第16話「〈ペタ〉」
風を切り、荒廃した大地を颯爽と駆ける馬車。
道中、砂利などで馬車はガタンと揺れ動く。
「もうすぐ〈ペタ〉様の領地に到着するよ!」
御者台より荷台へ声をかけるシル。
「あぁ、わかった」
ゼタ領の時のように戦闘になるかもしれない。
光の柱に近づく度に、どこか身構えてる自分自身がいた。
「ルシアくん、緊張してる?」
「ん、いや、そんなことはない」
嘘だ。内心、緊張をしてしまっている。
前回のように急に戦闘になるかもしれない。
「大丈夫、何があってもルシアくんはワタシが守るから」
いつも通りのゆったりとした声音で、変化の無い表情でロゼッタは言う。
「ハハッ……ありがとう。そう言ってくれるのは嬉しいが、俺のために無茶はしなくていいからな」
そう言うとロゼッタは、むっとしたような表情をしたかと思えば、どこか頬が赤くなっている気がした。
「……死ねばいいのに」
「ん? 何か言ったか?」
俺がロゼッタへ尋ねるとふるふると首を振り、なんでもないと示してくる。
依然、頬は少し赤いような気がするのは気のせいだろう。
「イチャついているところ悪いんだけど、〈ペタ〉様の領地に到着したよ!」
イチャついているとはどういうことだろう、と薄々考えつつ、ゼタ領の時のように急に戦闘になったりするようなら、俺が前に出て、守らなければと使命感に駆られる。
俺は荷台から降りて、いつでも戦闘をできるように身構える。
すると眼前の光の柱からは驚愕するほどの巨躯の男性が現れた。
どこかぼーっとしていて、単純な意思疎通はできそうだが……。
「僕たちは配達屋です。物資を運んで来ました」
シルがそういうと巨躯の男はコクリと頷くと、光の柱へ戻っていった。
「入国許可が出たみたいだね。さっ、中に入ろうか」
「今のが入国許可なのか……」
俺は呆気ないと感じながら、光の柱の中へ入っていく。
光の中は驚くことに雪が降っていた。
降りしきる雪は薄らと積もり、真っ白な世界が広がっていた。
「さっきの奴はこの世界の神子なのか?」
「そうだね、さっきの人はこの領地の神子『ヌボー』様だよ。常にボーッとしてるから神子様らしくないよね」
清涼感溢れる笑みでそう話す。
「とりあえず滞在するに当たって、宿を取らないとだな」
「そうだね、この近くの宿屋は……」
「宿屋はワタシたちが探しておく。シルは物資の運び出しをしてきたらいい」
ロゼッタはやや早口に意味ありげに言う。
「う、うん、ありがとう……? じゃあとりあえず宿屋探しは任せたよ」
「ならシルとはここで別行動だな」
シルと別れ、ロゼッタとふたりきりになる。
「……やっとふたりきりになれた」
「え?」
「なんでもない。さあ早く宿屋を探しに行こう」
俺は急かされるように、ロゼッタに手を引かれ、連れていかれる。
「ロゼッタは宿屋の場所はわかるのか」
「わからない。だけど歩いていれば見つかるはず」
「行き当たりばったりだな!」
「ルシアくんは私に着いてきて。きっと大丈夫だから」
「それは信用していいのか……」
俺はロゼッタに半信半疑のまま着いていくことになった。
心配だ……。
――――――
――夕刻
日も落ちてきて、そろそろ宿屋を決めなくてはいけなくなってきたのだが、
「ロゼッタ、そろそろ宿屋を探さなくていいのか……」
未だ俺たちは宿屋を決められていなかった。
というより、ロゼッタの寄り道が多かった。
〈ペタ〉の領地ご当地の食材、謎肉レッグ、謎肉まん、
おまけにご当地スイーツ謎肉パフェを全制覇した。
途中、「あーん♡」などあり、優和にすらされたことのない俺は困惑。全力で回避しようとしたのだが、無理やり口に押し込まれてあえなくKOである。
「まだ夕方、大丈夫……のはず」
「……いま、はずって言ったか?」
「いや、言ってない」
「そ、そうか……」
すごい勢いで否定してきたロゼッタの勢いに負け、俺は何も言えなかった。
そんな話をしていると目の前から見たことのある巨体の男がこちらへ歩いてくるのが見える。
確かシルは「ヌボー」とか言っていたか
次第に俺たちに近づいてきて、やがて目の前で立ち止まった。
この領地の神子が俺たちに何の用だ?
「〈ペタ〉様、呼んでる、ついてこい」
「〈ペタ〉が呼んでる?」
「〈ペタ〉様、呼んでる、ついてこい」
そう復唱するヌボーは、身を翻し、元来た道を歩いていく。
「とりあえず着いて行ったほうがよさそうだな」
「うん」
俺たちはヌボーの言う通りに大人しく着いていくことにした。
――――――
しばらくヌボーに着いていくと、氷でできた巨大な城に到着した。
ヌボーは氷の巨大な城門を開けると、「はいれ」と指示を出してきた。
俺たちはそれに大人しく従い、城門を抜ける。
ヌボーは城門を閉めると、再度「ついてこい」と言う。
またしばらく城内をヌボーについて行くと、巨大なダイニングテーブルが置かれている大広間に通された。
大広間のダイニングテーブルの奥には水色の髪をして、装飾が施された服を着た人物が貼り付けたような笑みを浮かべ座っている。
その後ろには緑の兜と鎧を着込んだ人物が剣を携え、直立不動で立っている。
「やあ、やあ! はじめまして、というべきかな! 私は〈ペタ〉と申すものだ。以後お見知りおきを」
仰々しく自己紹介する人物――〈ペタ〉
はっきり言って胡散臭い人物だった。
「ルシアだ」
「……ロゼッタ」
俺たちは素っ気なく自己紹介を返した。
こいつは復讐対象、今すぐこいつを殺してしまいたい。
だが、いま襲いかかれば緑の騎士と、ヌボーと戦闘になり、2対1になるのは間違いない。やめておいた方が賢明だろう。
「あぁ! こんな私にご丁寧に挨拶をしてくれてありがとう!」
胡散臭さは抜けず、感謝を述べる〈ペタ〉
「まあ、まあ、君たちも座りたまえ」
スルトルは俺たちへ気を遣ったのか座るよう促す。
俺たちはそれに大人しく従い、座った。
「さあ、さあ! ここまで来てもらってすまないが、早速だ! ここへ呼んだ目的を話そうじゃないか。」
そう言い、〈ペタ〉は芝居がかった仕草で両手を上げて、
「――〈メタ〉君を殺害するための同盟を組まないかい?」
と言った。




