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第17話「準備」


「――〈メタ〉君を殺害するための同盟を組まないかい?」


 そう提案されたのは想定外の出来事だった。


 こいつは何を考えている。


 ニコニコとした笑みは崩れず、両の手を上げている。


「あぁ……そんなに警戒しないでおくれ。はっきり言うが、私は〈メタ〉くんが少々邪魔でね……それにルシアくん。君にとっても悪い条件ではないはずだが?」


「なんだと?」


 まさか、こいつは俺が復讐を目論んでいるのを知っているのか。


「私は「耳」がよくてね、ルシアくん。君が〈メタ〉くんや、私のことすら殺害しようとしてるのは知っているよ」


 こいつはどこまで知っているんだ……!


「あぁ……別に咎めようとしている訳では無いよ。協力して欲しいのだよ……〈絶対者・メタ〉の殺害に。別に断ってもらっても構わないよ。まぁ、私の配下がどのような行動をするかはわからないがね」


 〈ペタ〉の背後にいる翠色(すいいろ)の騎士は帯刀している剣に手をかける。まるでいつでも斬りかかれると言っているようだ。


「ワタシはルシアくんの選択に委ねるよ」


 隣にいるロゼッタはいつの間にか短刀を手にして、こちらも戦闘準備完了と言っているようだ。


 空気は殺伐としていた。

 3対2……形勢は火を見るより明らかだ。

 

 明らかにこちらの数的不利。無理をすれば勝てなくも無いかもしれないが、〈ペタ〉はどこか不気味な雰囲気を纏っていて、隠し玉を持っていてもおかしくない。

 

「あぁ、願ってもないことだ。同盟を組ませてもらおう」


 殺伐としていた空気は和らぎ、気づけば隣のロゼッタは短刀をしまっていた。


「おぉ……! さすがルシア君だ! 賢明な判断だ。決行は君たちが準備が済み次第で良いよ。作戦と言ってはなんだが、先にヌボーをメタ領に配置させて侵入経路を確保しておく。そこでヌボーと合流し侵入してくれ」


