度も、何度も刺して、滅多刺しにしてくる。


 一刺し、一刺し怨みを込めて、心の底から死んでほしいと願うように。


 刺されている腹部の痛覚は無くなってきている。


 これが俺にとって彼女にできる最大限の贖罪だった。


 どんなに言葉を紡いでも、伝え切れることには限りがある。


 いま俺ができるのは彼女の復讐心を受け止めることだった。


 しばらく彼女はレイピアで刺し続けた。

 

「くそっ……くそっ……なんで死なないんですか」


 次第に刺す手がゆっくりになっていって、最後には刺す手は止まっていた。


「……なんで死なないんですか……カリンはなんであなたのために死ななければいけなかったんですか……」


 掠れた、弱々しい声で彼女は言う。


 彼女にとってカリンは「大切な人」だった。


 俺は彼女の「大切」を奪ってしまった。


 ――だが、俺はいまこんな所で負けてられない。


「……いまの俺には謝罪と貴女の復讐心の捌け口になることしかできない……あのときカリンを守れず申し訳なかった」


 言葉を続ける。


「だが、俺はこんなところで止まる訳にはいかない。貴女に負けるわけにはいかない。――《神位》開放」


 右手の靄は収束し、紅黒の大剣を顕現させる。


「……私は貴方のことを一生許さない。だからせいぜいカリンを抱いて、苦しみ続けなさい。この先永遠に」


 大剣の柄の部分を彼女の腹部に強打させた。


 ヴィヴィアナはその場で倒れた。


「あぁ……一生背負っていくよ」


「おおおおおおおおっと、なんと猛攻を凌いでの勝者は……ルシアァァァァ!」


 俺は何も言わず振り返り、選手待機所へ戻っていった。


 試合は一瞬だった。だが、とても長く感じた試合だった。


 待機所へ戻ると共にセリウスが切迫した顔をして駆け寄ってきた。


「ルシア、大丈夫か!」


「あぁ……大丈――」


 視界が回る。


 身体が倒れゆく感覚がある。


 意識を失うのはこれで何度目だろう。


 その後、俺の視界はブラックアウトした。

自分の実力の限界を知れる話になりました。

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