ビギナリアオークション
迷宮都市ビギナリアでは、年に一度だけ行われるオークションが開催される。このオークションはお忍びで、貴族なども参加するほど大きなオークションだ。
そこに今年から冒険者になった隻腕の少年と、両脇には青いゆるふわヘアーの美少女……反対は赤い髪の活発な美少女を、連れて歩いてる。
三人共に現在の迷宮都市ビギナリアで知らない者はいない、有名冒険者パーティー『セレスティアル・ガーデン』のメンバーだからだ。
何故なら以前のエースパーティー『リジェクテッド』が失敗した依頼を、100%達成した上で……更に長年の塩漬け依頼まで、こなしてしまった。もはや中級パーティーと言っても、良いくらいだろう。
そして、目を引く二人の美少女。彼女達に声をかける男の多くはその全てが涙を飲んだ。彼女達はルディ以外になびく事はなく『鉄壁の両翼』と、言われるほどだ。
そんな彼らもオークションというお祭りを楽しみながらも、目当ての会場まで歩いていく。そう、誰もが羨ましいと思うくらいベタベタしながら……
「主様、はい。あ〜んして下さいな」
「あ〜ん」
「むぅ、アオイばっかりずるいわ。ルディ、次はこっちの串焼きも食べて」
赤い髪を揺らしながら頬を膨らませるアカネと、それをウフフと余裕の笑みで見守るアオイ。
左右から伝わってくる柔らかい感触と良い香りに、俺は苦笑するしかない。
周囲の男たちからは、血の涙を流しながら……
「あの隻腕のガキ、何者だ……」「美少女二人を侍らせやがって、羨ましすぎるだろ」「赤髪ちゃんペロペロ」
と、突き刺すような嫉妬の視線が送られている。今の俺たちには、心地いいBGMのようなものだ。でも……一番最後のヤツちょっと来いよ。
「二人ともありがと。でも、そろそろ関係者入り口に行かないとな。鍛冶屋のオヤジさんたちが、待ってるからさ」
俺たちが向かうのは、一般の参加者が長蛇の列を作っている表門ではない。
今回、最高級の『特級魔鋼』の武器や、嘆きの谷のレア素材を出品する超大口顧客だしね。それに、VIPルームを取ってあるから……裏口の特設通路へと案内される。それに有名になると、やはり格というものが必要だと商業ギルドのギルマスに言われたからな。そんなモノかね……
…………その時だった。
「……おい、嘘だろ。なんであいつらが……」
一般の入場列の片隅から、聞き覚えのある、ひどく疲れた声が聞こえた。
視線を向けると、そこにはボロボロの衣服を身にまとい、目の下にドス黒いクマを作ったブリッツとエドガーが立っていた。見た目はアンデッドだな……
かつての輝かしい『リジェクテッド』の面影は、どこにもない。実力は元から無かったけどな。
違約金のせいで全資産を差し押さえられ、パーティーランクも最下位まで転落したらしい。あいつらは、残されたわずかな手元金で一発逆転の装備か素材を買いに、一般席の当日券に並んでいたらしい……うむ、ご苦労。クフフッ、随分と差がついたのぅ〜。
ブリッツの隣には、かつて美しかった顔がやつれて杖を突きながら、おぼつかない足取りでエドガーの服の裾を掴んでいるミラ。そして、怯えたように周囲をキョロキョロと見回し、完全に心を病んでしまっているエスナの姿もあった。
「ル、ルディ……お前……」
ブリッツが怒りと、それ以上の『絶望』に満ちた目で俺を睨みつける。俺は片手を上げて『よっ!』と挨拶した。
あいつらの目は、俺の左右で幸せそうに微笑むアオイとアカネの、息を呑むほどに美しい姿に釘付けになっていた。
「ウフフッ、主様。こんな時は、何かを言ってはいけませんわ」
「アンタ達に興味はないわ、フン」
その残酷すぎる現実を突きつけられ、エドガーは手が白くなるほど拳を握りしめ……ミラとエスナは、
「あ、あ、ルディ……そんな……」「ウグッ……ヒクッ……ルディさん……」
と声にならない悲鳴を漏らして、ガタガタと震え出した。
「じゃあ行こうか、二人とも。ここはちょっと、空気が淀んでるみたいだからさ。それでは良いオークションを……」
俺はあいつらと言葉を交わさず、すれ違いざまに……極上の冷たい笑みを投げかけた。
「あ……待っ、ルディ……」
縋り付くようなブリッツの声を背に、俺たちは最高級のVIPルームへと優雅に足を進める。
さあ、オークションの始まりだ。
地獄の底から必死に這い上がろうとするあいつらの頭上から、圧倒的な『財力』と『格の違い』という絶望の土砂を……これでもかとぶち撒けてやろう。
まぁ、中級パーティーになれる冒険者と、初級パーティーでも底辺に逆戻りした冒険者パーティーはこんなにも差があるんだな。
会場は広いが俺達はVIPルームだ。一番高い場所から見下ろす感じだね。
しかも、俺達の場所はオークション会場でも一番目立つし、下がよく見える位置だ。
そして幸運なのか不幸なのか……目の前の一般席で『ギュウギュウ』になりながらも居場所を確保している、元パーティーメンバーの諸君。エスナが俺達の存在を察知したようで、ミラに耳打ちしている。
流石は腐っても『忍者』のジョブを持ってるだけはある。VIPルームで見ている事に驚いたのか、ミラの顔が歪む。これがお前達が、選択した結末だ。この距離こそが、俺達の本物の距離なんだぞ。
俺は惜しむことなく、二人に対して手を上げて答えた。
二人は顔を伏せて、泣いているようだ。それに気がついたブリッツとエドガーは、こちらを指差して叫んでいたが周りの観客に『うるせー』とボコボコにされていた。うわ〜、痛そう〜。




