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第9話「決勝戦」


「…………んぅ」


 俺は混乱していた。


 朝、眼を覚ますと身体の上には俺の身体を抱きしめた状態の、ロゼッタ・マリィが安らかな顔をして眠っていた。


「………………」


 幼なじみの優和にすらこんなことをされたことがないため、俺はこんな状態の女性に対してどうするのが正解か答えを持ち合わせていなかった。


 そもそも普通に生活していればこんな状況になることすらないのではないだろうか。


 しかし、このままにしておけないため、起こすことにする。


「おい、起きてくれ……おい」


 ロゼッタの身体を軽く揺する。


 薄いレースのネグリジェから覗かせる白く陶器のような純白の肌は、柔らかくなめらかな感触がした。


 いや、いまのはなんだ……考えるのはやめておこう。


「んぅ……おきてない……」


 いや、それには無理があるだろう……。

 ばっちり起きているじゃないか。


 どうしたものか。


 もう一度、ロゼッタの身体を揺すり、何とか起こそうとしてみる。


「んぅ……しょうがない……おはよルシアくん」


 ロゼッタは俺の身体から上体を起こすと、大きくのびをした。


 上半身を起こした状態は、下半身に跨られており、この場面を誰かに見られると大変マズイ。


 ――ガチャ。


「ルシア、おはよう! そろそろ起きないとトーナ……メント……におく、れる…………ごめん、僕、邪魔しちゃったかな」


 随分()()()()()()()入室してきたシルは頬をぽりぽりと掻きながら苦笑して言った。


「シル、これは誤解だ」


「ルシアくんに襲われちゃった……♡」


 身も蓋もないことを言い始めるロゼッタ。


「おい、嘘はやめろ」


「僕は君たちの関係を誤解してたみたいだね」


「違うんだシル! それは誤解だ!」


「大丈夫、僕はふたりがそういう関係だったとしても、応援するよ」


 すすす、と後ずさるシル。


「落ち着けシル、圧倒的に誤解をしている。少し話をしよう」


 この後、シルの誤解を解くのに、だいぶ苦労したのはまた別の話である。



 ――――――



 ――トーナメント会場、待機所。


「まさかそんなことがあったなんて……ルシア大変だったね」


 シルはさわやかに労いの言葉を言ってくれる。


 あれから誤解が解くのにだいぶ時間を要した。


「ルシアくん、ごめんね」


 ゆったりとした声でロゼッタは俺へ謝罪をした。


「よお! おはよう!」


 大手を振り、待機所に響き渡るほどの大声量で挨拶をするセリウス・ラインボルト


「あぁ、おはようセリウス」


「やあ、セリウスさんおはよう!」


「……おはよう」


 ロゼッタはセリウスを睨め付け、腕に組み付いてくる。


「ルシアくんは私のモノ。ルシアくんには愛殺する予定だから」


「愛殺……? まぁ、よくわからんが、随分嫌われちまったみたいだな! 大丈夫だ、ルシアのことは誰も取らねぇよ!」


 セリウスは気にもとめてないようで、豪快に笑う。


「そういえば、見たかルシア! 待機所の張り紙を」


「張り紙?」


「あぁ、今日は決勝戦だからな、待機所に対戦表が張り出されるんだよ……まあ、お前のことだから薄々勘づいていると思うがな……ほらあそこ見てみろよ」


 指をさされた方を向く。


 【決勝戦、セリウス・ラインボルトVSルシア】


 大きく張り出された張り紙を見て――…………薄々と勘づいていたことだが、やはりこうなったか。


 セリウスは「治癒」の能力を持っている。厄介な相手になるだろう。


 どのように攻略するか。


「決勝戦、お前とやれて嬉しいぜ! ワクワクするな!」


 ハハハッと笑い、背中をバンバンと叩いてくる。


 それを見た、ロゼッタはセリウスへ明確な殺意を送っていた。


「しかし、まあ、他の対戦とは違って、決勝戦は明日だ。今日はゆっくりと休もうや」


「そうなのか……なら今日はフリーになるな……」


 今日はゆっくりしておこうか。


 そんなことを思いながら、ゆっくりと宿屋へと向かった。



 ――――――


 宿屋にて読書をしていると、部屋の扉がノックされる。


「ルシア、いま空いてるか? 少し飲みに行こう!」


 唐突な飲みの誘い。


 この世界では俺は飲酒をしても良いのだろうか?


 少し悩むところだが、気にしてもしょうがないので、考えることをやめた。


「あぁ、飲みに行こう」


「よっしゃ! それじゃさっそく行こうぜ! 行きつけのいい店があるんだ」


 俺は誘いに乗り、飲みに行くことになった。



 ――――――



 セリウスに案内された店は、俺が生きていた世界風に言うなれば大衆酒場だった。


 客が安酒をかっくらいながら好き勝手騒ぎ散らかし、その瞬間を楽しむ。


 樽が所々に置かれており、それがテーブル代わりとなっている。椅子なんてものは存在しておらず、「小洒落た店」というより悪く言えば「雑な店」で、良くいえば「気の遣わない店」だ。


 俺たちはその樽のひとつに陣取る。


「女将さん! エールをひとつ! ルシアはどうする?」


「同じので大丈夫だ」


 未成年飲酒になるかもしれないが、1度死んでしまって、時間が経っているのだから大丈夫だろう。


「女将さん、エールもうひとつ追加で!」

 

