旅立ちに向けて……
フォルトゥーナ商会の新製品も軌道に乗った。
相変わらず冒険者レーションやポーション、武器・防具の売り上げは順調。
迷宮都市ビギナリアに巣食っていた害虫もいなくなった。
もう、俺たちの実力では初級ダンジョンだと物足りないのだ。
ここでダンジョンについて説明しよう。
現在、人類が踏み込めるダンジョンは上級までだ。しかも人外扱いされるS級冒険者以上でも中級を攻略、もしくは上級の上層部までが限界という難易度である。
初級ダンジョンでさえ攻略できる冒険者はほんの一部で、ほとんどの冒険者は初級ダンジョン内の魔物討伐や資源回収で利益を上げている状況だ。
しかし、俺たち冒険者パーティー『セレスティアル・ガーデン』は、全員が初級ダンジョンを完全攻略して素材を持ち帰れる。
これにより俺たちはもう一段階上を目指す事にしたのだが……
「いやで〜〜す! 絶対にご主人様について行きますからね……うわ〜ん!」
う〜ん、駄々をこねているのは、フォルトゥーナ商会で店長を任せているリネットだ。一応、冒険者パーティー『セレスティアル・ガーデン』のメンバーには全員が入っているけれど……戦闘専用メンバーではないから留守番と言ったら……これだ。
困ったな〜、とアオイの方を見ると……微笑んでいた。
「ウフフッ、リネットは主様が大好きなのですね……カワイイわ〜」
「本当にもう、早く決めなさいよ」
「……枕カバーを『シーセル』で作ってくれない?」
続いてアカネがイライラしているし……キミカは相変わらずだ。
「ご主人様のダンジョンを巡る旅に、リネット店長も連れて行ってあげてください。そろそろフォルトゥーナ商会も迷宮都市周辺だけでなく、サスーニア海洋国内に支店を増やしていきませんか? その下見をリネット店長にお願いしたいのです。ご主人様と一緒なら私達も安心ですから……」
……! なるほどね。確かに新店舗を展開して欲しいと、商業ギルドを含めて色々な所から要望が上がっているしな……。冒険者パーティーのメンバーを見ると……みんな『しょうがないな』という顔をしていた。
「セシル……本当にありがとう。私、頑張るよ!」
「いいですか? 店長は新店舗の用地を見に行くのですよ。ご主人様と一緒だからとハメを外してばかりでは嫌われますからね……」
なんとかセシルがまとめてくれた。
「それじゃあ、フォルトゥーナ商会はセシルに任せたよ。レナとミアは従業員の安全を第一に考えて行動してね。危険な事は無しだよ。お金や商品とかより、キミ達自身が俺にとっては一番大事なんだからな」
フォルトゥーナ商会のメンバーは自分達が一番大事と言ってもらえて嬉しかったのか……全員がニコニコしている。
「拠点に関してはハンスとマーサさんに任せたよ。ココア、ミリー、ネネ、シャロン、ユリも頼んだよ」
元村娘の5人も立派なメイドになりつつある。と思っていたら……
「僭越ながら、旦那様の旅にこの5名を順番にお連れいただけないでしょうか? 外で行動なさる旦那様に、メイドもお連れしていないと体裁が悪うございます。この5名ならば私が仕込んでおりますので……」
な、なんと? ウチの影の実力者・マーサさんからのお達しだ。そう、俺の奴隷なんだけど、マーサさんだけは『さん』付けになってしまうんだよね。そしてもちろん、断る事も出来ない。
「お、おう。マーサさんが言うなら……一人ずつかい?」
そこでココア・ミリー・ユリの年下3人が一歩前に出て……ペコリと一礼する。
ココアは茶髪のおさげ髪で15歳、ミリーは緑髪のボブカットで14歳、ユリは黒髪のパッツンで15歳。
拠点に来た時の不安そうな表情は無くなり、メイドとしてのプロ意識を感じるまでになっていた。
「ならガルバは拠点防衛のために残ってくれ。あと貴重な男手だからな。みんな、こき使ってくれ! バルカンとドランのドワーフコンビも拠点で生産を頼む」
ガルバはこの前の荷運びで散々使われたのを思い出したのか青い顔をしていて、代わりにドワーフコンビが声を上げる。
「おうよ、ルディ。儂らは金属を打てれば文句はないが……お主が居ないと『魔鋼』が……なぁ?」
はは〜ん! 言いたい事は分かった。それは解決済みだよ。
「アオイ・アカネ・キミカ……アレを……」
スライム娘達の手のひらには、それぞれのカラーに合わせたスライムが乗っていた。
「このスライム達を置いていく。それぞれの色のスライムには特色を付与してある……ブルーは『通信・収納』、レッドは『スキル・戦闘専用』、イエローは『生産』だ。これでアオイ達が居なくても、今まで通り商会も冒険者も生産も支障が出ない。悪用はするなよ……ガルバ」
「ルディの旦那。また俺かい? 俺がそんな事をやる理由……」
「パンツとか見るために、お前ならものすごい努力をしそうだね……」
「ウグッ、ルディの旦那には敵わないなぁ〜」
全員で笑っているけれど……一人だけ寂しそうな顔をしていた人物の頭を撫でて、
「行ってくるよ、フィオナさん。キミが残ったメンバーの冒険をカバーして欲しい。キミなら任せられるからね」
「もう、ルディ君は……そんな事を言われると『私も連れて行って!』とか言えないじゃないですか。バカ〜!」
やっぱりかぁ〜。
「ああ、分かってる。キミが今のフィオナ村の冒険者ギルドを放置出来ないこともな……ちょくちょく帰って来るよ」
クスンと涙を拭いながら、フィオナさんは精一杯の笑顔で……
「浮気したら許さないからね……気をつけてね」
それまで見た笑顔の中で一番無理をしていて、一番可愛らしかった。




