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閑話


 あれからロゼッタとは別れ、ひとりで夜間のゼタ領を歩いていた。


 外からは光の柱しか見えなかったが、中は意外にもしっかりとして、レンガで作られた建物が主流のようだった。


 いまは夜間だが、メインストリートの昼間には屋台が大勢出ている。


 驚いたことがあり、ゼタ領は夜も活気があり、酒場からは笑い声が絶え間なく聞こえてくる。

 

 「――ここは夜も活気があるだろう」


 唐突に聞き馴染みのない声から声をかけられる。


 振り向いたそこには銀髪の髪を後ろで結って、筋骨隆々の青年が立っていた。


「確か〈ゼタ〉の神子の……」


「アレ、名乗ってなかったか? まあ、いいか……俺はセリウス・ラインボルトってんだ! よろしくな」


 セリウスは純真無垢な笑顔で自己紹介をして、手を差し出してきた。


「あぁ、俺はルシアだ。先日は傷を癒してくれて助かった」


 差し出された手を握り返す。


「いや、気にしないでくれ! 大した事じゃない! 逆にこんな見た目のやつに治療されていやじゃなかったか?」


 ハハハ!っとおどけた調子で笑う。


「いや、そんなことはない。助かったよ」


 そりゃあよかった、と裏表ない笑みで答える。


「ところで」


 唐突に真剣な顔になるセリウス。


「ルシアもトーナメントには参加するんだよな?」


 そう問いかけてくる。


「あぁ、もちろんだ」


 するとたちまち真剣な面持ちからは一変して破顔した。


「まぁ、そのなんだ……うちの〈ゼタ〉様はこういうことが好きなんだ! 祭りごとみたいなものだからな、重く考えずに気楽にお互い頑張ろうな!」


 真剣な顔から、どこか照れた表情へ変化したセリウスはへへっと子供のように笑った。


「セリウスも参加するんだな、それならお互い頑張ろう」


「おう! 祭りごととあったら、参加しないわけにはいかねぇ! ……とりあえず、まあ、今回言いたかったのはそれくらいだわ! 傷の調子も良さそうだしよかったぜ!」


「お陰様でな」


「んじゃ! またトーナメントで戦えるといいな! そのときは負けないぜ。それじゃあな!」


 大振りに手を振り、夜の街へと消えていった。

 彼はあまり面識がない相手にも気にせず傷の心配まで……きっと気さくで良い奴なのだろうと感じた。


 俺は夜の街を散策しつつ、のんびり宿まで帰るのだった。



 ――――――



「ルシア! キミはなんで毎回あんなに無茶をするんだ!」


 早朝、宿泊している宿へ乗り込んできたシルは入ってきた瞬間、まるで子供を叱りつける母親のように激怒していた。


「君はまだ怪我をしていたんだよ! ましてやルシア! お腹を貫かれていたじゃないか! あのまま死んでしまう可能性すらあった!」


 チクチクと小言が止まらないシルはいつもとは比にならないほど饒舌だった。


「そもそも! 君が《神位》を使えるってこと自体初めて知ったよ僕は!」


「ルシアくんも反省しているからそこら辺で許してあげたらいいんじゃないかな」


 ふわふわとした口調で、助け舟を出してくれるロゼッタ。


「ロゼッタ! 君についても病み上がりのルシアをどこかへ連れ出したのは如何なものかと思うよ!」


 シルの俺へ向いていた怒りの矛先は、今度はロゼッタへ向かう。


「はぁい、ごめんなさーい」


 どこかめんどくさそうに彼女は言う。


「はあ、もういいよ……とりあえず無事でよかった。〈ゼタ〉様からはしばらく宿屋へ無料で宿泊していいと許可を頂いたからね」


 ほっと胸を撫で下ろすとはこのことかと言うように、シルはふうっと安堵感に包まれていた。


 俺は唐突にシルへ謝罪をしなければいけないことを思い出した。

 

「シル。お前に謝らないといけないことがある」


「そりゃあいくらでも謝らなければいけないことはあるだろうけど――」


 シルの小言が始まってしまいそうになる前に俺は言葉を続けた。


「シルは〈メタ〉の領地へ向かっていたのだろう。俺のせいでゼタ領まで来てしまうことになって仕事の邪魔をしてしまった。本当にすまなかった」


俺はベッドの上からだったが、深々と頭を下げた。

 

「あぁ、そのことはいいんだよ! 元々運び屋っていう仕事は自由気ままな仕事だしね。ましてやゼタ領にきて、ここでしか手に入らない材料や食材なんかも手に入ることになったわけだから気にしないでいいんだよ」


 くいっと緑のキャスケット帽を直しつつ、いつも通りの爽やかな笑顔を向けた。


「ところで気になってることがひとつあって。結果的にルシアが〈ゼタ〉様と戦闘することになったわけだけど……ロゼッタ、君が言ってたゼタ領へ入る「策」っていうのはなんだったんだい?」


