フォルトゥーナ商会
ドワーフのオヤジさんに『魔鋼』と『特級魔鋼』を卸した俺は、その足で商業ギルドへと足を運んだ。
設立した商会は現在休業状態だったので、再開の申請と名前の変更の為だ。
「こんにちわ。商会を……」
「これはこれは、ルディ様。お越しいただけるのを、心待ちにしておりました」
なんと商業ギルドのギルマス自ら、俺を案内してくれた。確かに『魔鋼』を扱うのは、ウチの商会というか俺だけだけど……
「どうしたんですか? ギルドマスター自ら。珍しいですよね?」
「いやはや、お恥ずかしいお話ではあるのですが……ルディ様が以前所属していた、冒険者パーティー『リジェクテッド』に依頼した品がなかなか届かなくて……ルディ様は凄腕の冒険者でもいらっしゃるから、代わりに受けて貰えないかと……」
ありゃ、自分達の力を過信して、難易度の高い依頼を受けて失敗したのだろうね……そうだ、
「ちょっと聞きたいのですが、その依頼を俺達が達成した場合はどうなりますか?」
「はい、もちろん依頼料はルディ様に。『リジェクテッド』は依頼不履行の為に、キャンセル料と品物を納められない延滞料の請求をさせて貰いますよ」
うわっ、やるしかないじゃん。エスナやミラもだけど、アホコンビの男やケバいエマールに大打撃じゃん。
「ふむふむ、受けるかどうかは専属受付嬢と決めるから、隣村の冒険者ギルド出張所へ依頼を回して貰えますか。それと今回、商会の再開と商会名を変えたいのですが……」
「分かりました。担当に変わります。キミ、丁重に……」
「は、はい! ルディ様、こちらへどうぞ」
ギルマスに鋭い目配せをされた受付嬢が、緊張で声を震わせながら俺を最上級の応接ブースへと案内する。緊張して手足が一緒だし、先に階段を登るから……ウホ。白いお花畑が目の前に。
「主様?」「本当にバカなんだから」
予想以上に、冷たいスライムコンビ。俺はキミ達の主人だと……ギロッと睨まれた。すいませんでした。
「ではまず、商会名の変更手続きから行いますね。新しい商会のお名前は、お決まりでしょうか?」
俺は、懐にあるユニークスキル『運命の輪』の温もりを指先で確かめながら、静かに微笑んで告げた。
「『フォルトゥーナ商会』でお願いします」
前世のラテン語で『運命』、そして『富』を意味する名だ。
俺たちを裏切り、嘲笑った連中にこれから極上の「運命」を味あわせてやる。これ以上、ふさわしい名前はないだろう。
「『フォルトゥーナ商会』ですね、承りました。登録を、更新いたします」
魔導ペンが書類に光を灯し、商会の再開と改名が瞬時に完了する。
これで俺は、Eランク冒険者であると同時に、再びこの街での「商会主」に返り咲いたわけだ。
「……あ、そうだ。ギルマス。さっきの『リジェクテッドがやらかした依頼』について、少しだけ取引をしませんか?」
手続きを見守っていたギルマスが、待ってましたとばかりに身を乗り出してきた。
「ほう。 取引、と言いますと?」
「今回の依頼は受ける方向で調節しますが、次回からはこの街のギルドで失敗したら、隣村のギルドへ依頼を回して貰いたいのです。迷宮都市ビギナリアとしても、商業ギルドと冒険者ギルドの確執をもっても困まるだろうし……」
俺の提案に、ギルマスは一瞬だけ目を見張り。すぐにニヤリと、商人特有の狡猾な笑みを浮かべた。
「なるほど、確かに商業ギルドと冒険者ギルドが争っても……お安い御用です。損害賠償は冒険者ギルドへと請求出来ますしね」
「はい。それと依頼には特別報酬は要らないので、代わりに噂を流して貰いたいのです……」
「……ふむふむ、なるほど。それは痛快ですな。ここ最近のエマール様と、その親貴族には我々も痛い目に……いや、なんでもありません。独り言でございます。フフフッ」
流石は商業ギルドのトップだ。話が早くて助かる。
「主様、悪巧みをしている時の顔、とっても素敵です。カッコいいです」
「ふん、あのバカたち。今頃ギルドで何も知らずに、吠えてるんでしょうね。傑作だわ。ねぇ、ルディ。私にも見せ場を作ってよね」
後ろでアオイが頬に手を当てウットリと、アカネが楽しそうにハルバードの石突きを床にトントンと打ち鳴らす。
「交渉成立ですね。では、依頼は隣村のフィオナさんのところへ、回しておいてください。商品はすぐに、揃いますから」
「確かに承りました、ルディ様。今後とも我が商業ギルドと『フォルトゥーナ商会』の、良きお付き合いを……」
「あっ、そうそう。商会に雇う従業員が必要なんだけど……誰かいないかな? 口が固い人達が良いんだけど……」
「う〜ん、そうですな……ルディ様は、秘密も多いのでございましょう。ならば一番はドレイでございます」
「やっぱりそうだよね。ドレイなら守秘義務を簡単に縛れるしね。俺にはピッタリだ。幸い『魔鋼』や『特級魔鋼』を売って金はあるからな……決めた」
「ドレイは何処で買える? ドレイ商会など、紹介して貰えるかな?」
「であれば……この迷宮都市ビギナリアでもうすぐ開かれるオークションで、ドレイが販売されますから予算に余裕があるようであれば参加されてみては?」
オークションの情報を聞いて、席を立つ。ギルマスの最敬礼に見送られ、俺たちは商業ギルドを後にした。
まずは商業ギルドの依頼と、オークションに向けて動いて行こうか……




