台頭してくるスライム使い
「はい、お疲れ様でした。ルディ君・アオイちゃん・アカネちゃん、おめでとうございます。今日より皆さんは、Eランク冒険者になります」
俺達、セレスティアル・ガーデンの専属受付嬢のフィオナさんから、昇級を告げられた。
『パチパチ』
と本当に嬉しそうに、拍手してくれた。
「私達だけの成果じゃないわ。フィオナも、私達の仲間なんだからね」
「そうですね。フィオナさんのおかげで、主様も安心してダンジョンに挑めますから」
アカネは相変わらず偉そうに、アオイは優しく微笑む。
「ありがとうございます、フィオナさん。これでようやく、あの街の連中と同じ土俵……いや、あいつらを見下ろす位置まで、一歩進めましたね」
俺が不敵に笑うとフィオナさんは嬉しそうに、けれど少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。
「ええ。Gランクから、わずか数週間でのFランクを越えてEランク昇級なんて、ギルドの歴史を見ても前代未聞ですよ。ビギナリアのギルド長が見たら、それだけで泡を吹いて倒れるかもしれませんね」
新しいEランクの金属タグを受け取り、俺はそれをしっかりと懐に仕舞い込む。
「よし、それじゃあフィオナさん。予告通り、アオイとアカネが量産してくれた『純鉄』と『特級魔鋼』を持って、ちょっとビギナリアまで行ってくるよ。あのドワーフのオヤジさん、驚いて腰を抜かさなきゃいいけど」
「ふふ、いってらっしゃいませ。道中、お気をつけて」
フィオナさんに見送られ、俺たちは久しぶりに迷宮都市ビギナリアへの道を歩み始めた。
順調に進み数時間後。
活気だけはあるが、どこか殺伐とした空気が漂うビギナリアの街へと戻ってきた。
まずは商業区の片隅にある、頑固一徹で有名なドワーフの鍛冶屋の扉を叩く。
カン、カン、と響く心地よい金属音が、鍛冶屋の外にまで聞こえてくる。そう、ここは俺が唯一『魔鋼』を卸している、ドワーフの鍛冶屋だ。
「おい、オヤジさん。良い鉄が入ったから買い取って欲しいんだけど、お目にかかるかい?」
俺の声に、奥から汗だくのザ・ドワーフといった風貌のオヤジさんが顔を出した。
「あぁん? 誰かと思えば、リジェクテッドを追い出された隻腕のボウズじゃねえか。お前さんが来るのを、待っていたんだ。さぁ、『魔鋼』を出しな」
どうやら『魔鋼』の需要が凄くて、在庫不足みたい。まあ、俺以外は錬金してないみたいだしな。錬金術師自体が、レア職業だしな。顔を知らない母親のおかげだな。
そこでアオイが『ウフフッ』と笑った気がした。
「……アオイ、アカネ、出しちゃって」
「はい、主様」
「驚いてひっくり返りんじゃないわよ、髭面オジサン」
二人が収納からドサリ、と床に降ろしたのは、濁りの一切ない、眩い輝きを放つ『純鉄のインゴット』。そして、欲しがっていた『魔鋼』。さらに禍々しくも美しい魔力を帯びた、漆黒の『特級魔鋼』の山だった。
「なっ。 じ、冗談だろ…… これ、純度100%の鉄、それにこの『魔鋼』の量は……コイツは、この魔鋼に似ているが硬度と粘度は一体何なんだ?」
ドワーフのオヤジさんは目玉が飛び出んばかりに驚き、ハンマーを床に落とした。
「おいおい、ハンマー落とすなんて鍛冶師失格だろ、オヤジさん。どうだい? ぶったまげただろう?」
俺がニヤリと笑って皮肉を言うと、オヤジさんはそんな言葉すら耳に入らない様子で……這いつくばるようにして漆黒の『特級魔鋼』に飛びついた。何度も叩き、魔力を流し、その品質を確かめている。そして頬ずりし始めた。髭面オヤジのそれはキツイって。
「信じられん…… 従来の魔鋼の、いや、それ以上の強度と、粘り気を持っていやがる。ボウズ、一体どうやって? いやそれは聞かない約束だったな」
「まぁ、うちの可愛い相棒たちがちょっとやらかしてくれた偶然の産物……とだけ言っておくよ」
俺が言うと……アカネはふんっと豊満な胸を張り、アオイは淑やかにお辞儀をした。オヤジさんはその二人を交互に見て、ゴクリと唾を呑み込む。
「……分かった、これ以上の追及は野暮だな。この『特別な魔鋼』とそれから純鉄と通常の魔鋼、ウチが全部言い値で買い取る。頼む、これがあれば、国から発注されている特級武具が最高の仕上がりになるんだ。金ならいくらでも出す」
オヤジさんは奥から、ずっしりと重い『白金貨』が入った袋を抱えて戻ってきた。ビギナリアのギルドが素材不足気味だ。個人経営のこの鍛冶屋が、これだけの現金を即座に用意できる。
それだけルディの素材には価値があるということだ。まぁ、オヤジさんの魔鋼の装備が、良い値で売れてるんだろうな。
「まいどあり。オヤジさんとは今後も、良い付き合いをしたいからね。あ、そうだ。街の様子はどうだい? 冒険者ギルド内は相変わらず、荒れてるみたいだけど……」
代金を受け取りながら、何気なく尋ねると、オヤジさんは、露骨に嫌そうな顔をして吐き捨てた。
「ケッ、思い出すだけでもヘドが出るぜ。どいつもこいつもボンクラばかりのバカどもで、ウチの武器を飾りかなにかと勘違いしてやがる。武器はアクセサリーじゃねえ。魔物とドンパチもしねーで、飲んだくれてやがる。 今や街のお笑い草だ。まともな素材も納品できねえくせに、ギルドの看板面してやがる。ウチの職人仲間も、全員あいつらには愛想を尽かしてるよ」
「へぇ、そこまでなんだ」
やっぱり『リジェクテッド』も、活躍出来て無いみたいだな。まぁ、これがキミ達が選んだ結末だよ。