「はいよ! エール2つね!」


 セリウスは女将へ慣れた調子で、注文をする。


「ところで、今日はなんで急に飲みに誘ってきたんだ」


 色々考えるのが面倒だったので、今回の誘いについてセリウスへ尋ねた。


「ハハハッ! 急だな! 親睦を深めたかった……というのもあるが、今回は別件だ!」


「……別件?」


「はい! エール2つお待ちど!」


 ちょうど会話の切れ目に、木製のジョッキにいれられて、注文していたエールが届く。


「とりあえず、せっかく飲みに来たんだ! 乾杯をしよう! 乾杯!」


「乾杯」


 木製のジョッキを合わせる。コツンと小気味よい音とともにジョッキの中身は零れそうになる。


 ゴクゴクと飲んでいくセリウス。その姿は見てる側にとって気持ちいいほどに清々しかった。


「ぶはーっ! やっぱりこの最初の1杯が美味いんだよなぁ!」


 俺も合わせてエールを飲んでみるが、苦味と共に、清涼感のある炭酸が喉を駆け抜ける。


 初めて飲んでみたが、案外美味しい。

 依存してしまう人の気持ちもわからなくもない。


「それで先程の回答はどうなったんだ」


 俺は脱線した話の続きに戻ることにした。


 あぁ、そうだったな! と笑うセリウス。


「早速だが、ルシアはなぜ優勝を目指してるんだ?」


「俺は――優勝して願いを叶えてもらう代わりに〈ゼタ〉と闘って、奴を殺す」


 セリウスからの問いに素直に答える。

 ――そう決めていたから。


「ハハハッ! それを俺の前で話すか! しかし、ルシアはなんで〈ゼタ〉様を殺そうってんだ?」


「俺は――復讐のために」


 〈絶対者〉は皆殺しだ。これだけは絶対に譲らない。


 〈ゼロ〉に言われたからじゃない。奪われた者たちのために殺す。例え、それが直接関係ない〈ゼタ〉だとしても。


 エールに口をつけるセリウス。


「復讐だァ? ……まぁ、俺には小難しいことはわからないけどよぉ、ルシアはルシアなりに考えがあるって事だな!」


 自身の守護するべき対象を殺すと言われているのに、大胆に笑うその声は裏表を感じさせないものだった。


 だが、とセリウスは言葉を続けた。


「〈ゼタ〉様を殺すと眼の前で言われちゃあ、いくらルシアといえど見逃せねぇ発言だ。明日の決勝戦は全力で闘わせてもらう! もとよりそのつもりだったけどな、ハハハッ!」


 ほんとどんな状況だろうといつも笑っているなこの男は。


「明日はお互い全力でやろう!」


 とセリウスが言うと、再度ジョッキを突き出してきた。


 俺はそれに応じて、乾杯をした。

 


 ――――――



 ――トーナメント会場待機所


「昨日も言ったが……お互い頑張ろうな!」


 セリウスは朝、顔を合わせるとそう告げてきた。


「あぁ、お互い全力を尽くそう」


 お互い拳をコツンと合わせる。


「さァ! 本日は待ちに待った決勝戦! セリウスVSルシア! どちらが勝者となるのか! 全く予想がつかないぜェ! では選手両名配置についてェ!」


 司会者の言葉でまもなく試合開始の知らせが入る。


「おっと、そろそろだな! んじゃ、俺は反対ゲートだから行くぜ」


 それじゃあ試合でな! と一言残し、セリウスは去っていく。


「ルシア! ハァ、ハァ……間に合ってよかった」


「ルシアくん♡」


 背後からシルとロゼッタの声が聞こえた。


「ルシア、決勝戦、がんばって! ただ! 無茶だけはしないでくれよ」


「ルシアくんはワタシが愛殺するの。だからこんな所で負けないし死なない」


「2人ともありがとう。精一杯がんばってくる」


 俺は礼を言い、2人を後にした。


 会場への入場ゲートの前に立つ。反対ゲートにはセリウスが微かに見える。


「――それでは両者入場だァ!」

 

 ――会場の中央まで歩く。


 セリウスと対面する形となり、両者顔を合わせる。


 「手加減はしないからな!」


 セリウスはハハハッと快活に笑い、白い歯を覗かせた。


 その表情には敵意ではなく、純粋な武人としての歓喜が満ちている。

 

 運命の糸に導かれるように、俺は今ここで彼と対峙している。静かに呼吸を整え、戦闘の準備を始めた。


 両者は会場の中心で、

 

「「──《神位》開放」」

 

二人の声が重なった。

 

――刹那。


 セリウスの闘技場を揺るがすほどの圧倒的な闘気が膨れ上がる。その闘気に圧倒される。


 激しい光の奔流が収まった時、セリウスの両拳には重厚なガントレットが装備されていた。


「さぁ! 遠慮も、配慮も、容赦もない闘争を始めようか!」


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― 新着の感想 ―
いつの間にか最新話まで読み終わってました!戦闘のテンポもよく、人間関係の描写もよかったです。★で応援させてもらいますので、続きを読めるのを楽しみに待ってます。
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