第28話「暴走」
――ペタ領にて
「はぁ、はぁ……ルシアくん待ってて」
ロゼッタ・マリィは、はやてのごとく走りペタ領の光の柱の前まで到着した。
しかし彼女の目の前にはヌボーが立ち塞がった。
「この先は、通せない」
「うるさい、どけ」
ロゼッタは周囲が萎縮するほどの殺気を放ち、短剣にて強行突破を図ろうとする。
〈メタ〉なき今、《神位》の使用にも制限時間がある。こんな所でモタモタしてられない焦りが彼女にあった。
ロゼッタは力強く踏み込む。目にも止まらぬ速さで、ヌボーに無数の斬撃を浴びせる。
それでも倒れないヌボー。
次は視界を奪うべく、目を抉る。
次に脚の腱を切る。
ヌボーはその場に倒れ込んだ。
最後に頸を狙う。
さすがに防がれるが、関係なかった。
そのままの勢いで後頭部のうなじを斬る。
ヌボーの頸はぼとりと落ちる。
「ワタシの邪魔をするなら、死ね」
頭から独立した身体はそのまま倒れ込む。
それを越え、前進することをやめないロゼッタ。
ペタ領の光の柱を越え、街の中を疾走する。
薄らと積もっている雪は以前来た時と変わっていなかった。
――――――
――〈ペタ〉の城内
「はぁ……はぁ……」
ロゼッタは戦闘に続き、継続して走り通していたため息が上がっていた。
「やぁ、待っていたよロゼッタ」
爽やかに言い放つシルファ。
鋭い眼光で、何も言わずに短剣を構えるロゼッタ・マリィ。
「そんなに睨まないでよ、ロゼッタ。一緒に旅をした仲じゃないか!」
「ルシアくんはどこ」
「いま、ルシアは立て込んでるんだ」
普段とは一変して、ゆったりとした口調で告げるシルファ。
「教えないなら吐かせる」
緊迫した状況を破り、先に飛びかかったのはロゼッタだった。
短剣を突き立て、急所を外すように攻撃を仕掛ける。
シルファはそれを翠色の剣で受け流す。
「時間がない。早く吐け」
「ロゼッタは《神位》が使えなくなるのも時間の問題だもんね。ここで時間を稼がせてもらいたいな」
ロゼッタは正面から強襲を仕掛ける。
その攻撃はまたしてもシルファに防がれてしまう。
「――クッ!」
「ロゼッタ、君では僕には敵わないよ」
「うるさい、黙れ」
その後も幾度となく攻撃を仕掛けるが、焦りからか、実力不足か攻撃は受け止められてしまう。
「はぁ……はぁ……」
「息切れをしてるね、ロゼッタ。もう諦めよう」
「ルシアくんのため……!」
強襲。
あっけなく弾かれる攻撃。
ロゼッタにとって、シルファとの相性があまり良くはなかったのだ。
――瞬間。
「やあ、やあ、またお会いしましたね、可愛いお嬢さん。なにやら少々悪戯が過ぎるようで……」
城内の奥からわざとらしい芝居がかった調子で〈ペタ〉が現れた。
シルファだけでも苦戦していたロゼッタだが、いま目の前には〈ペタ〉まで現れたのだ。
戦況は絶望的だった。
だがロゼッタの戦意は失われていなかった。
勝機のない闘いに身を投じようとしている。
「シルファさん、随分お遊びになられたみたいですねぇ」
「〈ペタ〉様、申し訳ございません。ちょこまかと厄介な相手でございまして」
「まぁ、いいでしょう。さっさと仕留めてしまいましょう」
「……はい」
シルファは剣を中段に構え、切っ先をロゼッタへ向けた。
ロゼッタは腰を落とし、顔の前で短剣を構える。
――刹那。
「ウオオオオオオオォォォォォ!」
地の底から響くような雄叫びが響き渡った。
その場にいる全員の動きが止まった。
「おぉ! 遂に目覚めましたか!」
〈ペタ〉はこの声の原因がわかっているのか大層に歓喜している。
地響きが鳴り、震動は徐々に大きくなっていく。
瞬間、突然一部の地面が崩壊した。
現れたのは――ルシア。
「ルシアくん!」
ずっと求めて、会いたかったルシアと再会できた。が、どこか様子がおかしい。
両手には黒炎を纏った手斧と大剣。
しかし身体からも黒炎が溢れ出しており、周囲には手斧や大剣が無数に生成されている。
「ウオオオオオオオォォォォォ!」
ルシアは雄叫びをあげる。その雄叫びはどこか乱暴な印象を周囲へ与える。
それに共鳴してか、地面から黒炎が溢れ出し、ルシアの周囲に漂っていた大剣と手斧は暴れ狂う。
「ここまで完成されているとは! 素晴らしい! さすが〈ゼロ〉の使者!」
〈ペタ〉は恍惚とした表情を浮かべ、歓喜に震えている。
ロゼッタは〈ペタ〉へ一直線に強襲を仕掛ける。
その間にシルファは立ち塞がり、攻撃を弾き返す。
「シルファ・ストームベルト、どけ! ワタシのルシアくんに何をした!」
彼女は珍しく声を荒らげる。
「薬で彼の《神位》は暴走してるんだよ」
「薬で、暴走……?」
理解できないといったふうに顔をするロゼッタ。
しかししばらくすると怒りに染まった表情に変わった。
「〈ペタ〉、シルファ殺す、殺す! よくもワタシのルシアくんに変な薬を打ち込んだな!」
何度も攻撃を仕掛けるが無残にも防がれていく。
「そろそろ終わりにしよう、ロゼッタ」
シルファはそう言うとロゼッタを横薙ぎに一掃した。
「――ッ」
何とか急所は短剣で防いだが、ロゼッタは後ろに大きく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「――かはっ!」
口から吐血するロゼッタ。
一方でルシアは以前雄叫びを上げ、黒炎を周囲に撒き散らしていた。
――しかしロゼッタの姿を視認した。確かに視界の中に留めた。
その瞬間。
ルシアは悲痛な雄叫びを上げ、〈ペタ〉の方へ向き直り、凄まじい速度で距離を詰めた。
周囲を浮遊していた武器群がこの城の主に一斉に向き直る。
一刺しだった。
ルシアの右手に握られた大剣で〈ペタ〉の身体が貫かれた。
それに続くように周囲を浮遊していた武器群も襲いかかる。
「……き、貴様ァァァァァァ!」
〈ペタ〉は声が裏返り、ヒステリック気味に叫んだ。
次にシルファに向き直り、彼を瞬く間のうちに一掃した。
「――グッ!」
「ウアアアアアァァァァァァ!」
一瞬のうちに戦況を一変させたルシアの悲痛な雄叫びは周囲へ響き渡る。
ルシアはロゼッタのもとへ近寄り、一瞥すると再度雄叫びを上げ、どこかへ去っていったのだった。




