夢が終わる……
【元パーティーメンバー・ミラ視点】
今はエスナと共に、アオイとアカネを名乗る女達と……路地裏で対峙している。そこで聞かされた、ルディの過去の話。私達だって、知らなかったのに……
「それはない。ルディのあの興味の無い顔を、見なかったの? ルディは故郷でも、婚約者を他人に取られて……イヤ、婚約者だけでなく信頼していた家族も、友人も、ルディが親友と呼んでいた男に全て取られたのよ。そしてここに来て……アンタ達、仲間もね」
アカネは、私に力を与えてくれていたスライムだ。その赤く強気な目を、さらに力強くさせる。しかし、私にはその姿がぼんやりとしか見えない。だけど赤い目だけは、分かった。
「私達だって……こんな事になるとは、思わないじゃ……ひい!」
隣のエスナが、反論するが……
「ウフフッ、ゴメンなさいね。アナタ方があんなくだらない男に惹かれていくのを、見てるしかなかった私達自身にも怒ってるのですよ……あの頃の私達では、人化出来なかった。それが結果、主様をさらに傷つけてしまうとは……この際、その元凶を殺したくなってしまうじゃないですか……」
声だけで判断すると、アオイだろう。あの大人しいスライムだったのに、殺気が凄い。私は目が見えない分、その殺気に充てられてしまう。
私達も裏切った過去の女達と、同じにされてしまっている。
「ひ、ひぃぃぃ……ご、ごめんなさい、ごめんなさいぃ……私達だって好きで……」
「頼むから、殺さないで……目が見えないんだ、もう私たちは何もできないから……私達だって、頑張って……」
エスナと一緒に懇願するが、全く効果がない。
そう思っていたら、物陰から1人の人影が飛び出してきた。
「勝手な事ばかり、言わないでー! ご主人様も、アオイ様も、アカネ様も、アナタ達の身勝手な考えで振り回さないで下さい! 私には3人共大好きで、幸せになって欲しい人なんです。それを今更、裏切ったのに……赦して欲しいなんて、自分勝手過ぎます。それに、私は覚悟してるんです。ご主人様の赤ちゃんを、産みます。ご主人様とアオイ様やアカネ様と、本当の家族になるんです。邪魔しないでー!」
突然出てきた……声からして若い女は、甲高い声で私達を罵倒する。
「……リネット? 居るのは分かってましたが、ビックリしましたよ」
「そうね。でも、リネットのおかげで、冷静になれたわね」
リネットと、呼ばれた女のおかげ? でアオイとアカネの殺気が静まっていく。でもね……
「なんなのよ。アナタは誰なの? 私達の人生が、かかってるのよ……邪魔は、アナタでしょ?」
分かってるの。私達が、悪い事も。でも少し、好きになる人を間違えてしまっただけ。あんなに尽くした私達を、野蛮なバイキングに差し出すようなクズ男だとは思わないじゃない。それにこのままじゃ、バイキングの子供を宿してしまうのではと……エスナと一緒に恐怖の毎日なの。助けてよ〜。
「それでは、聞きますが……アナタの人生に何故、ご主人様が関わりがあるのでしょうか?」
「それはまた、アカネと一緒に冒険者をやれば……私には『女神の涙』が必要なのよ……」
私の願いも虚しく……助けられる力があるのだから、助けてよ……
「だから何故、アナタ達にご主人様が力を……それにアオイ様もアカネ様も? アナタ達自身では、何もやらないのに?」
そんな事……やってるわ。とっくに、やってるわよ。それでも一向に目が……魔力が……
「……私達だって、努力してるの……でも、恐くて……ミラさんだって、目が不自由だから……」
「……だから、なんなんですか? ご主人様には、関係ありません。出来ないなら、こんな所で嘆いてないで訓練すればいいじゃない。それを、私の大好きな人達のせいにするなぁー!」
路地裏の壁に木霊するほどの、リネットの呼ばれた女の怒声に……私達はまるで物理的な衝撃でも受けたかのように、ビクッと身体を強張らせました。
「な、なによ……あんたに私たちの何が分かるっていうのよ……!」
『女神の涙』があれば、目が治るの。そうすれば、鍛冶師に戻れる。小さな頃からの、夢なの。私の光を奪った男達に、私の作品で復讐するのよ。
「分かりますよ。アナタ方はただ、自分たちの無能と怠惰の言い訳に……ご主人様の優しさを、利用したいだけです!」
リネットから、私達が何もしてないと……してないじゃない……出来ないのよ。
「五感を失って怖い? 暴力が怖い? 冒険者が続けられない? 結構じゃないですか。だったら冒険者を辞めて、別の生き方を探せばいいだけです。それを、自分たちでリスクを背負う覚悟もないくせに……立場が悪くなったら『また力を貸して』? ……虫が良すぎるのも、大概になさい!」
それが出来れば、苦労はないわ。何も知らないくせに……
「……フフ、リネット、強くなったわね。私はそれが嬉しいわ」
「フン、リネットもやるじゃない」
「アオイ様、アカネ様。もう行きましょう。これ以上、この人たちの甘えに付き合うのは時間の無駄です。ご主人様がお待ちです」
ああ、夢が終わってしまう。ここで……
「そうね。じゃあね、哀れな元トップ冒険者さんたち。精々その泥水の中で、一生自分たちの無力を呪ってなさい」
私達の方を振り返らずに、去っていく……雰囲気で分かる。
鍛冶師として、復帰する事も……ルディが開発したという、新素材の『特級魔鋼』ってのを実際に自分の目で、見てみたかった。
そして出来たら、その『特級魔鋼』で武器を打ってみたかった。




