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第11話「死闘」


「〈ゼタ〉お前を殺す――〈絶対者〉は皆、鏖殺だ、惨殺だ。俺はお前たちを絶対にゆるさない」


 そう、あの時、〈絶対者・メタ〉に大切なものを殺された日から決めていたこと。


 〈ゼロ〉との会話で他にも〈絶対者〉がいると聞いた日から決めていたこと。


 全て決めていたこと。


 〈絶対者〉は鏖殺だ、惨殺だ。――絶対にゆるさない。


 対するはこの領地の主〈ゼタ〉。


 真っ赤な髪が逆立っており、青い道着は真っ赤な髪の毛と対照的なものになっている。その青い道着から覗かせる肌は浅黒く、まるで日焼けしたかのようだ。


「貴様、〈ゼロ〉からその《神位》を授かっただろう!」


「なぜそれを知っている」


「知っているとも、貴様からは特殊な気配がするからな」


 〈ゼタ〉は〈ゼロ〉を知っていた。

 驚きの事実だが、よく考えれば〈ゼロ〉が〈絶対者〉の殺害を俺に頼むくらいなのだから面識があっても当然なのかもしれない。


「本来なら〈ゼロ〉の使者ということであれば《神位》を使用するところだが……《神位》を使えぬ貴様との勝負、《神位》の使用はしないでおこう。闘いは対等でないといけないからな」


 〈ゼタ〉は正々堂々とした立ち振る舞いで、《神位》を使用しなかった。


「その慢心がお前の敗因になるぞ」


「ハハハハハハァァァ! 貴様は慢心と語るか。オレは、こと闘いにおいて平等でないといけないと考えている!」


 構えを取りつつ、自身の闘いの流儀を語る〈ゼタ〉。

 彼は良くも悪くも『闘い』において、平等を大切にしているのだろう。


 しかし、こちらにとっても好都合ではあった。

 セリウスとの戦闘で疲弊しきった俺は《神位》を使える状態ではなかった。


「……全力で行かせてもらう」


「おう! 〈ゼロ〉の使者よ、いま出せる全力を見せてみろ!」


 両者構えを取っている状態で、初めに仕掛けたのは俺だった。


 左からのジャブ。


 右ストレート。


 右フック。


 どの攻撃も当たらないかと思ったが、〈ゼタ〉は意外にも全ての攻撃をノーガードで食らった。


 内心驚きを隠せなかった。

 なぜ攻撃を避けようとしない――。


 舐められているのか……?


 全ての攻撃を受けきった〈ゼタ〉は、こちらを見る。まるでこれで終わりかと言うように。


「貴様の攻撃は全て受け切ろう。それでこそ平等の闘い! 平等の闘いで勝ってこそ、真の勝利!」


 ――絶句。


 ここまで奴は『闘い』に平等を求めるのか――!


「では次はオレの番だな」


 ――来る!


 左からのジャブ。


 右ストレート。


 右フック。


 全て俺と同じ攻撃を繰り出してくる。


 全ての攻撃が重く、セリウスの比にならない。


 だが、ここで防御なんかしたら、負けたような気がした。


 全ての攻撃を受け切った俺はかろうじて立っていた。


「ほほう、耐えるか! ハハハハハハァァァ! 楽しくなってきたなァァァ! さあ、次の貴様の番だぞ!」


 〈ゼタ〉は心底楽しそうに笑っている。


 実際楽しんでいるのだろう。


 俺はいま出せる渾身の右ストレートを〈ゼタ〉の顔面に食らわす。


〈ゼタ〉の身体がやや後方へ吹き飛ぶ。

 

「良い右ストレートだ! 今のはなかなか効いたぞ! 今度はオレの番だな!」


 〈ゼタ〉は溜めに溜めた渾身の右ストレートを俺の顔面に打ち込んできた。


 ――俺は後方へ吹き飛んだ。

 

 当たった瞬間、あまりの衝撃で意識が飛ぶかと思った。


 俺は立ち上がり、再度〈ゼタ〉と対面する。


「ハハハハハハァァァ! 《放流》段階にも至っていない貴様がいまの一撃を良く耐えた! 褒めてやろう!」


「生憎、頑丈なんでね」


 強がりであった。気持ちの面でも負けてしまえば本当に負けてしまうような気がしたから。


「《放流》段階どころか、能力すら開放されていない貴様はどこまで耐えるか見ものだな」


「御託はいい。今度は俺の番だろ」


「嗚呼――再度、全力で来い!」


 ここでいま出せる俺の全力を全て込める。


 力をめいっぱい込めて。

 

 ここで決めることしか考えず、全力で。


 ――打ち込む!


 俺の右拳から放たれる全力のストレートは〈ゼタ〉の顔面に思いっきり当たる。


 〈ゼタ〉は後方へ勢いよく吹き飛んだ。


 その姿は土煙に紛れ、視認することができない。


 ――やったか! 〈ゼタ〉を倒したか!


 しかし、そんな気持ちすらへし折るように、〈ゼタ〉は、立ち上がってきた。


「――良いパンチだ!」


 〈ゼタ〉の感激したと言わんばかりの笑みが、逆に俺を絶望へと誘った。


「オレも本気でいこう!」

 

 次は本気。きっと耐えられず倒されてしまうだろう。


 俺の復讐はここで終わる。


「行くぞ!」


 力を溜められた拳は、今放たれようとしている。


 いま拳を振りかぶった。


 ――瞬間。


 まるでダイナマイトでも爆発したのかと言わんばかりの衝撃が頬に当たる。


 吹き飛び、壁にのめり込む感覚が、やけに生々しくリアルに伝わってくる。


 俺の意識は朦朧とする。


 混濁する意識の中で、ただ負けたくないと叫ぶ。


 ここで負けたら、復讐はどうする。


 優和(ゆうわ)は? 母さんは? 父さん? 凛は?


 今ここで負けちゃ駄目だろ! 何度だって死にかけて今ここに立って、憎き〈絶対者〉と対面しているんだから!


 俺は〈絶対者〉をゆるさない。


 いまここで勝てないなら、勝てる力が欲しい――!


 ――ドクン


 心臓の鼓動が脈打った。


『キミはやっぱりオモシロイねぇ』


 どこかから〈ゼロ〉の声が聞こえた気がした。


 きっと意識が曖昧だから聴こえるのだろう。


 ――次の瞬間、右の黒腕が、漆黒の炎を帯びはじめる。


『悦べ! キミは死にかけの時に、いま《放流》段階に階位を上げたんだ!』


 またどこからともなく響く〈ゼロ〉の声。


 ――俺が《放流》段階に……。


『そうだよ――さあ、行ってごらん。あとは〈ゼタ〉くんに勝てるかはキミシダイだ』


 ――あぁ、やってやる。このまま負けるなんてゴメンだね。〈絶対者〉は鏖殺だ、惨殺だ!


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