効果を実感するメンバー達
「せい! やぁー!」
スライムだけしか出ない『スライムの丘』で、訓練をしている。俺の身体強化や、アカネの魔法適性アップなど慣らしておかないと危ないしね。
最初は強化率に慣れてなくて、転倒したり距離感がバグったりして危なかったけど……2時間くらいすると、それも無くなった。なんでかな?
「主様、確証があるワケでは、ありませんが……恐らくは主様の『処理能力アップ』が、作用しているのではないでしょうか……」
うん、そうかもな……言葉の通りなら、処理能力が上がってるはずだしな。良い効果なら、プラスだしね。
「これなら、思ったよりも早く次のステップへ進めそうだな」
みんなの嬉しそうな笑顔を見渡しながら、俺は確かな手応えに口元を綻ばせた。
正直、最初は少し焦ったのだ。俺の身体強化が付与されたメンバーが、一歩踏み出しただけで数メートルも突進して転倒したり……アカネの魔法適性アップによって膨れ上がった魔力の距離感が掴めずに、明後日の方向に火球を飛ばしたりしていたからだ。
急激すぎる力の向上に、脳と身体の同期が追いついていない……そんな、危険な状態だった。
それが、わずか2時間。
今や誰もがまるで何年もその力と付き合ってきたかのように、滑らかに、そして正確に、手足を動かしてスライムたちを圧倒している。
「主様のスキルは、本当に底が知れませんね。与えるだけでなく、それを使いこなすための『器』まで、同時に引き上げてしまうのですから」
アオイが感心したように、瑠璃色の瞳を輝かせる。
「フン、私の魔法適性アップをあんなに早くモノにできるなんて、少しは見所があるじゃない……まぁ、私の教え方が良かったからに、決まってるけどね!」
アカネがツンとそっぽを向きながらも、自分の力を分け与えられたメイドたちが、嬉しそうに魔法を確かめているのを見て……どこか誇らしげに胸を張った。
そして、その背後では――。
「……あり得ないわ。いくらスライムのサポートがあるからって、素人がたった2時間で……身体強化の出力と魔力の制御を、完璧に我が物にするなんて。どんな超英才教育を施したって、不可能なはずよ……学園の生徒だって、そんな人はいなかったわよ」
ジェシカが、自身の常識を木っ端微塵に打ち砕かれて、驚愕のあまり顔を青くさせていた。
「うん……それに、みんな戦っている時、全然怯えてなかった。まるで、ご主人様の温かい魔力に包まれて守られているみたいって……すごく安心した顔で武器を振るってた……」
ルーナはみんなの表情やエルフの良く聞き取れる耳で、会話や独り言を拾い分析しているようだ。
それでも二人はまだスライムを受け入れる気はないようだけど、その価値観の根底は……今の一戦だけで完全に揺らいでいるのが、丸わかりだった。
「よし、みんな。『スライムの丘』での個人での慣らし運転はこれで合格だ。身体の違和感もなさそうだし、予定通り明日からは……本格的な『連携』の確認をする」
俺がそう宣言すると、訓練を終えたばかりのみんなの顔に……今度は緊張ではなく、明確な「自信」に満ちた笑みが浮かんだ。
「はい、ご主人様。お力になれるように頑張ります」
リネットが力強く頷き、奴隷達全体の士気が再び一つにまとまる。
個人の力量チェックは、これで完璧だ。だが、本当に重要なのはここからだ。異世界での暴力、特にダンジョンやスタンピードでの戦いは……決して個人の力だけで、生き残れるほど甘くはない。
前衛が敵を止め、後衛が魔法を放ち、遊撃が死角を補う……この『連携』が染みついて初めて、付与スライムの真価が発揮される。
「明日からは、前衛と後衛に分かれての連携確認をメンバーを入れ替えながらやるよ」
「「「はい!」」」
自信が着いたのだろう。キラキラした目で俺を見ながら、自身の成長を感じ取っているようだね。
◆◆◆◆
「……信じられない」
その夜、拠点の食堂で夕食を食べ終わった後も、ジェシカとルーナは残っていた。他のみんなは昼間の疲れからか自室に戻り休んでいる。ジェシカはずっと自身の綺麗な掌を見つめていた。隣に座るルーナも、エルフの長い耳を心なしかヘコませて複雑な表情をしている。
「ジェシカ、まだお昼の訓練のこと考えてるの?」
ルーナが静かに尋ねると、ジェシカ嬢は悔しそうに唇を噛んだ。
「当然でしょう。あの子たちのほとんどは、魔法の基礎すら学んでいないただの村娘や奴隷だったのよ? それが、あのルディという男が作ったスライムを受け入れただけで……学園の特待生以上の力を、制御していた……そんなの、今までの私の努力は何だったのって言いたくもなるわよ」
「うん……それに、みんなご主人様のことを心から信じてる。裏切ったらすべてを奪われるって説明されたのに、誰一人として疑ってなかった。あの信頼関係は、他人の力を借りるのが嫌だとか……そういう次元の話じゃない気がするの。そして、ここで選択肢を間違えたら私はまた……あの鉄格子の……」
2人は薄暗い食堂で、答えが出るのか分からないやり取りを続けている。
俺は久しぶりにアオイと一心同体になり、擬態で透明になり会話を聞いていた……




