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第20話「焦燥と癒し」


 復讐心に乗っ取られたかの如く、黒炎の勢いは留まるところをしらない。


 黒炎がこの身を焼き焦がすように痛みを与えてくる。


 まるで今まで背負った十字架を償うための自傷行為のように。


「ルシアくん!」


「ルシア!」


 突如、俺に声をかける女性の声――ロゼッタとシルファは心配そうにこちらを見つめてくる。


「――下がってろ!」


 危険を知らせるために叫ぶ。

 2人を巻き込む訳にはいかない。


 ――しかし。


 警告のそれら全てを無視するようにロゼッタは近寄ってくる。


「ロゼッタ、危ないよ!」


 シルは警告のため叫ぶ。


 ロゼッタは一瞬、黒炎の熱気に身じろぎをするが、それでも歩み寄ろうとしてくる。


 ついに黒炎を超え、ロゼッタは俺を包み込んだ。


 黒炎に焼かれ、痛みだって伴うだろうに、痛みすら感じないというように俺を抱きしめる。


「ルシアくんはワタシのもの。安心して、ワタシがアナタを逃がさないから。愛殺まだ終わってないもの」


 ロゼッタはいつもと同じゆったりとした声音ではなく、妙に優しさに溢れる声音で包み込むように告げる。


「…………俺はどれだけ失えばいい、弱い自分が悔しい」


 自分でも驚くほどの自然と漏れ出る弱音。


 見苦しい。


 守るべき相手に対して、弱音とは見苦しくて、自分が惨めに思う。


「愛しいワタシのルシアくん。辛いときはワタシを頼っていいよ」


 そんな感情も忘れるくらい、強く、だが優しく包み込んでくれるロゼッタ。

 まるで聖母のように穏やかに抱きしめてくれる。


 次第に黒炎は収まり、鎮火していく。


 やがて完全に黒炎は消え去った。


「落ち着いたかな」


「あぁ……すまない……正直助かった」


「よかった」


「2人とも無事でよかったよ!」


「シルも心配をかけてすまなかった」


「いやいや! 僕的には2人とも無事ならよかったよ」


 ちなみに、とシル。


「これからどうする? 一応〈メタ〉様の領地の目の前だけど予定通りに攻め込む? ヌボーさんもいなくなってしまったし1度立て直すために戻るかい?」


 このまま戻ってもいいが、なぜ芥徒が殺されなければいけなかった理由を知らなければならない。


 何より復讐の相手がすぐそこにいる。


 正直〈ペタ〉の〈果ての獣〉の件も気になるが、いまは〈メタ〉への復讐心でいっぱいだった。


「……いいや、このまま俺たちだけで攻め込む。このまま〈メタ〉を殺す」


「わかったよ! 馬車で乗り込もう!」


 シルは馬車の御者台に乗ると勢いよく告げる。


「行こうか、ロゼッタ」


「……ん」


 ロゼッタへ手を差し伸べると、手を取り、軽い相槌と共に馬車の荷台に乗り込んでいく。


「さあ! いざメタ領へ!」


 馬車は走り出す。メタ領の光の柱へ向かって。


 ――――――


 光の柱を抜けた先は白銀の世界が広がっていた。


 中世ヨーロッパのような建造物が立ち並び、しかしどこか厳格な印象を受ける。


「メタ領に入ってきたね」


「あぁ……ついにメタ領に侵入したな」


「このまま馬車に乗ってると怪しまれるから、1度降りようか」

 

 シルはそのまま御者台から降りる。


 ――刹那。


 1本の光の槍がシルめがけて飛んできた。


 俺は瞬時に右手に手斧を形成し、迎撃する。


「――侵入者を発見。排除する」


 そう言うのは芥徒と同じ白銀の鎧に身にまとった茶髪の男性だった。


「みんな、下がってろ! ――《神位》開放」


 いつも通り右手が靄に包まれ、片手には大剣が形成される。


「――不法に侵入する者に罰を」


「お前は誰だ!」


「私は世十字軍(せいじゅうじぐん)【No.9】。貴様ら侵入者を罰するものだ」


「……世十字軍?」


 先程、ロゼッタに対して芥徒の口から出た名前と同じだ。


 メタ領には〈神子〉以外の守護者がいるというのか。


 芥徒の口ぶり的にロゼッタと何か関係がありそうだが、ともかくこの場を凌がなければ……!


 俺は片手で大剣を中段に構え、その上から手斧をクロスさせるように構え、戦闘態勢を取る。


 先に攻撃を仕掛けてきたのは、向こう側からだった。


 光の槍の投擲。


 仲間へ当たらないように手斧で軌道を逸らし、避ける。


 その隙に一気に距離を詰め、大剣で横薙ぎ一閃。


 【No.9】と名乗る男性は光の槍を生成し、攻撃を防ぐ。


 それを受け流し、カウンターをしてくる。


 手斧で何とか防ぐ。


 その後も、せめぎ合いが続く。


 ――そのとき。


「――やめろ」


 突如、何者かの声が響き渡り、両者の攻防は終わりを迎える。


 声のする上空を見上げると、【No.9】と名乗る人物と同じ白銀の鎧を身に纏った人物が現れる。


「誰だ!」


 俺は突然の訪問者に問う。


「……私は世十字軍【No.1】。貴様らが侵入者か」


「【No.1】様ぁ、アイツ随分弱そうなヤツですねー。ホントに〈ロレ〉様を敗ったヤツなんですかー? なんかボクでも殺せちゃいそう!」


「黙っていろ、【No.2】」


「はーい」


 蒼髪をした【No.2】と呼ばれる女性はヘラヘラとした口調で喋る。


「【No.1】様、【No.2】様、侵入者を仕留めきれず申し訳ございません」


 【No.9】はかしこまった様子で謝罪をしている。


「お父様……」


 ロゼッタは驚愕の表情をし、咄嗟に短剣を構え、ボソッとこぼした。


「ロゼッタか。出来損ないの貴様が刃を向けるということはそちら側に着くということか……?」


 【No.1】と名乗る人物はロゼッタにそう問う。


「……ん」


「ならば、世十字軍【No.10】ロゼッタ・マリィは反逆罪として、ここで極刑とする。また、不法に侵入した不届き者たちにも大いなる罰を下す。〈絶対者・メタ〉に栄光あれ」


「〈絶対者・メタ〉に栄光あれー」


「〈絶対者・メタ〉に栄光あれ!」


 各々が光の槍を生成し、それを天高く掲げ、胸に手を当てた。


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