「後ろの騎士は来ないのか」


 俺は問うた。


「嗚呼……! 彼は別件で任せている任務があってね。残念ながら同行することは難しいのだよ」


 仰々しく、言う姿は裏があるのではないかという胡散臭さが拭いきれない。


「そうか、それはすまないな」


「いやはや、同士よ! 謝らないでおくれ! まず今夜は私が宿屋を手配しよう、ゆっくり休みたまえ」


「感謝する……聞いておくが、仲間はつれていっていいのか?」


 俺は感謝を述べ、気になる点を問う。


「あぁ……! 連れていくといい」


「わかった、準備をさせてもらう」


 それだけを言うと、その場を後にした。



 ――――――



 手配してもらった宿屋へヌボーに案内してもらった。

 そのままヌボーは何も言わずにどこかへ去っていった。


 愛想がないと言うより、機械的だな。


「おーい! ルシア! ……ハア、ハア……やっと合流できた……宿屋見つかった?」


 後方より俺の名前を呼ぶのはシルだ。

 走って駆け寄ってきたのか息も絶え絶えになっている。


「あぁ、見つかった……というより領主の〈ペタ〉に紹介してもらったよ」


「それはよかったよ!」


 シルは心底嬉しそうに言う。

 もっと驚くと思ってたのだが……そうでもないか。


「宿屋に入ろうか」


 俺たちは宿屋に入るとチェックインを済ませ、各々の部屋に入っていった。



 ――――――



 ――コンコン


 夜も更けてきた頃、唐突に部屋の戸は叩かれた。


「ルシア」


 扉の先から声をかけてきたのはシルだった。


「入っていいぞ」


 扉は開き、シルは「やっ」と軽く爽やかに挨拶をする。

 そう言うと後ろ手に戸を閉めた。


「深夜にごめんね、聞きたいことがあってさ」


「ん? なんだ?」


 シルが聞きたいこととはなんだろう。


「〈ペタ〉様に呼ばれたんだろう? なにかあったのかい?」


 そのことか。

 なんと言おうか……正直に言ってもいいものか。


「なんだよ、つれないなぁ……話せないことなのかい?」


 俺が少し黙っていると、悩んでいることがバレてしまったか。


「実は〈ペタ〉から〈メタ〉の討伐同盟を組まないかと言われた」


「なんだ、そうなのかい」


 予想以上にシルの反応は薄かった。


「それは僕も同行していいのかい?」


 恐る恐るというふうにシルは聞いてくる。


「え? ……いや、俺の方がいいのか、危険な旅になると思うが……」


「今まで危険じゃなかったことなんかなかったじゃないか! 特にルシアはすぐ危ないことするんだからさ! 僕も一緒についていくよ」


「ありがとう、シル」


 感謝しかなかった。

 元々声をかけようと思っていたが、どこか引け目に感じていた。


 それだというのに、この危険な旅に同行してくれるといってくれるのはありがたい限りだ。


「任せてよ、戦闘には参加できないけど、精一杯応援と補助はさせてもらうよ!」

 

「ありがとう、応援だけでも助かるよ」


 シルには感謝しかない。

 助けてもらった恩もあれば、無茶をしたとき何度も助けてもらった。何度も心配かけてしまったりもした。


 まるで何かに仕組まれているのではないかというほど恩がある。


 まぁ、シルに限って何かを仕組むなんてないだろう。


「とりあえず僕はそろそろ戻ることにするよ、おやすみルシア」


「あぁ、おやすみシル」


 シルと挨拶をすると、俺はそのまま大人しく床に就いた。



 ――――――



 ――翌日


「なにを……やってるんだ」


「おはよ、ルシアくん♡」


 朝起きるとロゼッタが横で寝ていた。

 そうだ、これが所謂(いわゆる)『添い寝』というやつだ。


 俺は既視感を覚えつつ、頭を抱える。


 俺にはもう理解が追いつかない。


 そしてこういう時に限って、やってくる。


「ルシア、おはよう! 今日……は……あー、また邪魔しちゃったかな?」


「ルシアくんが積極的なの……♡」


 もう頭が痛い。

 もういっそ殺してくれ……いや、死なないが……。


 俺たちの朝はドタバタと始まった。


 

 ――――――



 ――城下町にて


「よし、準備はできたな」


 〈メタ〉の領地へ行く準備ができた。

 あとは〈ペタ〉の城に行き、準備ができたことを報告すれば出発するだけだ。


「ルシア、ごめん! ちょっと仕入れの用事を思い出して、あとで光の柱の前で待ち合わせでもいいかな?」


「あ、あぁ……構わない」


 そんなに緊急の仕入れの用事だったのだろうか。


「じゃあ、あとでね!」


 シルは足早にどこかへ去っていった。


「俺たちも行こうか」


「うん、行く」


 俺たちは〈ペタ〉の城へ目指して歩き始めた。


 

 ――――――



 ――〈ペタ〉の城にて


「やあ、やあ! よく来てくれたね2人とも! 君たちのことを待っていたよ! 準備はできたのかい……?」


 芝居がかった様子で両手を上げ、大層に〈ペタ〉は歓迎する。

 背後には翠色の騎士が前回同様立っている。

 

「あぁ、準備は万全だ。今すぐお前のことを殺すこともできるぞ」


「おぉ……! 活きがいいのはいいことだ! その調子で〈メタ〉君を殺害してくれたまえ!」


 俺からの殺気なぞ眼中に無いと言わんばかりに、軽々と話を流されてしまった。

 だが、場は確実に一瞬殺伐とした。


 翠色の騎士は帯刀している剣に手をかざし、ロゼッタは短刀を形成していた。


「さぁ、さっそくだが、ルシアくんたちは〈メタ〉くん討伐に向かってくれたまえ。先にヌボーがメタ領で待っている―よ」


「わかった、向かわせてもらおう。行こうロゼッタ」


 ロゼッタはこくんと頷く。


「嗚呼……待ちたまえ。何か困ったことがあれば、これを使うといい……!」


 〈ペタ〉は俺たちを引き止めると、ガラス瓶に入った赤い液体を渡してきた。


「《神位》を強化する薬だ。是非とも役立ててくれたまえ……!」


「……使う機会があれば使わせてもらおう」


 俺は素っ気なくそう言うと、その場を後にした。

 

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