第2王女派
【サスーニア海洋国の至宝『水宝玉』・第2王女セルフィーナ視点】
ここにお集まりいただいたのは、大陸に近く、広大な沿岸部に領地を持つ有力貴族ばかりですわ……。
そして今、私がこの貴族たちへと突きつけた条件——それこそが、私のユニークスキル『制約』による『領地の繁栄の約束』ですの。
この『制約』が結ばれた瞬間、彼らは私の傘下に下り、私は彼らを富ませて領地を盛り立てねばならないという絶対の誓約が成立いたします。
もちろん、私に何の勝算もなくこのような約束を交わすはずがありませんわ。
そう……これこそが、勇者ランドルフ様を派遣して『魔物退治』を演じさせている、あの『シーライン商会』を狙う最大の理由でございますの。
あの勢いある商会を丸ごと我が物とし、その海運網と利権を支配下に置くことができたなら……沿岸部に領地を持つ彼ら貴族たちは、何もしなくとも莫大な利益を手にすることになるのですから——。
「私の呼びかけに素直に応じてくださったアナタ方とは、共に繁栄していきたいと思ってますの……ですが、逆に逆らってくださったら、それはそれでアリだと思ってますのよ? だって加減して話さなくても良くなりますもの……むしろ、どのように殺そうかと少し楽しみなくらいですわ……ウフフッ」
「ゴクリ……ひ、姫殿下。目が紅く……」
私が立ち上がり優雅にカーテシーを披露すると、思わず溢れ出た魔力が場内を圧迫してしまう。
「あら、ヤダ……私たら、はしたない真似をして申し訳ありませんわ、クスクス……」
会場に来ていた貴族たちは、溢れ出た魔力の強烈なプレッシャーに耐えきれず、全員がその場にひれ伏した。
一人……また一人と私の前に這いつくばり……。
「「「セルフィーナ姫に……永遠の忠誠を……!」」」
「あら……少し残念ですわね。どこかの誰かが威勢よく反対してくだされば……見せしめに、たっぷりと苦しませながら殺して差し上げられましたのに……クスクス」
私の冷ややかな独白が落ちると、会場内は死んだような静寂に包まれた。
誰かが恐れのあまり唾を呑み込む『ゴクリ』という惨めな音だけが、やけに鮮明に響き渡っていた——。
――コンコン。
静まり返った場内に、軽やかなノックの音が響く。執事が静かに扉を開け、訪れた報告者を私のもとへと通した。
「姫殿下……大至急の報せにございます」
恭しく差し出された手紙を手に取り、封を切って中身を確認する……。あら、ウフフッ……!
「皆様、早速朗報がございますわよ。我が勇者ランドルフ様が、大陸側で発生していた魔物の討伐に見事成功いたしましたの。これに伴い、大陸側で我が国に最も近い隣国と、交易を通じた深い交流を行うことで正式に合意が取れたそうですわ」
「「「おおっ……! まさか、あの頑なだった国が……!?」」」
どよめきが会場を包み込む。
そう……本来、あの隣国との貿易は非常に厳しく制限されており、サスーニア国内でも一握りの特権商会にしか許可が下りていませんでした。その数少ない一つが、あの『シーライン商会』。
ですが今回、勇者様が隣国の長年の懸案だった問題を力尽くで解決したことにより、私個人……ひいては我が派閥にも特別な貿易許可を下ろすという約束を取り付けたのですわ。
沿岸部に領地を持つ貴族たちにとって、これは喉から手が出るほど欲しい至高の利権……!
……ですが、手紙の続きには、さらに極上の『シナリオ通り』の報告が記されておりました。
「……ですが、なんと痛ましいことでしょう。勇者様方を乗せていた『シーライン商会』の定期船が……航海の途中で原因不明の事故を起こし、沈没したとのことですの。隣国より与えられた、両国の絆を証明する大切な『友好の証』も……船と共に、深い海の中へと沈んでしまったとか……」
「「「な、なんですと……!?」」」
貴族たちの顔から一瞬で血の気が引き、驚愕の悲鳴が上がった——。
「本当に残念ですわ。これで交易どころか……最悪、戦争にすら発展しかねませんわね。勇者ランドルフやパーティーメンバーの方々が無事ならば良いのですが……」
「そ、船を沈没させた大馬鹿者は一体誰なのですか!?」
「ええ……『シーライン商会』に運搬を頼んでおりましたの。最近は勢いもあり実績もありましたので任せたのですが……失敗してしまったようですわね……」
「なんと! あの不届きな商会ですか!」「もう我が領地の港は一切使わせませんぞ!」「ウチもだ!」「取引自体を即座に停止させねば……!」
所詮は平民の成り上がり商会よ。貴族にとっては、せいぜいトカゲの尻尾程度の価値しかありませんわ。
「皆様のお気持ちは痛いほど分かります。……サスーニア海洋国第2王女セルフィーナが命じます。『隣国との貿易破談、および勇者パーティー殺害未遂』の罪により、シーライン商会を取り潰し、その所有権を一度国家へと接収いたします。被害を被った各地への補填は……」
そう、一度『国』に所有権を移すのです。そうでなければ私の直接の関与が疑われ、他の兄弟たちから攻撃されかねませんからね。それも私の『制約』により、陛下との密約はすでに済んでおりますわ。現金などは陛下へ、船や販売ルートは私に……と。
これでやっと、国を討ち取る準備が整いましたわね。
あとは勇者ランドルフが隣国との『友好の証』を持って無事に帰還してくれさえすれば……私の賭けは勝ちですわ。




