第13話「崩壊」
『ヤッ! キミは単純接触効果ってやつを知ってるかい? 会えば会うほど好きになりやすくなっちゃう っていうアレさ! その理論で行くならもうキミはボクのこと超超超超超超超! 好きなんじゃない!』
うざったくも、馴れ馴れしい話口調。〈ゼロ〉は今回も絶好調だった。
『ア、イマキミ、「うざい」とか思っただろう! やめて欲しいな! まぁ、でもボクは今とてもキゲンがいいんだ!』
――〈ゼタ〉を討伐したからか?
『ご名答! 正解も正解、大正解だよ! さてはボクの心を読んだねキミ……ぐふふ! ジョークさジョーク! 前に言われたからボクも言ってみたくなっちゃったんだ!』
――それは良かったな。……他に呼び出した理由はなんだ。
『いやぁ、それだけだよ! よぉく〈ゼタ〉くんをコロシテくれたネ! それだけで呼び出しちゃうレベルだよ!』
――俺は何度もお前の相手をしたくはない。
『ちぇっ、なんだいなんだい。負けそうになったらボクのこと呼び出したくせに……まぁ、僕なぁんにもしてないけどぉ……』
――もういいか?
『はいはい、わかったよ。ボクの相手してるより現実に帰りたいんだね。帰らせてあげるよ……』
あ、そうだ、と〈ゼロ〉が言う。
『キミ、〈ゼタ〉くんと正々堂々闘ったでしょぉ……ダメだよダメ! そんな危険なことして、負けたらどうするのさ! もっと女の子と、子供でも捕まえてさ! 人質にでも取ればよかったのさ! そしたら〈ゼタ〉くんは何もできなかったんじゃないかい?! 《放流》段階に至ったからって調子乗っちゃダメだよ!』
――俺はいくら復讐とはいえ、復讐対象以外、無差別に誰かが傷ついてはほしくない。
『甘いねぇ、甘々だよ。まるで小学生が変身して、悪の組織と闘ってる物語みたいだね! キミが言う復讐するということは誰かを傷つけるということなんだヨ、そこを履き違えてるんじゃないかい?』
――そうだ。でもだからといって、関係のない人間を人質を取ったりするのも違う。
『まぁ、キミの人生、キミの選択――全てキミシダイだからね。せいぜい頑張ってもがき苦しめよ。んじゃそれじゃあね〜』
――あぁ。
――ドボン
いつも通り落ちていく。
深い、深い、水の底へ……。
――――――――
――荒れた大地にて
「――ッ! ここは!」
俺は勢いよく飛び起きた。
「おはよ、ルシアくん」
いつも通りのゆったりとした声で、目覚めの挨拶をしてくれるロゼッタ。
周囲を見渡すと、そこはシルの馬車の荷台だった。
傷はほぼ完治まで回復していた。セリウスの「治癒」のおかげだろうか。
「おはようロゼッタ……俺はいつまで寝てた、あの後どうなったんだ」
俺はあの後すぐ気を失ってしまって……ゼタ領はどうなった。
「ルシアくんは数時間くらい寝込んでた。あの後のことは直接見に行った方が早いんじゃないかな」
「あぁ、わかった」
俺は馬車の荷台から飛び降り、周囲の光景に驚愕した。
ゼタ領はなくなっており、そこはただ荒れた大地が広がっていた。ゼタ領の市民たちが焚き火を囲い暖をとったりしている。
「これは……」
「ルシアくんが〈ゼタ〉様を殺害したから、ゼタ領は崩壊して、みんな行く宛てを無くしてるんだよ」
ひょい、と荷台から出てきたロゼッタはゆっくりとした口調でそう語る。
「俺のせいで……」
「おめぇは! 〈ゼタ〉様を殺したルシアとかいうやつじゃねぇか!」
突如、無精髭を生やしたゼタ領の住民から怒声を浴びせられる。
「よくも〈ゼタ〉様を殺してくれたな! お陰で住むところも……女房と、息子も崩壊に巻き込まれて死んじまった……お前のせいで全て失ったじゃねぇか!」
「俺は……」
言葉が出なかった。
〈ゼタ〉を殺すことで、ゼタ領に住む人間の生活どころか、家族や、大切な人、全てを奪うことになるとは考えてすらいなかった。
――身勝手な復讐
ぽつり、とその言葉が頭を過ぎ去って、反復した。
「俺たちの全部をぶち壊しやがって、死んでしまえ!」
