王家の力
【勇者ランドルフ視点】
キーンコーン、カンコーン……
「見ろよ、平民に負けた勇者だぜ」
「カッコ悪いな」
「よく平然と学園にまで来られたな」
「この学園は高貴な者が学ぶ場だぞ!」
「教師は何をしてる、ツマミ出せ!」
ぐぬぬぬ……今に見てろよ! 俺様に恥をかかせやがって、調子に乗るなよ。どうせ平民から搾取した金で威張ってるだけの貴族どもだ、俺様が成敗して……そうだ、俺様は『勇者』なんだ。悪は成敗すればいいんだろ……!
「勇者様、おはようございます。本日からクラスメイトとして、そして……特別な仲として、よろしくお願いいたしますわ」
俺様の左腕に、柔らかで豊満な胸をぎゅっと押し付けてくる美貌の王女。
その様子を見ていた周囲の貴族子息たちは、散々勇者をバカにしていた気まずさから、蜘蛛の子を散らすように離れていった。
「セルフィーナ姫……! ありがとうございます、助かりました」
「いえ、お役に立てて良かったですわ。それよりも……これが『王家の力』なんですのよ。王族の女は、いずれ結婚した時に降嫁して貴族位が下がってしまいますの……。この王家の力を維持するためには……ウフフッ」
なるほどな。それがセルフィーナ姫の野望なのか……おもしれー。王族も貴族も気に入らねーからな。ならセルフィーナ姫に肩入れして……しかも、この極上の身体まで手に入れられるなら最高じゃないか。国は手に入れてもその後の統治はメンドクセーと思っていたが……それもセルフィーナ姫にやらせればいい。なら決まりだな!
「セルフィーナ姫。俺様は姫様と手を組みましょう。よろしくお願いします」
「ええ、さすがは勇者様ですわ。きっと分かってくださると信じておりました。それならば……まずは勇者様ご自身の力を『覚醒』させて戴かなければなりませんわね。放課後……私のお部屋でお待ちしておりますわ」
王女様の熱いお誘いに、思わず股間が熱くなる。夜まで待てば、思う存分に……グフフフ。
◆◆◆◆
なぜ……どうしてこうなった……!?
俺様は姫様に誘われて部屋へと行き、勧められるままグラスに入ったワインを飲んだはずなのだが……。
ここは……訓練所……か?
俺様が横たえられている周囲には、クリスティ、ウルリケ、ルイーゼ、ラウラも倒れている。麻痺しているのか、全身にまったく力が入らない。
そして視界の先には、この国の騎士団長、魔導師団長……そして、優雅に微笑むセルフィーナ姫の姿があった。一体どういうことだ!?
「ウフフッ、さすがは勇者様。睡眠毒に対する耐性も高いのですね。それに……先ほど申し上げたではありませんか? 勇者様と従者の皆様には『覚醒』していただくと……」
覚醒……? 特訓をして強くなっていくのではないのか!?
「特訓、でございますか? もちろん『覚醒』していただいた後に、両団長としごいて差し上げますわ。ですが……今のままの貧弱な皆様では、特訓すら無意味ですから……」
セルフィーナ姫の合図で、倒れているクリスティたちに謎の薬品を飲ませたり、怪しい注射を打ち込んでいく……!
そしてその魔手は、未だ身体が動かない俺様にも伸びてきて——。
チラリと自分の中に入っていく液体が注射器越しに見えてしまった。何とも形容しがたい……真っ赤な血液のようで、真っ黒な悪意の塊のようだった。それがドロドロした感じで、ゆっくりと身体に入ってきた。
……熱い、……骨や皮の下にマグマが流れているようだ。そして無限に思えるような魔力が身体に集まり……突然、すべてが消えた。まるで糸の切れたマリオネットのように動かない。そう思っていたら、周りからも『ドサッ、ドサッ』と倒れる音がした。俺様と同じように、クリスティ、ウルリケ、ルイーゼ、ラウラが倒れたのだろうな。
「姫様。よろしかったのですかな? 貴重な勇者様ですが……まさか、王家に伝わる『ラヴァーズブラッド』をお使いになられるとは……」
「ウフフッ、勇者の手を煩わせるわけにはいきませんからね。勇者様……聞こえておりますわね。これから三日間は耐えてくださいましね。そうすれば新たな力が手に入りますわ。もちろん従者の皆様も……魔力が底をつき、枯渇状態が続いて死ぬような苦しみでしょうが、乗り越えた時には別人のようになっておりますからね」
俺様は顔を覗き込み、微笑んでいるセルフィーナ姫の顔が酷く歪み、黒く染まっているかのように見えた。
そしてそのまま、俺様の唇に自分の唇を重ねて……
「乗り越えて、次はロマンチックにキスをしてくださいましね。私の愛おしいお方……」
それからも、俺様にはまだ意識があった。動けなかったが……確かに魔力枯渇が続き、頭痛や吐き気が凄い。耐性の強い勇者でも、色々と持っていかれそうになる。
そして、ヤツらの会話も聞こえていた。
「ようやく第一段階ですな。『覚醒』に失敗したら……廃人になりますが……」
「約束通り、廃人になった女は陛下や重臣に回してくださいな。その約束で『ラヴァーズブラッド』の使用許可や、勇者様への協力を取り付けたのですから」
……クソッ、最初からそれが狙いか? しかし、これを乗り切れば……新たな力が……
「そうですな。そういえば、姫様ご自身も……」
俺様の意識は、そこで暗転した……




