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第21話「世十字軍」


 ロゼッタの家は代々、神子と共に〈絶対者・メタ〉に仕える由緒ある家柄であった。


 その家ではロゼッタ・マリィは出来損ないだった。


 母は嘆き、父は罵った。


「なぜあの娘だけ出来が悪いのかしら」


「お前は出来損ないだ」


 ロゼッタ・マリィはどうしようもない欠陥品であった。


「あの娘は不気味な子だ」


「忌み子め」


 なぜなら、〈メタ〉より授かった《神位》をなかなか開放させることができなかったからだ。


 また、ロゼッタは好意を寄せた対象に異常なまでの執着を抱く特殊な習性があった。

 しかし、その習性は好きなものを愛すると共に殺害衝動も付き纏った。


 ロゼッタ・マリィは《神位》の開放と自身の習性について苦悩し、考えた。


 圧倒的なまでの劣等感と、好きな物への異常な執着心、殺害衝動に阻まれ、やがてロゼッタの心は崩壊した。


 ある日、少女・ロゼッタは殺害衝動が抑えられず、やがて1人の執着するほどに恋焦がれる少年を傷つけてしまう。


 ロゼッタは腫れ物扱いされ、独房に入れられた。

 しかしもう殺害衝動の歯止めが効かなくなっていたロゼッタは心に誓った。


「愛を育んでから殺せばいい」と。

 


 ――――――

 


 3人からの息継ぎもできないほどの激しい攻撃が俺たちを襲う。


 何とか凌いではいるが、いずれ瓦解するのは目に見えているだろう。


「1度、退こう! このまま攻撃をされてちゃ僕たち死んじゃうよ!」


「賛成だ! ここは俺がが引きつける、その隙に引いてくれ!」


「ダメ、ルシアくんが殺される!」


「俺は大丈夫だ! シル、ロゼッタを頼む!」


「わかった! 逃げようロゼッタ!」


「ルシアくん……!」


 ロゼッタを無理やり荷台に乗せるシルは勢いよく馬車を走らせた。


「あーあ、【No.1】様ぁ、ロゼッタ様含め逃げられちゃいますよー」


「あの出来損ないは後でも殺す。まずは目の前の敵に注意しろ。あいつは中々強敵だぞ」


「はーい、りょーかいでーす……というわけでそこのお前、不法侵入罪で殺すから」


 【No.2】と呼ばれる人物はダルそうな口調から、ピリつくような殺意に一瞬にして切り変わり、それをこちらに向けてくる。

 

「殺せるもんなら殺してみろ」


「かっちーん、頭きた。ぶっ殺す」


 【No.2】は殺意に満ちた眼差しを向け、その手に光の槍を生成させる。それを躊躇なく全力で投げてくる。


 俺は右手に大剣を生成し、弾き返したあと、左手で視界を奪うように周囲一帯に広がる黒炎を放射する。


「あっつー、だるすぎ。なんも見えないし!」


 【No.2】は軽く舌打ちをし、手で顔を扇ぐ。


 ――視界は奪った! 今のうちに退避する。


 俺は片脚に今一番考えうる限りの力を込め――踏み込む。


 空気を裂くような速度で走り抜ける。


 このままシルたちの馬車に追いつこう……!


 その勢いのまま市街地の方へ走っていった馬車を追いかける。


「はにゃ? あいつ早すぎでしょー!」


「感心してる場合ではない! 【No.9】は他のメンバーも招集しろ! 追うぞ【No.2】!」


「あいあいさー」


「かしこまりました!」

 


 ――――――

 


 ――メタ領 市街地

 

「まさかほんとに敵を撒いて、追いついてくるとは思わなかったよ」


 驚きとも、呆れとも取れない調子で言うシル。


「ルシアくん、無事でよかった」


「あぁ……心配かけてすまなかった」


 あの後、先行していたシルの馬車に何とか追いつき、市街地の目立たない死角となる場所にて休息を取っていた。


「いやぁ、あの人たちなんなんだろうね。いきなり命を狙ってきて! まぁ、確かに許可なく侵入したのは僕たちの方なんだけどさ」


 シルは困惑したように、かつ自虐気味に言い、ハハッと笑う。


「……世十字軍と名乗っていたな、ロゼッタのことも知っているようだったが……ロゼッタは何か知っているか?」


 俺は問うと、ロゼッタはやや俯き気味に喋り始めた。


「…………神子を筆頭にメタ領を守っている組織。ワタシはあの組織に【No.10】として所属していた」


「ロゼッタは所属していたのか」


「うん、その【No.1】がワタシのお父様……」


「なんだって」


 衝撃の事実が判明する。


 ロゼッタが世十字軍という組織に所属していたなんて。


 しかもそのトップが父親だというのだ。


「もしかしてロゼッタは僕たちのこと監視とかしてたのかい?」


「……違う! 監視とかしていない……ワタシは勝手にルシアくんについていってた……」


 弱々しくそう言うロゼッタだが、不思議と信頼にできるように感じた。


「とりあえずこれからの課題は世十字軍だよ。あの人たちは僕らより数も多く、戦闘能力も高い。なんとかしないとこのまま殺されちゃうよ」


 シルは深刻そうに言う。


 しばらく沈黙が続く。


「…………俺がヤる」


 沈黙を破ったのは俺の一言だった。


「また無茶しようとしてるのかい! 相手が何人いるか現時点ではわからないんだよ!」


「世十字軍は【No.1】〜【No.10】までいる。【No.10】のワタシが抜けたからあと9人いる」


「……ほら! あと9人もいるのにどうやって勝つって言うのさ!」


「――俺に奥の手がある」


「奥の手ってなんなのさ!」


 シルは子供を叱りつけるように叫ぶ。


「……ルシアくん、ワタシもお手伝いさせて。まだルシアくんに愛殺をしてない」


「…………今回は巻き込む可能性があるロゼッタはシルと一緒に行動してくれ」


「ワタシだってそれなりに戦える。それに相手の情報いっぱい持ってる」


「いや、危ないからダメだ! 今回は俺がやる」


「……ルシアくんはいつもワタシを戦闘から遠ざける」


「ロゼッタのことが大切なんだ。もちろんシルのことも」


「…………殺す」


 ロゼッタはやや頬を染め、ぼそっと呟く。


「悔しいけど、僕は戦力になりそうにないから、ルシアの帰ってくるところを守っているよ」

 

「あぁ……シルは馬車を守っていてくれ」


「とりあえず俺には奥の手がある。それで世十字軍を倒す」


 俺は改めて2人の顔を見て、告げる。


「……ん」


「必ず生きて帰ってくるんだよ」


 俺たちは各々に決意を固め、シルは呆れたように笑った。

 

 

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