元弱小冒険者ギルド受付嬢
【ある二年目の冒険者ギルド受付嬢】
皆様、お久しぶりです。とある村で冒険者ギルドで、受付嬢をやっているフィオナと申します。
今の私は以前の状況から、想像出来ないような忙しさです。
「はい、この札を持って解体倉庫へ行って下さいね。次の方……あっ、それをこちらには持って来ないで下さい……」
「……うわ〜ん、フィオナ先輩。助けて下さい〜」
「もう、またなの? アナタもそろそろ、慣れて貰わないと……あっ、マスター。この案件なんですけど、フォルトゥーナ商会から至急で回ってきた、防衛任務の書類です。すぐに手配をお願いします。あと、もう少しサインする字を丁寧に書いて下さい。怒られるのは、私なんですからね」
「お、おう、分かった。フィオナ、いつも助かるぜ」
ギルマスに書類を押し付け、私は一つ大きな溜息をついてから……また目の前の冒険者たちの列に、向き直りました。
「ウフフッ、次の方どうぞ……」
本当に、以前の状況からはまったく想像ができない。
数ヶ月前までは、1ヶ月に1人の登録者が来るか来ないかという、のどかで寂れたギルド出張所だったのに……だから凄く楽しい。
今や、朝から晩までビギナリアや他都市から移籍してきた冒険者たちでごった返し、廊下まで大行列ができるほどのギルド出張所……イヤ、ギルド支部になってしまったの。この度、出張所から昇格して、新しい冒険者ギルドを建てているの。
それもこれも、すべてはあの人の……ルディ君のおかげです。
「フィオナさん、こんにちわ……ウチのポーションをお持ちしました。下級・中級ポーションの売り上げはどうでしょうか?」
窓口にトコトコと近づいてきたのは、元シーライン商会の令嬢であり……今や『フォルトゥーナ商会』の若き代表として街を仕切っている、リネットちゃんだった。相変わらず働き者で、見かけるといつもパタパタと走り回ってるの。
「あ、リネットちゃん。いつもお疲れ様……相変わらず、凄いわ。そういえば……ルディ君は、今日もダンジョン?」
私がそう尋ねると、リネットちゃんはそれまでの冷徹な商人の顔をふにゃりと緩め、少し頬を赤らめて嬉しそうに微笑んだ。
「はい。アオイ様とアカネ様と一緒に、新しいレーションの素材を採りに新人教育という名のシゴキを……『今日の夜はフィオナさんの好きな甘い果物をたくさん獲ってくるからね』って、仰っていましたよ」
「も、もう、ルディ君ったら……でも、嬉しい」
リネットちゃんの言葉に、私は顔がボッと熱くなるのを感じた。
まさかあのオークションから、たった数ヶ月でここまで変わってしまうなんてね。
周りの新人冒険者たちは、私たちの会話を聞いて
「いいなぁ、俺たちもフォルトゥーナ商会に気に入られたいぜ」「ルディさんのために命を懸けたら、あの美味すぎるレーションを格安で回してもらえるかな」「リネットちゃん、ハァハァ」
と、羨ましそうに囁き合っている。
「コホン……さあ、リネットちゃん、納品手続きを進めましょうか。ルディ君たちが帰ってきたら、みんなで美味しい夕飯を食べられるように……私もこの山積みの仕事を、片付けちゃわないとね。あと……そこの人、リネットちゃんに手を出したらウチのギルドは出禁ですよ」
私のその言葉に、並んでいた冒険者たちが
「ひえっ……」と一斉に息を呑み、一歩後ろに下がった。
さっきまで『リネットちゃん、ハァハァ』などと不届きな妄想を漏らしていた不埒者たちは、完全に顔を引き攣らせて直立不動になっている。
今の私は、ただの寂れた出張所の受付嬢じゃない。建て替え中の新ギルド支部を切り盛りする、実質トップの受付嬢になっていた。私の機嫌一つで依頼の斡旋も出入りも決まるのだから、彼らにとっては死活問題である。でも、そんな事はしませんけどね。それをすると、私までエマール様と同じになってしまいます。
「ふふ、ありがとうございます、フィオナさん。でも大丈夫です。私の心も身体も、すべてを恩人であるご主人様に捧げると決めていますから。有象無象の男の人が、付け入る隙などありません」
リネットちゃんはそう言って、悪戯っぽく上品に微笑んだ。
その凛とした佇まいに、さっきまで鼻の下を伸ばしていた男たちは……今度は別の意味で
「おお……尊い……」「やっぱりルディさんには、敵わないよな……」「り、リネットちゃん……そんな〜……」
と、畏敬の念を抱いたように、ため息を漏らしている。
本当、リネットちゃんってば、ルディ君への忠誠心がブレなくて素敵です。一途だしカワイイわ。
私がそんなことを思いながら書類のチェックを進めていると、ギルドの重い木製の扉が勢いよく左右に開け放たれた。
「ただいまー、フィオナさん。あれ、リネットもいたんだ。今戻ったよ」
聞き慣れた、だけど聞くだけで私の胸をいっぱいにさせる大好きな声。
「ルディ君……!」「ご主人様〜!」
私が顔を上げると、そこにはいつものように……左右にスライムである美少女の、アオイちゃんとアカネちゃんを連れたルディ君の姿があった。
その後ろには、ビギナリアから移籍してきた新人冒険者たちが……まるで魂が抜けたような顔で、フラフラとついてきている……リネットちゃんが言っていた「新人教育という名のシゴキ」は、今日もかなり容赦がなかったみたい。
「主様、本日も無事に帰還いたしましたわね」
アオイちゃんが嬉しそうに、ルディ君の顔を覗き見る。その仕草が色っぽい。
「ふん、なっさけないわね〜。まったく、新人はちょっと根性が足りないわね」
アカネちゃんが呆れたように、ツンとそっぽを向く。
「あはは、まあみんな無事で何よりだよ。ほらフィオナさん、約束通り……ダンジョンの奥でしか採れない貴重な『太陽のハニーベリー』だよ。今日採れたてだから、すっごく甘いよ」
ルディ君が片腕で器用に、バスケットいっぱいに詰まった黄金色の果実を差し出してくれる。
その眩しい笑顔を見た瞬間、朝からの疲れなんて……本当に、どこかへ飛んでいってしまった。
「ありがとう、ルディ君……これ大好きなの。さあ、リネットちゃん、手続きも終わったわ。今夜はマーサさんが美味しいご飯を用意して、待ってくれているはずよ。みんなが待っている家に帰りましょう」
「はい、フィオナさん」
こうして、私の変化した日常が過ぎていくのです……
「いらっしゃいませ。冒険者ギルド『フィオナ村』支部へようこそ。受付嬢の、フィオナと申します……」
もう、ルディ君。フィオナ村って恥ずかしいじゃない。毎回言う私の身にもなってよーー!




