ぜってー忘れない
※左腕を無くしたのは、アレは一年前の事だった……
「ぐああぁぁ〜〜! 僕の左腕がぁ〜〜」
僕の左腕に噛み付く狼型の魔物。ゆっくりと咀嚼する魔物に恐怖する。
左腕だけでなく身体中を駆け巡る痛みに、僕はこの魔物に襲われて既に満身創痍だった。
それでも気を失ってはいけない、それは死を意味するから……
僕が痛みにのたうち回るのを見ている勇者パーティーのメンバー達。僕を助けてくれるどころか見て笑っている。
『コイツら、絶対に許さない』絶対に……
そこに現れ、助けてくれたのは冒険者のお兄さんだった。赤い髪に左頬に十字のキズをつけた人。
「大丈夫か? 何でお前達は助けないんだ? 仲間じゃないのか?」
「ちっ!」
僕の治療をしながら勇者パーティーを叱ってくれたが、勇者パーティーはつまらなそうに帰っていった。
この時、僕は左腕を失う事に……命が助かっただけでも冒険者のお兄さんには感謝だね。
命が助かった安堵からか俺の意識はそこで途絶えてしまったようだ。
何故こんな魔物に襲われてるのかというと……自我のある種族は大体十二、三歳になると『神様』からスキルという才能を与えられる。
僕のいる村では数年に一度、教会から派遣される大司祭様の祈りをもって授けられる。
村中のスキルが授かれる年頃の子供が集められて、一斉にスキルを授かっていくのだ。
このスキルは人により様々で、僕の住んでいた小さな村では……伝説のスキル『勇者』が与えられた少年が誕生した。
また、この少年の近くにいた少女数人にも勇者程ではないが、有能なスキルを発現させた。
当然、村の中で神童と言われていた僕にも期待が集まっている。
そんな中、僕に与えられたスキルは『スライム』だった……
この世界でスライムは最弱の魔物で、子供が木の枝で突いても倒せるくらいのザコ。
よって『スキル:スライム』を授かった僕の扱いは村で神童からクズに……この日から転落していた。
それほどスキルに左右される世界なんだ。
勇者のランドルフ
回復魔法師のクリスティ
剣豪のルイーゼ
魔導士のウルリケ
弓術士のラウラ
そして、スライムのルディ
スキルを授かった当初は冒険者の真似をして、パーティーを組んで魔物退治をしていたが……いつからか、勇者パーティーと呼ばれていた。僕達は幼馴染で普段から一緒に遊んでいたから、自然につるんでいた。仲も良好だったはず……だったのに。イヤ、無くしたく無かっただけ。
婚約者のクリスティとは親が決めた婚約だが、お互いを想っていた。
親父の再婚で出来た、義理姉妹のウルリケ姉とルイーゼとはいつも一緒。
女友達のラウラとは家が隣同士。
ランドルフはウチで働く農奴の子供。
僕が中心だった集団が、『勇者ランドルフ』中心に変わっていった。本当に屈辱だった。
そんな僕の顔をのぞき込み、満面の笑みを浮かべて鼻の穴を膨らましたランドルフの意地の悪い顔は忘れない。
スキルを試す為に、僕達は森に入り魔物討伐を繰り返していく。
僕は戦闘力がないので荷物持ちとして、勇者パーティーに同行するだけになっていた。
そしてさらに家の中でも邪魔者扱いになっていく。ウチは代々テイマー一家で牧場を営んでいた。
通常のスキル『テイマー』なら牧場の仕事を継げるがスキル『スライム』はスライムのみという限定されてしまっている。
その上に『勇者』の生みの親はウチで経営してる牧場で雇っている農奴の子供。
僕の親は見栄もあったのだろう、冷遇され続ける日々が始まった。
「僕が何か悪い事をしたの? 神様……」
最近は暴力を振るわれたり、ご飯を抜かれる事もしばしばあった。
それでも挫けないでいられたのは、スキル『スライム』で呼び出したブルースライムのおかげだろう。
いつも落ち込んでいる僕を慰めてくれる……魔力で呼び出せて返還する事もできる。
それでも、今の僕には唯一の味方になってくれている。だからこのスキルをキライになる事はなかった。
でも、そんな唯一の味方のブルースライムをランドルフに潰された事も……スゴイ楽しそうに。それが赦せなかったが、逆らう事も出来ない。
始めに違和感があったのは婚約者クリスティだろう。急によそよそしくなり、避けられているのを感じた。
それからしばらくすると女友達ラウラは、いつも僕の後を追って来ていたのが居なくなり。
ウルリケ姉は僕の世話焼きだったのが素っ気なく、妹のルイーゼからは文句を言われ出す。
気が付いた時にはランドルフの周りに集まっていて、僕にはどうする事も出来なかった……見ているだけ。
勇者パーティーとしての魔物討伐の真似事……これには強制的に続けさせられて、僕も同行しないと皆から怒られた。
そして、運命の日……僕は魔物の、おとりにされていた。スライムしか呼べない僕は魔物から必死で逃げていた。スライムも呼べる魔力はもう無い。
その様子を笑いながらランドルフは……
「アハハ、逃げろ〜! 食われちまうぞ。昔からお前の事がキライだったんだ、神童様よ。勇者である俺は神童というお前よりもスゲーんだ」
心底楽しそうに笑っていて、その隣には婚約者であるはずのクリスティが寄り添う様に見ている。
ランドルフの後ろには義理の姉妹が肩に手を乗せ、クリスティの反対側はラウラが絡みついている。
この時には僕は悟ったのかも……本当は分かっていたんだ。ただ、彼と彼女達を信じていたかっただけなのかもしれない。
その感情は僕一人の自己満足で……誰も望んでいなかったのだろうね。
僕のスキルが気に入らないの? 僕自身ではないの?
何で笑ってるの? そんなに楽しいの?
疑問が浮かんでは消えて、また浮かんで……
魔物から逃げ切れずキズを負っていくのに……
誰も助けてくれない……
信じていた、友達だと思っていた。家族だと思っていた。婚約者だと思っていた。
左腕が魔物に食われていく。その痛みや恐怖の中にも信じたい心があったが彼等は笑って見ていた。
何かが僕の中で弾けて飛ぶ音が聞こえた……
〘ユニークスキル:転生者を確認……実行に移します〙
この日、僕は……甘えを捨てたのかもしれない……




