団体さん御案内〜
オークション会場から、一歩外へ出ると……そこには壮観という言葉すら生ぬるい、美女・美少女の津波だ。
俺を先頭に、寄り添うアオイとアカネ。
後ろに控えるのは、故郷の村娘5人組。
そして、新しく設立する商会の土台となる『元シーライン商会』の精鋭メンバー女24名。
さらに、今回の目玉だったシークレット奴隷――『白い女帝』ジェシカ嬢、『蒼穹の月』のルーナ、のじゃロリ娘『天狐』のリン。
これだけでも34人の大所帯なのだが、俺たちの後ろには……なぜかさらに、4人の男女が畏まって整列していた。
1人目は、丸太のような腕をした筋骨隆々の獣人族のマッチョマン。
2人目は、頑固そうな偏屈面をした地面に届きそうなほどヒゲモジャなドワーフ族のオヤジ。
3人目と4人目は、背筋がピンと伸びたいかにも仕事が出来そうな老執事と上品なメイドの熟年夫婦。
彼らは、あの自滅したオーク貴族がシークレット奴隷の前に落札した者達で、アオイの資金削りをする為に……意地になって高額落札させていた奴隷たちだ。
オーク貴族が破滅して不渡りを出したため、裏組織が不渡りの清算の為と……ジェシカたちのオマケとして、俺に押し付けてきたのだ。
「フフ。あの愚かなオークの資金を削るためだけに、叩き上げさせた駒でしたが……まさか全員が、主様の配下になるとは。運命の輪の導きは、本当に素晴らしいですわね。流石は主様ですわ」
隣でアオイが「ウフフッ」と愉しげに笑い、俺の腕に胸を押し当ててくる。
計略通りとはいえ、戦闘要員の獣人・鍛冶師と思わしきドワーフ・そして今後の拠点経営に絶対必要な一流の執事夫婦まで無償で手に入るとは……頼もしすぎるスライム娘の暗躍に、俺は少し背筋を震わせながらも……苦笑して彼らに、声をかけた。
「みんな、いろいろあったと思うけど、俺のところでは理不尽に命を奪ったりはしない。これから新しい商会の従業員と、冒険者パーティーとして活躍して貰うからね。それぞれの力を貸してほしい、よろしくな」
「「「はい!」」」
従順な姿にアオイは満足そうに頷き、アカネはフフンと鼻を鳴らす。
「じゃあ、みんなの服や日常品などを買いに行った後に、宿屋『木漏れ日亭』でお風呂だね……その後マスターに、飯でも作って貰おうか……」
その一言で、奴隷達から驚きの声が上がる。
その中で、最年長と思われる老執事が……
「旦那様、衣服に食事……しかもお風呂まで頂けると、いうことでしょうか?」
「ん? そうだけど……あれ? 何か足りなかったかな? あっ、宿屋にこれだけの人数が泊まれないから、外での野営になっちゃうけどゴメンね」
俺が手を合わせて謝ると、さらに困惑した顔をする。
なんだろう……間違えたかな?
