ふざけないで!
【フォルトゥーナ商会店長リネット視点】
ご主人様の元冒険者パーティーメンバーという2人と、アオイ様・アカネ様とのやり取りを路地裏の物陰から見ていた私は……元メンバーの人達の勝手な言い分に、思わず身体が動いてしまいました。4人の目の前に出て……
「勝手な事ばかり言わないでー! ご主人様もアオイ様もアカネ様も、アナタ達の身勝手な考えで振り回さないで下さい! 私には3人共大好きで、幸せになって欲しい人なんです。それを今更、裏切ったのに……赦して欲しいなんて、自分勝手過ぎます。それに私は、覚悟してるんです。ご主人様の赤ちゃんを、産みます。ご主人様とアオイ様やアカネ様と、本当の家族になるんです。邪魔しないでー!」
あー、やってしまいました。自分では冷静なつもりでしたが、ご主人様やアオイ様やアカネ様がバカにされてると……謝れば赦して貰えると思ってる、この2人に本当に頭に来てしまいました……
「……リネット? 居るのは分かってましたが、ビックリしましたよ」
「そうね。でも、リネットのおかげで、冷静になれたわね」
私の頭を撫でてくれる、アオイ様とアカネ様はいつもの優しい感じに戻っていてホッとしました。
でも……思わずですが、恥ずかしい事を言ってしまいました。顔から火が出るのではないかと、思うくらい熱いです。それを見ていたアオイ様は「カワイイわ!」と言ってくれました。
「なんなのよ。アナタは誰なの? 私達の人生が、かかってるのよ……邪魔はアナタでしょ?」
確か、この盲目のドワーフ族の人は……ミラさんだったかな?
「それでは聞きますが……アナタの人生に何故、ご主人様が関わりがあるのでしょうか?」
自分で裏切ったのにご主人様が必要とは、おかしな話です。それを……
「それはまた、アカネと一緒に冒険者をやれば……私には『女神の涙』が必要なのよ……」
「だから何故、アナタ達にご主人様が力を……それにアオイ様もアカネ様も? アナタ達自身では、何もやらないのに?」
ご主人様やアオイ様やアカネ様に、頼るばかり……自分達で努力して、冒険者を続ければいいだけ。結局は周りのせいにして、楽をしてるだけ。そんな人達に、ご主人様を渡すワケにはいきません。
「……私達だって、努力してるの……でも、恐くて……ミラさんだって、目が不自由だから……」
「……だから、なんなんですか? ご主人様には、関係ありません。出来ないなら、こんな所で嘆いてないで訓練すればいいじゃない。それを、私の大好きな人達のせいにするなぁー!」
路地裏の壁に木霊するほどの私の怒声に、エスナさんとミラさんは……まるで物理的な衝撃でも受けたかのように、ビクッと身体を強張らせました。
「な、なによ……あんたに、私たちの何が分かるっていうのよ……!」
ミラさんが悔しそうに、けれど完全に私の気迫に押された怯えた声で言い返してきます。
「分かりますわよ。アナタ方はただ、自分たちの無能と怠惰の言い訳に……ご主人様の優しさを、利用したいだけです!」
私は一歩も引かずに、二人を鋭く見据えました。
「五感を失って怖い? 暴力が怖い? 冒険者が続けられない? 結構じゃないですか。だったら冒険者を辞めて、別の生き方を探せばいいだけです。それを、自分たちでリスクを背負う覚悟もないくせに……都合が悪くなったら『また力を貸して』……虫が良すぎるのも大概にして下さい!」
謝れば、泣き落とせば、昔のようにご主人様が「仕方ないなぁ」と苦笑して……至れり尽くせりの冒険者としての補助とアオイ様達の力を、タダで授けてくれる……そんな彼女たちの甘ったれた幻想を、私は言葉の刃で完膚なきまでに叩き潰してやったのです。
それに、私が実際に体験してるのです。スライムの力を……今後も利用しようと近づく悪い人達も、いるでしょう。
「……フフ、リネット、強くなったわね。私はそれが嬉しいわ」
アオイ様は、にこやかに微笑んでくれた。
「フン、リネットもやるじゃない」
アカネ様は赤い顔をしながら、プイと横を向いてしまう。
お二人の温かい肯定に、私はまた少し顔が熱くなりましたが……ぐっと堪えて二人に向けて、
「アオイ様、アカネ様。もう行きましょう。これ以上、この人たちの甘えに付き合うのは時間の無駄です。ご主人様がお待ちです」
「そうね。じゃあね、哀れな元トップ冒険者さんたち。精々その泥水の中で、一生自分たちの無力を呪ってなさい」
アカネ様が最後にふっと鼻で笑い、私たちは今度こそ完全に……二人を暗闇の路地裏へと、置き去りにしました。
後ろから「待って……置いていかないで……!」というエスナさんの泣き叫ぶ声が聞こえましたが、誰も振り返る者はいません。
3人で歩いていく先には、私の大好きな笑顔で……
「お帰り……リネット心配したぞ。急にいなくなって……ケガとかは? アオイ達と、一緒だったんだね……」
ご主人様は心配してくれたみたいで、少し嬉しくなってしまったのはナイショです。
「主様、ご報告が……」
アオイ様がご主人様に、先程の出来事を話そうとすると……
「ん? 3人で、話をつけてくれたんだろ……だったら俺は、何も言う事は無いよ。それよりも、腹減った……」
フフフッ、本当にご主人様らしい。私達を信頼してくれてる、証拠なんでしょうね。私はご主人様にずっと、着いて行きますからね……覚悟してね〜。




