ドワーフ族の嫉妬
【ミラ視点】
ドワーフ族をご存知でしょうか? イメージでは暗い穴ぐらに閉じこもり、鉱石を掘る。そうした鉱石を加工して、鍛冶や細工などを施す。職人気質の種族だろう。
お酒や祭りなんかも、大好きな陽気なキャラだろうか……
しかし、ドワーフ族でも職人として成功出来る者は限られてる。
だから職人になれない者は、鉱石を掘り時には冒険者になって日銭を稼ぐ。まあ、ほとんどが酒代になるんだけどな。
そのドワーフ族でもやはり、男と女の違いはある。ドワーフ族にとって、鍛冶仕事は花形だ。特に男ドワーフにとっては、神職といっても良いだろう。
そこに女ドワーフが、我が物顔で槌を振っていたらどう思うだろうか……アタシには、その想像力が足りなかった。
アタシには人一倍、鍛冶の才能があった。だから、親方にも認められてはいた。
男のドワーフたちよりも正確に、誰よりも美しく金属を叩くことができた。お父さんの跡を継いで、この街一番の鍛冶師になる。それがアタシの夢だった。
だけど、周囲の男ドワーフたちは……それを許さなかった。
「女のくせに、神聖な炉に近づくな」
「お前が槌を振ると、火の神様が穢れる」
毎日のように作品を壊され、泥を塗られた。それだけならまだしも、命のような工具を折られた。これにはガマン出来ずに、腕力に自身もあったアタシは全て返り討ちにしていた。
悔しかった。男というだけで……大して腕もない奴らが大きな顔をして、才能のあるアタシが泥水をすする。
許せなかった。しかしそう思っていたのはアタシだけではなかった。そう、男達は徒党を組み仕返しに出たのだ。
正直な所、男のクセにみっともないと思っていたがやはり人数差には敵わずに……取り押さえられる。
アタシが見た最後の光は、アタシの大事にしていた工具を『自分の眼』に振り下ろされる瞬間だった。アタシの両目はそれから、光を映す事は無くなった。
後は完全な闇になり、アタシの鍛冶師としての生命は終わった。だから、冒険者にしかなれなかったんだ。
「ルディ君、お願いします。この子はミラちゃん。お願いはミラちゃんを、ルディ君達のパーティーメンバーに入れて上げてもらえませんか?」
そんな中、お節介受付嬢フィオナからルディを紹介して貰ったの。アタシはもう目が見えないから、冒険者パーティーに入るなんて無理だと思っていた。
「でも、なぜ冒険者に?」
ルディが質問してきた。まあ当然思うよな……アタシの目的は……
「……アタシだって、出来れば職人になりたかったさ。でも、こんな眼では職人にはなれないから、だから目を治せるかもしれない……ダンジョンの宝物を……」
「なるほどね。『女神の涙』か? それなら目が治るかもな……でもかなり難しいダンジョンでないと、確認されてない宝物だよな? その眼で行けるのかい?」
アタシはルディの冒険者パーティーに入れて貰う事が出来て、スライムのアカネと一緒特訓して魔力感知や熱感知を得られたと思っていた。全てはアカネのサポートによるものだったのに……
アカネの一心同体の効果で、目が見えていた頃と変わらず生活ができた。それにアカネが、敵の攻撃なんかも防いでくれていたみたい。言い換えればアタシは、ルディにいつも守られていたのに……
アタシは自分から、それを捨ててしまった。バカな女だ。ルディが商会や生産などでお金を稼いでくれて、それをちゃんと皆に分けてくれた。それが普通になり、当たり前になり、足りなくなっていた……
ほんの出来心だったの。少しルディには内緒で……ダンジョンの物を換金して、お小遣いにしようとエスナと共謀していた。
それがバレて、エマールから男性冒険者を同行させる事を提案された。
代わりに、ルディに着服を黙っているからと……
エマールが連れてきたブリッツとエドガーは、恋を知らなかったアタシもエスナも手のひらで転がされるように……心も身体も操られてしまった。
いつも側で守ってくれていた、ルディがいたにも関わらず……
ブリッツたちの言葉は、凄く甘かった。
『ミラ、お前は本当に可愛いな』『あんな隻腕のゴミの下にいるのはもったいない、俺がもっといい世界を見せてやるよ』
男なんて大嫌いだったはずなのに、生まれて初めて向けられた「女」としての扱いに……アタシの寂しかった心は簡単に綻び、身体まで差し出してしまった。
ルディがアタシたちのために血を流して築き上げてくれた居場所を、足蹴にするみたいにして。
そしてアタシたちは、エマールの描いた筋書き通りに、ルディを『無能』だと罵ってパーティーから追い出したんだ。
その結果が、このザマだ。
用が済んだ途端、ブリッツたちの甘い言葉は消えた。
上手くいかなくなればアタシを『ただの生意気なチビ』と呼び、エドガーには『汚れた女』と吐き捨てられる。
そして、一番の絶望は……
ルディを追い出したあの日から、アタシの視界が【不完全な暗闇】に戻っちまったこと。アカネのおかげで魔力感知や熱感知の感覚が残っている。それで、何とか日常生活はやれてるが……魔物の討伐などは……
アタシを本当に守り、愛してくれていたのは、エドガーなんかじゃない。
隻腕の、あの優しいルディだけだったんだ。
「おい、ミラ。さっきから何ガタガタ震えてんだよ、この役立たずが」
すぐ側でエドガーが苛立った声を上げているけれど、アタシにはもう……あいつがどこにいるのかすら、ハッキリとは視えない。少し感じるだけだ。
アタシは自分から、光を手放してしまった。闇になる恐怖を自分から……