その市民はその場に落ちていた瓦礫を持ち、投げてきた。
それをロゼッタはどこからともなく取り出したナイフで弾き返した。
「……ワタシのルシアくんに触るな、失せろ――殺すぞ」
ロゼッタはおぞましいほどの心底殺気のこもった声音で市民へ向けて、告げた。
初めて出会った時の、あの時の殺気を想起させるようだった。
「ひぃぃ……!」
市民はロゼッタの殺気にやられ、気の抜けた声を上げ、腰を抜かしながら、どこかへと走り去っていった。
「ルシアくん、大丈夫?」
先程の殺気は嘘だったのではないかというほど、ゆったりとした雰囲気を醸し出し話しかけてくる。
「……あぁ、大丈夫だ。守ってくれてありがとう」
しかし遠くから感じる市民の視線は、あまり良いものでは無さそうだった。
「あ、ルシア! 大丈夫かい!」
「おう、ルシア! 元気か!」
後方から突如声をかけてきた人物はシルとセリウスであった。
「あぁ、おかげさまでな」
「それは良かった! 心臓が飛び出している時はびっくりしたぞ!」
セリウスはハハハッと笑いながら、背中をバシバシと叩いてくる。毎度お馴染みの挨拶みたいなものになってきたな。
「ほんとだよ! 死ぬんじゃないかと心配したんだよ!」
シルは心底心配したのだと伝わった。
「すまない」
「……はぁ、もういつもの事だからいいけどさ」
呆れたように頭に手をついて言う。
「ハハハッ! まぁ、生きてたらいいじゃないか!」
「すまない、少し1人にさせてもらえないか」
俺は唐突に会話を終わらせた。
「ルシア、どこか行くの?」
「まあ、そんなところだ」
俺はひとりで考え事をしたかった。みんなの元から離れ、1人になれる場所を探しに歩き出した。
――――――
――夜間になり、焚き火を4人で囲んでいるときだった。
「ルシア! お前はいま何か悩んでいるな!」
セリウスはいつもの大胆な笑いはなく、確かに真剣な顔をしていた。
「ワタシも心配だった」
「そうだね、セリウスさんとロゼッタの言う通り、ルシアは何か悩んでるよね?」
みんなには俺の悩みなど筒抜けだったみたいだ。
俺はしばらくの沈黙の後、みんなに吐露した。
「俺は〈絶対者〉に復讐をする。ただそれが正しいのかわからなくなった。俺は〈絶対者〉を必ず殺すと決めた。だが俺が復讐を成し遂げると、そこに住む住民にも迷惑をかけてしまう。俺はどうしたらいいのかわからなくなった」
「……俺には深いことはわからねぇ! だけども、成し遂げたいことがあるならそれを貫き通せ! 例えそれが復讐で、人に迷惑をかける行為があったとしてもだ。そして、誰かに迷惑をかけたら、俺に言え。俺がケツを拭ってやるよ」
セリウスはハハハッと笑って背中を叩いてきた。
「ルシアくんはワタシのもの。ワタシはルシアくんに害をなす物、全てから守る。……ルシアくんに愛殺するのはワタシだから♡」
恍惚とした、歪んだ笑みでロゼッタは言う。
「そうだね、ルシアの目標が〈絶対者〉様たちへの復讐なら縁起でもないけどさ……僕も付き合うよ、復讐! こんな簡単な事じゃないと思うけど、迷惑かけちゃった時は一緒に謝ろう!」
シルは爽やかな笑顔で励ますように言ってくれる。
「みんな、ありがとう」
この仲間と一緒にいてよかった。
頼もしい仲間たちだ。
「さぁ、どうするにしても今日は寝よう! 特にルシアは早く寝ろ! 『治癒』も万能ではないぞ! ハハハッ」
「あぁ、そうさせてもらう」
「おやすみ、ルシアくん」
「ルシア、おやすみ」
「みんな、おやすみ」
俺は馬車の荷台に乗り、横になった。
そのまま意識はすんなりと眠りに落ちた。
――――――
「ルシア! いますぐ起きてくれ!」
シルは唐突に荷台の垂れ幕を開け、切羽詰まった様子で俺を叩き起した。
「――ッ! なにごとだ!」
俺は瞬時に起き上がり、シルへ問う。
「〈果ての獣〉の群れだ! いま〈果ての獣〉の群れに襲われてるんだ!」
「なんだって!」
俺は汗が額から垂れ落ちる感覚を覚えながら、急いで荷台から飛び降りた。




