遭遇
【フォルトゥーナ商会店長リネット視点】
「ご主人様、そちらの魔導具屋さんも見てみませんか?」
「お、いいね。ダンジョンに入る前に、テントやリュックも見ておきたいし」
私の呼びかけに、ご主人様――ルディ様が、いつもの穏やかで優しい笑顔を返してくれます。
今日は待ちに待ったダンジョンデビューを前に、必要な備品や装備を買い揃えるため……私たちは迷宮都市『ビギナリア』へと、やってきていました。
ご主人様のすぐ隣には、相変わらず美しく完璧な仕草で寄り添うアオイ様、何かとご主人様に突っかかりながらも嬉しそうなアカネ様、そして「ふわぁ……マスター、あっちのベンチで寝てもいい?」と、眠そうにポニーテールを揺らすキミカ様がぴったりとくっついています。
その後ろを私たち商会のメンバーや、冒険者メンバーが続くのですが……賑わう大通りを行き交う人々の中で、私たちを「奴隷」だと気づく人は、一人もいないのではないでしょうか。
それほど、私たちが身につけている衣服は上質で、肌や髪もツヤツヤと輝いています。衣服もですが、お風呂にまで毎日入らせてもらってますから……
これほど贅沢な生活を送らせてもらえているのも、すべてはご主人様の温かいお人柄のおかげです。
『お前たちを、奴隷扱いはしない。俺の家族だ!』
あの時、オークション会場から私たちを買い取ってくれた、ご主人様が言ったお言葉。
最初は『奴隷である私達を懐柔するための、甘い言葉に違いない』と少し身構えていました。それに、これほど若くてたくましいお方ですもの……すぐにでもベッドへ連れて行かれて、エッチなことをされてしまうのでは、なんて……コ、コホホ、ゴニョゴニョ。
ですが、いざ生活が始まってみれば、ご主人様は驚くほど手を出してこないのです。
優しく、本当に大事に、妹や本当の家族のように扱ってくださって……。
(……もしかして、ご主人様って少し奥手なの? いえ、意気地なしなのかしら?)
なんて、不敬なことを一瞬だけ考えたこともありました。ですが、そんなことはありません。
ご主人様は私たちが油断しているとき、たまに私の胸元や、ココアたちの健康的な生足なんかを、熱心に「盗み見」しているのですから。
(ふふっ、男の子なんですもの。当然でよね。むしろ、もっと私を見て欲しいなんて言えませんけど……)
そんな風に少しに歩いていると、不意に……隣を歩いていた『白の女帝』ことジェシカ様が、少し気まずそうに話かけて来ました。その真剣な表情で……私に、囁きかけてきました。
「ねえ、リネット……私、今日のお買い物で……その……少し服を……」
「ええ、もちろん協力しますわ、ジェシカ様。ご主人様に、ジェシカ様の最高の姿を見ていただきましょう?」
「なっ! 別に、あいつに見せるためじゃなくて、普通に着るための……」
真っ赤になって慌てるジェシカ様を見て、私はクスリと笑ってしまいました。ご主人様に少しでも、カワイイ姿を見せたいのでしょうね。
頑なだったジェシカさんやルーナさんさえも、今やこうしてご主人様の事を思っていらっしゃるのが分かります。
「……ルディさん?」「えっ、ルディがいるの?」
そこには、ボロボロの女の人が2人立っていました。
すぐにアオイ様とアカネ様が、立ち塞がり……ご主人様には、キミカ様が寄り添います。
「お久しぶりでございます。エスナさん」「本当ね……ミラ」
アオイ様とアカネ様は、このボロボロの2人を知ってるみたい。ただ、やはり他の皆さんは知らないらしく……少しキョトンとしている。
「ルディさん、アナタに謝りたくて……うわぁぁ〜ん」「私達が悪かったわ……クスンクスン」
突然、泣き出す女の人達。しかも、ここは大通り……かなりの注目されてますね。
「そう、アナタ方もようやく自分の愚かさに気が付きましたか……」
「私は絶っ対〜に赦さない」
アオイ様もアカネ様も、相当怒っているようだ。
謝られてる本人であるご主人様は、どうかというと……
「おっ、久しぶり。ケガしないように、冒険者を頑張ってな。じゃあな〜」
あっけらかんとしたもの言いに、その場の誰も動けなくなった。
「主様、皆様を連れて先に買い物を、してらして下さいな。私達が、話を聞いておきますので……」
「おう、アオイとアカネに任せた。じゃあな……行くよ、みんな」
ご主人様と皆さんは、連れ立って場を離れていく。呆然とする2人に、アオイ様とアカネ様は裏路地へ案内して……私はご主人様に関係している事なので興味があり、隠れて見る事にした。少しホコリが舞う路地裏には、対峙する4人の姿があった。
「改めまして、お久しぶりですね。エスナさん、ミラさん」
アオイ様は、にこやかに挨拶をされた。
「……私はアナタ達を知りません。ルディさんとはどのような関係なんですか?」
「嘘ね。良く知ってるはずよ……ねぇ、ミラ?」
「ルディに、アナタ達みたいな美女が……確か名前は……アオイとアカネ?」
盲目の方の女の人が、何か気がついたようだ。
「ええ、そうですよ。少しの間、行動を共にした『スライム』ですよ。その節は、お世話になりました。いつ、殺してやろうか……いえ、はしたないですね」
アオイ様から、殺気が放たれている。
やけに静まり返り、私の生唾を飲み込む音が響いた気がした。
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本日より新作を公開する事になりました。よろしければそちらもご覧頂けたら嬉しいです。初日は1章分15話を公開致します。次回作タイトルは……
『スローライフを送るはずが、スキル『育てる』の使い方を間違えて辺境の貧乏領地が最強へと花開く~前世の妻から枯れたと言われ意地になったオジサンが異世界で咲き誇る~』
スローライフ×勘違い×戦記になります。




