勇者パーティー出動
【サスーニア海洋国の至宝『水宝玉』・第2王女セルフィーナ視点】
「なぜでしょうか……? 手応えがありませんし、上手くいきませんわね。アナタ、少し探ってくださる? 特に迷宮都市ビギナリアを中心に……」
『シーライン商会』を手中に収め、隣国との貿易を開始いたしました。
ですが……どういうわけか計画にほんの僅かな『ズレ』が発生しておりますの。それも、迷宮都市ビギナリアに関連する事業は、ほぼ計画未達という有様。
現地の領主を丸め込み『第2王女派』へと引きずり込むことには成功いたしましたけれど……どうにも不気味で嫌な予感が拭えませんわね。
……まあ、それでも『海の覇権』をもぎ取ることに成功いたしましたし、よしとしましょうか。
大金を積んで雇ったS級冒険者『トライデント』が、北の海で海賊行為を繰り返していたあの『暴虐の悪魔』の討伐に見事成功いたしましたから。これで海運を本格的に再開させても何ら問題ありませんわ。
この広大な貿易網を通じて莫大な資金を蓄え……さらに『第2王女派』の勢力を拡大させてまいりましょう——。
◆◆◆◆
「姫殿下……迷宮都市ビギナリアへ向かわせた調査員から、報告書が届いております」
「ご苦労様。見せて頂戴……」
差し出された書類に目を通します。なるほど……。
冒険者パーティー『リジェクテッド』……それに、冒険者パーティー『セレスティアル・ガーデン』ですか……。
この二つのパーティーでリーダーを務めていた人物が、同一人物ですのね。
「最弱の魔物であるスライムを使役するテイマー……。そこまで珍しいジョブでもありませんわね。……ですが、迷宮都市ビギナリアで最大勢力を誇っていたあの『ガメツ商会』が、彼らの運営する『フォルトゥーナ商会』に潰された、と……?」
ガタッ……!
続く文章を目にした瞬間、私は思わずソファーから立ち上がっておりました。
「……なんですって!? 勇者ランドルフ様と幼馴染……!? しかも聖女クリスティの元婚約者だなんて……! なんなのですか、こんな偶然がありますの!? いいえ……何か恐ろしい運命めいたものすら感じますわね……」
文書に目を滑らせれば滑らせるほど、胸の中で最大の警戒心がグングンと跳ね上がっていく。
「……それだけではありませんわね。『白い女帝』ジェシカも、『シーライン商会』の残党どもも、すべてこのスライム使いの元へと集まっていますわ。しかも……我が『第2王女派』に引き込んだビギナリアの隣村を拠点にし、本家ビギナリアを超えるほどの凄まじい勢いで発展させている……!?」
コンコン……。
「おう、セルフィーナ! ちょっとヤラせろ!」
……ハァ、本当にこの男は……。
ですが……『スライム使いのルディ』、ですか。
ちょうどビギナリアの領主は我が『第2王女派』の傘下に収まりましたし……勇者パーティーの実戦経験と名声確保の名目で、現地の初級ダンジョンを利用するとしましょうか。
独立したあのスライム使いのパーティーや商会……できることなら、我が手駒として取り込んでやりたいところですわね。
「勇者ランドルフ様。少々、迷宮都市ビギナリアへ出向いてみませんか?」
「あぁ!? なんでこの俺様が、そんな片田舎なんぞに行かなきゃならねぇんだよ……」
まあ、そう返してくるのは想定内ですわ……ですがアナタは、絶対に断れなくなりますわよ。
「『スライム使いのルディ』という名に、聞き覚えはありませんか?」
「ルッ……ルディ〜だと!?」
私はニッコリと微笑んで頷いてみせました。この瞬間……見事に獲物が『仕掛け』に掛かったことを確信いたします。
「ええ。少し興味が湧きましたので調べさせましたの。彼は現在、迷宮都市ビギナリアで英雄として崇められているそうですわ。莫大な利益を上げる商会を運営し、トップ冒険者パーティーのリーダーに君臨し……さらに、たくさんの美女を周りに侍らせているとか……」
「あのヤローが……許せん!! アイツは地べたに這いつくばりながら、俺様に惨めに命乞いをしてなきゃおかしいんだよ! それを商会に冒険者パーティーだと!? しかも美女ばかりを囲んでんだとぉ!?」
「ええ、そうですわね。それに……アナタ様が手に入れるはずだったあの『白い女帝』や『シーライン商会の女たち』も、すべてルディが手中に収めているそうですわ。……さあ、どうなさいますか? 『覚醒勇者』ランドルフ様……ふふっ」
「ぐぬぬぬ……ルディの野郎……っ!」
「あらあら、隣村に巨大な拠点を構えて贅沢三昧の生活……。現地の冒険者ギルドも商業ギルドも、ルディには逆らえない状態のようですわね。実は……この歪な状況を打開するため、迷宮都市ビギナリアから救援要請が届いておりますの。世界を救う真のヒーローは、やはり『覚醒勇者』たるランドルフ様でなくてはなりませんわよね……? 行ってくださいますわね?」
「ああ……っ! ルディのヤツは……この俺様が必ず叩きのめす!!」
「さすがは伝説の勇者様ですね。それならば……またルディの持ち物を根こそぎ奪い取ってやるというのはいかがかしら? かつて聖女クリスティを奪い取った時のように……。女も、お金も、名声も、すべて……勇者たるアナタ様のものに……ふふっ」
「……! すべてが……俺様のものに……! ああ、行ってやるぜ! すぐに準備してくれ! 全員で……アイツのすべてを奪い尽くしてやる! 待ってろよルディ〜〜っ!!」
……あぁ、なんて扱いやすい男なのかしら。
だから……大好きですよ。私の……都合の良い『勇者様』。




