中級ダンジョン
迷宮都市ビギナリアを出た俺たちは、更なる勢力の拡大と、自分たちのレベルアップを目指して——中級ダンジョンの攻略へと乗り出した。
ここで改めて、ダンジョンという存在の難易度について説明しておこう。
現在、人類が足を踏み入れられるダンジョンは『上級』までとされている。だが、もはや人外の領域と称されるS級冒険者ですら、単独での限界は中級ダンジョンの完全攻略、あるいは上級ダンジョンの極めて浅い上層部までというのが現実だ。
初級ダンジョンと中級ダンジョンの間には、文字通り天と地ほどの明確な格差が存在する。
中級からは、出現する魔物の強力さや仕掛けられた罠の凶悪さが増すのは当然のこと……それ以上に恐ろしいのが、ダンジョンそのものが持つ『環境障害』だ。
極寒の寒冷地帯、灼熱の火山地帯、視界を奪う砂漠、呼吸すら満足にできない水中地帯、あるいは吹き荒ぶ強風地帯や鬱蒼とした樹海地帯——。
地形と環境そのものが侵入者の生命を削りとる阻害要因として牙を剥いてくるため、生半可な対策では入り口で全滅することすら珍しくない。
初級よりも遥かに深く、果てしなく続く迷宮。
その過酷な極限環境をすべて克服し、生き残った真の強者だけが……輝かしい栄光と財宝を手にするのだ。
……まぁ、俺にとっては仲間たち(家族)が一番の財宝だけどな。
「ご主人様、最初はどちらへ赴くのですか?」
そう尋ねてきたのは、『フォルトゥーナ商会』の店長を務めるリネットだ。彼女は各地にフォルトゥーナ商会を出店するための候補地を視察する兼ね合いで同行している。……まあ、彼女自身も十分に戦える実力者なんだけどね。
「そうだね〜。最初に言っておくけど、この王国にある中級ダンジョンは『すべて』制覇するつもりだよ。その中でも、まず一番目指すのは……『樹海ダンジョン』かな。アオイたちの吸収で新しく覚えられそうな植物系や自然系のスキルが多そうだしね」
「ウフフッ、さすがは主様ですわ。私たちにお任せくださいな」
「ふふっ、ルディに頼られるのも悪くないわね!」
「え〜、もう疲れちゃった! お昼寝ダンジョンとかないの〜?」
賑やかに笑い合いながら歩む道中。
過酷とされる中級ダンジョン攻略の旅は、こうして賑やかに幕を開けたのだった——。
〘ユニークスキル『運命の輪』が発動しました。運命の輪が逆位置にて回り始めます〙
……! 来たか。
ユニークスキル『運命の輪』は、かつて俺の左腕を喰らった魔物をアオイの吸収で再度取り込んだ時に覚えたスキルだ。このスキルが発動することで、本来訪れるはずだった未来が少しずつ変化しているらしいのだが……その全貌までは俺にも分からない。
そして、このスキルには『正位置』と『逆位置』の二種類が存在する。今回は『逆位置』……つまり、これから良くない出来事が起こるというサインだ。
「ヒャッハー! 女ばかりの旅なんてカモ以外の何ものでもねぇな!」
「おいおい! いい女ばかりで今夜は遊び放題じゃねぇか!」
「金も女も、すべていただきだ!」
「ギャハハ、男はたった一人だけの優男じゃねぇか!」
……なるほど、早速効果が現れたみたいだな。いつ発生するかが使用者である俺にも分からないのが不便なところだが……。
俺は即座にスキルを発動させ、『運命の輪』を操作する。
〘ユニークスキル『運命の輪』の効果が発動しました。運命の輪が逆位置から正位置に変化して回り始めます〙
このスキルの何より恐ろしいところは、所持者である俺が『運命そのものに介入し、書き換えることができる』という点だ。さすがはユニークスキルと言うべきか。
大アルカナの名を冠するスキルは、今までに俺のほかにも二人ほど所持者と出遭っている。
一人は——。
「キャハハハ! 面白いのじゃ! 『狐火・焔』なのじゃ!」
元・獣王の姫君であり、今は俺の奴隷(家族)でもある『天狐族』のリンだ。彼女の持つスキル『愚者』は、人間の欲望を直接刺激して抑えが効かなくさせる恐ろしい力を持つ。使い方によっては非常に危険な代物だが……。
「兄様、倒したのじゃ! 撫でてたもれ〜!」
このように、当の本人はいかにも人懐っこい性格で、今ではすっかりみんなのマスコット的存在になっている。
そしてもう一人は、迷宮都市ビギナリアで対決したバイキング『暴虐の悪魔』ことシーデビル二世だ。
彼の持つスキルは『悪魔』。周囲のスキル干渉を一切無効化し、特殊なフィールドを展開して敵の能力を大幅に制限させる強力な能力だった。ただ、自分より明確に上の強者には効かないなどの制約も多かったが……。
これからは、こうした『大アルカナスキル』を持つ者が敵として現れる可能性も、しっかりと頭に入れて警戒しておかなくてはな。
「食らいなさい! 『アイスランス』!」
「ふぅ……行きなさい、追尾の矢!」
「逃がしませんよ、水魔法——『ウォーターマシンガン』!」
どこからか威勢よく飛び出してきた盗賊どもは、俺と同行していた最強の女性陣によって一瞬で駆逐されていく。
スライム娘のアオイ、アカネ、キミカ。
戦闘要員である『白い女帝』ジェシカ、『蒼穹の月』ルーナ、『天狐族』のリン。
殺戮メイド三人衆のココア、ミリー、ユリ。
そして『フォルトゥーナ商会』の店長リネット。
彼女たちは全員、一通りの戦闘術を身につけており、初級ダンジョン程度ならソロで軽々と完全攻略できるほどの猛者ばかりだ。
落ちぶれて路上荒らしをしているだけの盗賊どもに勝てる道理などなく、あっという間に全員捕縛された。
『運命の輪』の正位置への変化は、恐らく「一部に逃げられるはずだった運命」を「全員漏れなく生け捕りにする運命」へと書き換えたのだろう。
アオイにボコボコに殴られ、アカネに強烈なビンタを張られた盗賊どもは、あっさりと自分たちのアジトの場所を吐かされた。
あとはそのアジトへ乗り込み、蓄えられていた金品をゴッソリと回収・徴収するまでがいつものお約束セットだ。
……こんな追剥ぎ同然の返り討ちすら、もはや日常の一コマとして何の疑問も抱かなくなっている自分に、俺は少し苦笑してしまうのだった。




