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第26話「全能感」


『よくヤッタねぇ、エラいねぇ、スゴいねぇ! 打倒〈メタ〉くん! おめでとう!』


 ――あぁ、またここか


『いつもいつもヒドイなぁ……いい加減にしないと僕だって泣いちゃうし、暴れて怒っちゃうヨ!』


 ――わかったわかった……それで今回はなんだ? 〈メタ〉打倒祝いか?


『え、よくわかったネ! すごいすごい! よくぞ当てたお祝いにチューでもしてあげようか?!』


 ――遠慮しておく


『ハァ……いつもながら、ノリが悪い! もっとこう熱い返しがそろそろ欲しいね!』


 ――それで今回はこれだけか?


『いやダネェ、いつもそれだけで終わったことがあったかい? キミはいま現実で死にかけてるんだよ』


 ――こういうのもなんだが、いつものことだ


『違う違う! キミはイマ〈ペタ〉くんに、いろいろめちゃくちゃにされそうになってるんだよ!? 急いでどうにかしないとねェ』


 ――は? なんだって?


『ボクのダイスキなキミが、いろいろめちゃくちゃにされちゃうのは少し腑に落ちないなァ……というか納得が行かないなァ。これって嫉妬かな?』


 ――そういえば俺は最後にシルに刺されて……〈ペタ〉の下に連れていかれたのか。


『あれ、無視……? まぁ、いいや! ともかく早く抜け出して逃げなきゃ!』


 ――と言ってもどうやって抜け出すんだ?


『そんなの決まってるじゃないか! 自分で考えてよ! まだ僕はキミの意識にしか語りかけられないんだからさ! プンプン!』


 ――わざとらしく怒らないでくれ。それに大事なところは人任せなんだな。


『ソウダヨ!』


 ――自信満々に言わないでくれ。


『とりあえずさ、ガンバリたまえよ、しょーねん。人生なるようにしかならないんだからさ。それではガンバってくださいな』


 ――ドボン


 無責任な言葉と共に、強制的に切られる意識世界の接続。


 まるで海に突き落とされるような感覚に陥りながら、沈んでいく。



 ――――――



「やっ、おはよう、ルシア!」


 翠色の鎧を身に纏う、白髪の青年――シルファ・ストームベルトは爽やかに挨拶をしてくる。


 俺は動こうとしたが、両手に手枷がつけられており、動けないように拘束されている。


 軽く力を込めるが、外れそうにない。


「……シル、お前が翠色の騎士の正体だったんだな」


「騙していたようでごめんね、そうだよ。僕が翠色の騎士なんだ」


 それに、と言葉を続けるシル。


「僕はヌボーが神子だって伝えたけど、僕が〈ペタ〉様の神子だよ」


「……そうか。いつから俺に嘘をついていたんだ」


「ほとんどが本心さ、ただ裏切る予定は初めて出会った時から決まっていた。僕は〈ペタ〉様に監視するよう命じられて君に近づいたんだからね」


「……監視? なぜ監視を」


「深いことは僕にはわからないけど、〈ゼロ〉様に愛されし少年だとか言ってたね」


「ハッ……〈ゼロ〉に愛されし少年ね」


 あんなやつに愛されても嬉しくもなんともないけどな。


「ロゼッタとファルはどうした? まさか殺したりはしてないだろう」


「うん、2人とも無事だよ」


それは良かった、と安堵感に包まれる。


「妙に色んなことを教えてくれるんだな」


「話して困ることは話していないからね」


 だけど、と言葉を続ける。


「きっとロゼッタは君のことを救いに来るだろうね。その前にやらなきゃいけないことをやらないとね」


「やらなきゃいけないこと……?」


 シルは注射器のようなものを用意する。

 

「君は〈ペタ〉様のお気に入りみたいだからね、特別な薬を使うみたいだよ」


 そう言うと、シルは俺の腕にそっと注射器のようなもので穿刺する。


「――うっ」


 元から身体の中になかったはずの異物が流れ込んでくるのを感じる。


 身体中に巡り、頭が妙にクラクラする。


 また〈メタ〉との戦闘時に使用した薬と同じような高揚感や、全能感に襲われる。


「……な、何をした?」


「〈ペタ〉様が命じた薬を注入しただけさ」


 ははは、と普段通り爽やかに笑うシルはどこか投げやりめいて見えた。


「じゃあ僕は行くからね、どうか死なないでね」


 心配か、どうかわからない去り際の言葉を残していく。


 身体は拘束されていて動けない。


 頭はクラクラして、妙な感覚に襲われている。


 なんなんだ、この全能感は。


 わからない。


 あの薬は一体なんなんだ。


 いまならなんでもできそうな気がする。


 ダメだ。


 これに飲まれたらダメな気がする。


 いや、少しくらい飲まれてもいいのではないか。


  いいだろう、飲まれても。


 このまま全能感に、全て身を任せてもいいのではないか。


 そう思ったとき、俺は何か超えてはいけない歯止めが切れた気がする。


「――う、うぅ! ウアアアアアアアア!」


 身体が変化していく感覚がある。


 《神位》がいうことをきかない。


 《神位》の暴走――!


 俺はどうなってしまうのか。


 今更、冷静に考えたところで、遅いだろう。


 この暴走は止まらない。


 全能感に浸ってる俺はこれに身を任せることにした。


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