転落受付嬢
【リジェクテッド元専属受付嬢エマール視点】
「なぁ、聞いたか? あのフィオナ村で活躍する、冒険者パーティー『セレスティアル・ガーデン』の話を……」
「ん? どの話なんだよ……色々な伝説があり過ぎて、どの話か分からないよ。本当にフィオナ村より、迷宮都市ビギナリアへ来て欲しいよ」
「アハハ、本当にな……彼らがもたらすダンジョンからの品々や、素材があればこの迷宮都市も景気が良くなったのにな……『リジェクテッド』の勘違い野郎達が、本物の英雄を追い出すから……あっ」
私と目が合った途端、話していた冒険者たちが「うわ、関わらんとこ……」と言わんばかりに引きつった笑みを浮かべ、サッと視線を逸らして立ち去っていった。
……もう、なんなのよ。私だけのせいじゃないわ。
ここ最近ではギルドの中でも街の大通りでも、こんな話ばかりが毎日毎日繰り返されている。
追い出されたルディたちが凄腕のパーティー『セレスティアル・ガーデン』として大活躍し、フィオナ村を潤していること。
そして、彼らを追い出した『リジェクテッド』の私たちが愚かで、追放を承認した冒険者ギルドが無能で……彼らを即座に保護した商業ギルドが、優秀だった。街中の誰も彼もが、私を嘲笑うような目で見てくる。
「くっ……なによ、なによみんなして……あの片腕の無能を直接追い出したのは、ブリッツたちでしょ? 私はただ、ギルドのトップ受付嬢になって上級冒険者を……私の実家で囲う為に……」
誰もいないギルドの物陰で、私は爪を噛みながら一人で悔しさに震えていた。あのバイキング騒ぎでさらに、迷宮都市ビギナリアでの評判は地に落ちていた。しかも実家である貴族家は……バイキングの被害者などから度重なる賠償金や、ツケの支払い等……ほぼ、貴族家として存続出来ない程に、なってしまいました。
それだけでなく、私はバイキングのあの野蛮な男に汚され……許婚の伯爵令息からは婚約破棄を、言い渡されました。
「なんで、私ばかり……ただ家の為に、自分でも幸せになる為に……頑張っていただけじゃない」
だけど……本当は、分かっている。
あの時は一番ルディを見下し、奴隷のような扱いをして嘲笑っていたのは……他の誰でもない、私だ。その優越感に私の脳内はドクドクと麻薬のような痺れと共に、圧倒的な快楽に酔いしれていの。
あの頃の私は、『リジェクテッド』というトップパーティーの専属受付嬢という肩書きに高揚し、高慢に振る舞っていた。ルディが居なくても、私の采配でやっていけると……どれだけ凄いスライムで、パーティーに貢献しているとか知ろうとせず……片腕がない事、スライムテイマーという事だけを理由に……ゴミのように、追い出した。
『その結果が、これだ』
ブリッツやエドガーは、脱走奴隷のバイキングに脅されてあっけなく屈服し……最後はルディに指一本触れられずに一瞬でのされて、犯罪者として連行された。
私を散々コキ使い、人質のように扱ったあのバイキングの男……シーデビル二世も、獄中で謎の死を遂げたらしい。
気づけば、私の周りには誰もいなくなっていた。
リジェクテッドの女達、エスナとミラもシーデビル二世の死を確認すると……揃って迷宮都市ビギナリアを出ていった。
専属受付嬢としての栄華も、取り入っていた強い男たちも、すがる家もすべて失った。
「あいつ……ルディさえ、おとなしく落ちぶれていれば……いずれは私が『フォルトゥーナ商会』も手に入れて、トップに君臨するはずだったのに。あの最高の冒険者パーティーも、バンバンと金貨を稼ぐ商会も、貴族を越える生活も、全部私のものだったのに!」
野蛮なバイキングに連れられて間近で見せつけられた、あのルディの姿が頭から離れない。私達が言いなりになるしかなかった、シーデビル二世を簡単に退ける姿を……そして横目で私に向けられた、哀れむような目が……頭から離れないの。
新調された最高級の衣服を纏い、息をのむほど美しい女達に愛おしそうに囲まれ……街中の人々からは、英雄として歓声と拍手を浴びていたルディ。
かつて私が「ゴミ」と捨てた男は、今や私が逆立ちしても届かない雲の上の存在になっていた。
小さな頃から憧れた『英雄』が、すぐ目の前で冷めた顔をしながら……私を見下ろしていた。
「うぅ……っ、ひっく……っ」
冷たい石畳の上にへたり込み、私は誰も助けてくれない暗闇の中で……一人静かに涙を流すことしか、できなかった。
どれだけ泣いても、過去には戻れない。
あの日のあの受付カウンターで、作りあげたパーティーを失って傷ついたルディに冷酷な言葉を投げつけ……追い出した、あの瞬間に。
「もし……もしも私が、あの時にルディとスライムの有能に気づいていたら……。優しく手を差し伸べて、苦労を労わって……本物の専属受付嬢として、支えていたら……」
そうしていたら、あの『セレスティアル・ガーデン』の隣にいたのはフィオナではなく……私だったのかもしれない。いえ、フィオナを追い出したから、どのみち私では無理ね……
商業ギルドで巨万の富を築き、街中から英雄と称えられた英雄。貴族すら羨む生活を送るルディの傍らで、笑っているような未来は……最初から無かった。
「うわぁぁ〜ん、だからってこれはあんまりだわ。少しだけ、欲しがっただけじゃない。人よりも……欲しがっただけ、うわぁぁ〜ん」
大きな声で泣いていたが私だと分かると、誰も近づかず誰も相手にされなくなっていった。
辺りに響き渡る泣き声は、次第に聞こえなくなり……辺りはいつものように、静かになった……