 俺が気を失っている時の話なのか、シルはロゼッタへ尋ねる。


「ごめん、あんまり、おぼえてないや」


 あからさまな棒読みだった。

 全くシルへ眼を合わせようとはしない。

 なんなら眼が右往左往していた。


「あのね、ロゼッタ……! その感じは何も考えてなかったね!」


 シルの小言がまた始まってしまいそうだった。


 俺はシルの小言を横目に布団をかぶった。


 部屋の中はシルとロゼッタの会話の喧騒に包まれている。


 唐突にふと感じる。

 

 俺だけがこんなことをしていていいのだろうか。

 

 そんなに心配をされたりしてもいいのだろうか。


 これまで失ってきた人達以上に生きていいのだろうか。


 とめどない不安と、焦燥感が、俺を襲った。



 ――――――


――夢の中


『ヤッ!』


 ――またお前か


『ヤダナァ……ツメタイナァ……カナシイナァ……ま! 気にしないんだけどネ! 割とどうでもいいことかもだけど……今日もキミに話したいことがあってね』


 ――なんだ?


『《神位》には段階があるって話をしただろう? あれ、したっけ? まァ、どうでもいいや! 《神位》には段階があってね、ちゃんお名前だってあるんだよ〜』


 ――ほう?


『身体能力とかがすごーく強くなる段階を《覚醒》ボクらのの思念を具現化した段階を《開放》ここまでは《神位》を授かったニンゲンなら誰でも到達できる! ――だけど』


 ――だけど?


『もう一個上の段階があってネ! ボクらの思念を外の世界に放出する段階《放流》――それは支配者の領域になっちゃうんだ。あ、他者に《神位》も付与することもできるヨ!』


 まあ、と言葉を続ける〈ゼロ〉


『キミにはぜひとも《放流》段階まで《神位》の階位をあげて欲しいネ! ――キミには期待してるんだ』


 〈ゼロ〉はやけに含みのある口調で最後の言葉を言い切った。


『ふぁぁぁ……んじゃあ、ボクそろそろお昼寝の時間だからおやすみぃ……』


 ――おい、勝手に終わらせるな!


 瞬間、意識が水面の底へと沈むような感覚に襲われる。


 ……沈む……沈む……。


 ゆっくりと。

 


 ――――――



 ――トーナメント当日。


 街のメインストリートはいつも以上に屋台がずらりと並んでおり、まるでお祭りのような喧騒に包まれている。


 いや、事実セリウスの言う通り、彼等にとってはお祭りなのだろう。


 戦闘を愛すもの達で賑わい尽くし、出場するものも、しないものもお祭り騒ぎ。


 メインストリートは人で賑わっており、歩くのも一苦労だ。


 そういえばトーナメントに参加するには受付を済ませなければならないと聞いていたが、俺は受付の場所がわからずにいる。


「おう! ルシアこんな所で出くわすなんて奇遇だな!」


 突如、どこかから声を掛けられた。


 声の方向へ顔を向けると、そこに居たのはセリウスだった。


 よっ、と手を挙げにへへっと笑いかけてくる。


「どうした、こんなところで! 道にでも迷ったか」


 図星である。


 否、道に迷った訳では無いのだが、トーナメントの受付がわからず右往左往していたとは到底言えなかった。


「……なんか当たってそうな顔してるな……まあ、そんなルシアに朗報だ! 受付の場所は俺が知っている! というよりお前は強制参加なんだから受付を気にする必要はないんじゃないか?」


 たしかに。

 言われてみればその通りである。


 トーナメントに強制したのは〈ゼタ〉側だ。

 その上で受付をしろというのはお門違いだろう。


「ははっ、もしかしてルシアは少し天然ってやつなのか!」


 そう言われてやけに恥ずかしくなったのは内緒である。


「ともかく、受付と選手入場口は近くにあるから、そこまで一緒に行こうぜ」


「それは助かる」


 かくして、セリウスに連れられていく形で選手入場口まで行くことになったのである。



 ――――――



 ――選手入場口にて。


「ここが選手入場口だ……早速入ろうぜ」


「あぁ」


 選手入場口を抜けた先は出場選手の戦意と熱気で滾っていた。

 待機所はすし詰め状態かと思いきや、意外と広々としており、選手たちへの配慮が感じられる設計になっていた。


「おぉ、今回もみんな気合はいってんな! 俺達も負けてらんないぞ!」


〈ゼタ〉はこのトーナメントで優勝すればなんでもひとつ願いを叶えると言っていた。


 俺が願うのはただひとつ――〈ゼタ〉との戦闘ただ1つ。


 復讐のためにもこのトーナメントでは勝ち上がらなければならない。


 おそらくセリウスとも当たることになるだろう。

 申し訳ないがその際は容赦なく勝たせてもらう。


 トーナメントの時刻が刻一刻と迫る度に選手たちのボルテージが次第に上がってくるのを感じる。


 ――そしてついにトーナメントが始まろうとしていた。


大変申し訳ないのですが、次回はお休みになります。

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