覚醒勇者
【勇者ランドルフ視点】
『ラヴァーズブラッド』……王家に伝わる秘薬。
実際に使用された記録はごくわずかであり、失敗すれば即死、あるいは廃人となる危険な薬物である。
だが……もし乗り越えることができれば、人外の腕力や膨大な魔力、さらには特殊能力までもが覚醒する。ただし、代償として性格すら変貌してしまうこともあるらしい。
その秘薬を打ち込まれた俺様は、激痛の中で辛うじて意識を保っていた。身体は指一本動かせないが……確かに恐ろしいほどの魔力枯渇が続き、激しい頭痛と吐き気が脳を揺らす。耐性の強い勇者である俺様ですら、精神をすり減らされそうになるほどだ。
熱い……。骨の髄まで焼き尽くされそうなほど身体が熱い。
だが……その苦痛の渦中で、バラバラだったパーツがひとつのパズルとしてピッタリと噛み合っていくような、気味の悪い感覚が全身を包み込んでいった——。
◆◆◆◆
「あ〜、クソッ。あの苦しみが嘘みてーだ!」
俺様はベッドから起き上がると肩をグルグルと回し、寝っぱなしだった身体のコリをほぐしていく。
肩が軽い? 頭の中が妙にスッキリとして……手を握ったり開いたりして感触を確かめる。
神経が過敏になっているのか空気の流れまで繊細に感じるし、窓から見える鳥の動きすら遅く感じる。そして全身を駆け巡る魔力量の多さに驚くと同時に、魔力の質まで別物へと変わっていた。
立ち上がるため、ベッドの縁に手をかけると——
ベキッ……!
俺様の握力に耐え切れず、頑丈な木製のフレームが呆気なく砕け散った。
な、なんだ……!? この圧倒的なパワーは……!
「ウフフッ、お見事でございますわ、勇者ランドルフ様。それこそが、覚醒されたアナタ様の本当の力なのですわ。これからは……『覚醒勇者』様とお名乗りになられてはいかがかしら?」
艶やかな笑みを浮かべたセルフィーナ姫が、部屋の扉を開けてしなやかに入ってきた。
「覚醒勇者……か。クックック……悪くねぇ名前だ。これなら……あのルディの野郎どころか、この国すら一瞬で踏み潰せるぞ……!」
「そうですわね。ですが、その力を身につけたアナタ様が正式に武術や魔法をマスターなさったら……この国どころか、世界そのものを手に入れてはいかがかしら? 私はそのお手伝いをしとうございます。ねぇ……『覚醒勇者ランドルフ』様?」
「世界……か。悪くねぇ、いや……『覚醒勇者』となった俺様がすべてを手に入れる! 金も、女も、名誉も、地位も……そして歴史さえも俺様が書き換えてやる! まずはセルフィーナ姫、お前が俺様のモノになれ!」
俺様はセルフィーナ姫の細い腰を強引に引き寄せる。
この生まれ変わったかのような万能感の中で、先ほどから昂り続けている欲望を思いっ切りぶつけたかったのだ。
「ウフフッ、せっかちなお方……。ですが、私の初めては決して安くはございませんよ? お覚悟なさいませ……」
セルフィーナ姫の瞳が、一瞬、禍々しく紅く輝く。
それに気づきながらも、俺様は自分を抑えることができず……泥沼のような甘美な快楽へと、深く、深く沈んでいった——。
◆◆◆◆
「おりゃぁぁーーっ!!」
バキッ……!!
「おいおい、また剣が折れたぞ。これじゃ手応えも何もねぇな……」
俺様は今、武術の訓練とやらでさまざまな武器の扱いを習っている。
『覚醒勇者』となった俺様はやはり才能の塊らしく、ほんの少し素振りと型を教わっただけで、あっさりと極めてしまった。
「まったく、俺様自身の溢れ出る才能が一番恐ろしいぜ! なぁ、騎士団長よぉ?」
俺様の後ろでは、騎士団の団員たちが地面に膝をついて平伏し、俺様を指導するはずだった騎士団長すらも息も絶え絶えに手をついていた。
「……さすがは『覚醒勇者』ランドルフ様。武術の型においては、すでに完全に仕上がっておられます。ただ惜しむらくは……ランドルフ様の規格外の腕力に耐え得る『武器』が存在しないことですな。恐らくはセルフィーナ姫様が、何か手を打ってくださっているとは存じますが……」
そうなのだ。『覚醒勇者』となった俺様の圧倒的なパワーに耐えられる武器が、この国には存在しない。一度本気で振れば、並の鉄剣など粉々に砕け散ってしまうのだ。
国王のババアどもに「宝物庫から伝説の武具を出せ」と要求しても、なかなか首を縦に振らない。ははっ、才能がありすぎる者の苦しみというやつだな。ルディのような凡人には、この次元の高い悩みなど分かるまい!
「おりゃぁぁーーっ! 『ファイアボール』! 『ファイアボール』! 『ファイアボール』!!」
やはり魔力量も魔力の質もまるで違う。いや、魔力回路そのものが根本から別物だな!
威力、飛距離、連射速度、効果範囲、そして制御……すべてにおいて次元が違う。
「素晴らしい……素晴らしすぎますわ、勇者ランドルフ様! もはや私などから教えられることなど……何ひとつございませんわ!」
魔導師団長からも、完全に脱帽といった様子でお墨付きをもらった。
武術も魔法も俺様はこの国で一目置かれる存在……いや、頂点に立った。セルフィーナ姫をはじめ女も充実してきた。あとは……