「ウフフッ、主様。多分、皆様困惑されているのは……主様からの待遇が、良すぎるからですわ。普通の奴隷は食事は最低限、衣服はボロボロ、寝泊まりに宿屋は使わないそうですよ」
「あ……そう、なのか?」
アオイの言葉に、俺は思わず……瞬きを繰り返した。
言われてみればここは異世界で、彼らは『奴隷』という扱いなのだ。
そうだったな……俺は家族達と思って落札したけど、彼らにとってはあくまで『奴隷』なんだよね。
衣服はボロボロ、飯は家畜の残飯、寝床は冷たい地べた。それが、この世界の当たり前なのだろう。
だけど、これから一緒に死線を潜り抜けたり大きな商会にする為の大切な仲間を、そんな風に扱う趣味は俺にはない。しかも高額で落札したのに、無下に扱うのが良く分からない。大事に扱えばより、親密になれると思うけどね……
「……まぁ、奴隷の扱いがどうだったかは知らないけど、俺のところではその『普通の奴隷扱い』はしないよ。みんなにはしっかり働いてもらうつもりだし、それなら服も、飯も、風呂も、全部必要な物だろ?」
俺が当然のようにそう言うと、奴隷たちの間に、先ほどとは明らかに違う「震え」が走った。
「だ、旦那様……」
先ほどの老執事が、その老骨に似合わないほど熱い涙を流し……その場に深く膝を突いた。
「このハンス……これほどの慈悲深き旦那様に出会えたこと、我が生涯最大の誉れにございます……そのすべてをルディ様の栄光のために捧げると誓いましょう」
「お、おい、大げさだって……」
タジタジになる俺をよそに、丸太のような腕の獣人族の男もガシッと胸を叩いて吠える。
「へっ、とんだお人好しなご主人だ。気に入ったぜ。俺がアンタに危険から守ってやるぜ」
「ワシも、そんな温けぇ扱いをしてくれるなら、最高の一振りを叩いてやるしかねえなぁ。後、酒を付けてくれんか?」
ドワーフのヒゲモジャオヤジも、ヒゲを擦りながらコッソリと酒を要求する。
『白い女帝』ジェシカや、エルフのルーナ、そして『のじゃロリ』天狐のリンも喜んでいるようだね。
「フン、当たり前じゃない。アンタ達、本当に運が良いんだから。ルディに、感謝することね」
アカネが隣でフフンと胸を張り、アオイも
「ウフフ、主様のそういうお優しいところが、私共も大好きなのですわ」
と、俺の腕をきゅっと抱きしめてくる。
ちょっと恥ずかしくなってきた俺は、ゴホンと咳払いをして歩き出した。
「よし、それじゃあまずは服屋だな。その後、木漏れ日亭へ行くぞ」
それからの俺たちは、ビギナリアの街の衣料品店や日用品店をいくつかのグループに分かれて回り、手当たり次第に「爆買い」していった。
生活費として別口に確保していた金貨がガリガリ削れていくが、人数分の新しい衣服や、野営に必要なテント、毛布、調理器具が揃っていくのは見ていて気持ちが良い。
大荷物を台車に積み、引き連れる大集団。すれ違う冒険者たちが
「おい、なんだあの軍勢は……女の子ばかりだな」「あいつ、セレスティアル・ガーデンの……」
と、腰を抜かさんばかりに驚愕しているが……今の俺たちには、心地よい風でしかなかった。
やがて、目的地の宿屋『木漏れ日亭』に到着する。
扉を開けて中に入ると、馴染みの宿屋のマスターが、俺の後ろにズラリと並ぶ美女やマッチョ、総勢30名以上の大集団を見て、愛用のグラスを取り落として粉々に砕いた。
「ル、ルディ……おまっ、その、後ろの団体さんは一体なんだぁぁぁ!」
「あはは、ちょっとオークションで、人材を確保しすぎちゃってさ。マスター、やっぱり部屋、空いてないよね?」
「空いてるわけねえだろ。オークション期間中だぞ。うちの部屋数で、こんな人数泊められねえよ」
マスターは頭を抱えて叫んだ。まあ、アオイの言う通り、最初からここに全員で泊まれるとは思っていない。
「だよね。だからさ、部屋はいいんだ。今夜は街の外で野営するから。その代わり、別料金をしっかり払うから、頼んでいた【お風呂】だけ……貸してくれないかな? みんな汚れちまってるんだ。それと、風呂上がりに全員分の飯を作ってほしい」
俺がそう言って、別口の資金から金貨を数枚差し出すと……マスターは一瞬で商売人の顔になり、ニカッと笑った。
「おう、風呂ならいくらでも使ってくれ。湯なら、たっぷり沸かしてやるからな。よし今から、風呂はお前さんらの貸し切りだ。その間に、飯も用意しておくぞ。ウチの自慢料理を、山ほど作ってやるからな。お〜い、ちょっと来てくれ〜」
「ありがと、マスター」
マスターに呼ばれて、女将さんと看板娘のリラちゃん(十三歳)・キラちゃん(十一歳)が来てくれた。
「「あ〜、またルディ君が浮気してる〜」」
容赦ない看板娘達に『あらあら』と笑う美人女将さん。そして、3人に大銀貨を渡して女性メンバーのお風呂の補助をお願いした。




