樹海ダンジョン
俺たちは『樹海ダンジョン』を目指し、街道をひたすら進んでいく。
その道中、最低でも一日に一度は盗賊だったり、詐欺師だったり、怪しいナンパ男だったりが、俺の同行者(家族たち)を目当てに群がってきた。……まあ、見た目が飛び切り美しい女性ばかりの集団だからな。連れて歩く側もいろいろと大変である。
そんな有象無象を返り討ちにしながら、俺たちはついに樹海ダンジョンの目と鼻の先にある街へと到着した。
この樹海ダンジョンは植物系の希少素材が非常に豊富で、資源回収の拠点としても極めて優秀な立地だ。
『フォルトゥーナ商会』の店長であるリネットもその価値を十分に理解しており、到着するなり商会用の敷地選定に余念がない。
一方、スライム娘のアオイ、アカネ、キミカの三人組も何やら考えがあるらしく、頭を突き合わせて楽しそうに相談し合っていた。
さて、この樹海ダンジョンだが……かつて挑んだ初級ダンジョン【新緑の森】や【乾いた台地】、【鏡面の水面】などと同じく、もともと存在していた土地そのものがダンジョンへと変異したタイプだ。
ただ、それらと決定的に違う点がひとつだけある。それは——。
「主様……情報通りですわね。まるで森という名の大海に、街が丸ごと沈み込んでいるようですわ。途方角もない植物の生命力を感じますね」
「すごい光景ね……。私のハルバードでも、あんな巨大な大木を断ち切れるかしら」
「う〜、どこを見ても同じような緑ばっかりで……なんだか眠くなってきたよ〜」
スライム娘たちの感想はそれぞれバラバラだが、この場所の異様さには気がついているようだ。
かつての建造物や街並みの原型をうっすら留めたまま、まるごと鬱蒼とした樹海へと変貌を遂げている……まさにダンジョンならではの狂った奇観と言えるだろう。
「よし、それじゃあ早速アオイたちスライムを周囲に放って、事前調査をお願いできるかな? その間、俺はリネットたちと一緒に商会用の物件を見て回るとしよう」
「ご主人様に一緒についてきていただけるなんて嬉しいです! よ〜し、気合を入れて頑張るぞ〜!」
新しい拠点作りのワクワク感と、樹海から採れる希少素材への期待から、リネットはやる気満々のご様子だ。
「……ふふっ、それだけではありませんよ、ご主人様」
「私たちもリネット店長と同じ気持ちですから、よく分かります」
「はい! なにより、ご主人様と一緒に街を歩けるのが一番嬉しいんです」
そう言って俺の一歩後ろで静かに控えていたのは、殺戮メイド隊の三人——ココア、ミリー、ユリだ。
ココアは茶髪のおさげ髪が可愛らしい15歳。
ミリーは鮮やかな緑髪のボブカットが映える14歳。
ユリは黒髪パッツン前髪が印象的な15歳。
それぞれが戦闘服兼作業着である凛としたメイド服に身を包み、その背にはメイド長のマーサさん直伝である『薙刀』を整然と背負っている。
頼もしくも愛らしい彼女たちを伴い、俺たちは新たな拠点作りの第一歩を踏み出したのだった——。
……のだが。
拠点となる商会用地として最適な空き地を見つけ、手続きの審査結果を待つ間、観光がてら街の情報収集をして時間を潰していた俺たちだったが、事態は思わぬ方向へと転がっていた。
◆◆◆◆
「買えない……とは、一体どういうことですの?」
現在、俺たちは商業ギルドの受付窓口に来ているのだが……提示した土地の購入手続きをあっさりと拒否されてしまったのだ。
話を聞けば、この街の既存の商人たちが『フォルトゥーナ商会』の新規参入をひどく嫌がって猛反発しており、商業ギルド側も板挟みで困り果てているのだとか。……さらには、その商人たちがこの街の領主に多額の賄賂を贈り、正式に申請を却下するよう圧力をかけたらしい。
「あのさ……本当にそんなやり方でいいのかな? 脅しとかじゃなくてさ! マジで平和的に共存する方法を考えた方がいいと思うんだけど……」
俺は困り顔で後ろに控える女性陣をチラリと振り返ってみた。……すると。
「ふふっ、面白いですね。つまり、この街の領主も、商業ギルドも、既得権益にしがみつく商人たちも……全員が私たちの敵になる、ということですのね?」
「フフン、私たちに牙を剥くなんて愚気の極みね」
「サッサと潰してお昼寝しよ〜」
好戦的なスライム娘たちはもちろんのこと——。
「アオイ様、アカネ様、キミカ様。この商会絡みの件は……どうか私にお任せいただけますか?」
「「「何日で潰せるかしらね?」」」
商会トップであるリネットも、殺戮メイド隊の三人も、全員がギラギラと肉食獣のような危険な光を瞳に宿し、今後の『対応(解体計画)』を算段し始めている。
「ハァ……やっぱりこうなっちゃうよね……」
「あ、あの……! お言葉ですが、相手はこの街の領主様に、国内の商人を束ねる商業ギルドですよ!? 敵対して……本当に大丈夫なんですか!?」
商業ギルドの受付嬢さんが、青ざめた顔で俺にオドオドと尋ねてきた。
「ん? 領主とか商業ギルドを丸ごと潰しちゃって大丈夫かってこと? うーん、人々の暮らしに何らプラスにならない悪徳組織なら、別に存在する必要もないんじゃない?」
「あっ、違います! そっちじゃなくて、そちらの商会や従業員の皆さんの立場や安全の心配です!!」
あっ……そっちの心配をしてくれてたのか。俺はてっきり、権力者たちを盛大に潰した後の街の統治体制のことを聞かれているのかと——。
「まあ、俺たちの心配なら大丈夫だよ。受付嬢さんもさ、もし上層部が潰されて行き場に困ったら、その時は『フォルトゥーナ商会』に来るといいよ。真面目に仕事を頑張る人は大歓迎だからさ……」
「フォフォフォ……初級ダンジョンの街で少しばかり景気が良かったからと、随分とナマイキな口を利く小ひよこですねぇ」
あっ、ビギナリアを出てから初めて遭遇する、テンプレート通りの雑魚キャラだ。
背後の女性陣の気配を伺うと……全員が「格好の獲物が見つかった」と言わんばかりに目を爛々と輝かせている。
ヤレヤレ……少しは加減してあげてね?
……あ、ダメかぁ〜。これはもう止められないや。




