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ショートショート→ショートへ(AIに文字数を増やさせホラー)  作者: 斉藤一


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9/12

動画配信で(ロングバージョン)

 私はミユ、ごく普通の女子高生。趣味で始めた動画配信が少しずつ人気になり、最近では「ミユちゃん」と呼んでくれるリスナーさんも増えてきた。けれど、その「画面越し」の繋がりが、私の平穏な日常を根こそぎ奪い去るなんて、その時の私は夢にも思っていなかった。

 あの夜、すべては一つの小さな不手際から始まった。

 深夜の配信を終えた私は、心地よい疲れの中でパソコンのシャットダウンをクリックした。ディスプレイの電源を落とし、部屋が暗闇に包まれた瞬間、スマホが震えた。親友からの電話だった。

「明日の待ち合わせ、どうする?」

「あ、10時に駅前の〇〇ショップの前でどう?」

「おけ、了解!」

 短い会話を終え、私はお風呂に入って泥のように眠った。

 翌朝、目が覚めてパソコンのディスプレイを点けると、そこには絶望的な画面が広がっていた。「プログラムの応答を待っています。強制終了しますか?」という無機質なメッセージ。……シャットダウンが失敗していたのだ。つまり、私は昨夜の電話の内容から、その後の生活音まで、すべてを「生配信」し続けていたことになる。

 心臓がバクバク鳴る。慌ててアーカイブのログを確認した。

『ミユちゃん、寝た?』

『おーい、画面真っ暗だよw』

『誰かと電話してる? どっか行くのかな』

 リスナーたちは騒いでいたけれど、画面は暗いままで、私の寝言や失態が晒された様子はない。私は「ああ、危なかった……」と胸をなでおろし、今度こそシャットダウンしたことを確認して家を出た。

 親友はすでに待ち合わせ場所に来ていた。

「ごめん、待った?」

「ううん、今来たところだよ」

 駅前で親友と合流した私は、遅刻のお詫びにジュースを奢った。その後は、大好きな小物店でお揃いのキーホルダーを買ったり、服屋を冷やかしたり、パンケーキを食べたりして、年相応の休日を満喫した。

 帰宅後、私はいつものように配信を始めた。「今日は友達と買い物に行ってきたよ。可愛い小物を買っちゃった」と、いつものようにリスナーに報告する。もちろん、具体的な場所や店名は伏せて。画面に流れる『いいなー』『どこ行ったの?』というコメントを見ながら、私は平和な日常が続いていると信じ切っていた。

 異変が起きたのは、翌朝のことだった。

「ミユ、あんた宛に手紙が来てるわよ。ラブレターかしら?」

 母がニヤニヤしながら持ってきた封筒には、丸っこい字で『ミユ様へ』とだけ書かれていた。違和感が走る。私の本名は「ミユキ」だ。ミユと呼ぶのは配信のリスナーか、ごく一部の親しい友人だけ。友人なら本名を知っているはずだし、そもそもLINEで済ませるはずだ。

 封を切ると、便箋三枚にわたって、私のことがどれだけ好きか、配信のどの部分が素晴らしいか、そして「ぜひ付き合ってください」という告白が事細かに綴られていた。

 あまりの熱量に気圧された私は、その手紙をビリビリに破き、ゴミ箱の奥底に沈めた。

 だが、恐怖は翌日に加速した。

 また同じ封筒が届いたのだ。

『僕の手紙、読んでくれましたか? 破いたりしてないですよね?』

 背筋に氷を押し当てられたような感覚がした。

「……見てるの?」

 私が手紙を破り捨てたことを、なぜこの人物は知っているのか。ゴミ箱の中身を見たのか、それとも窓の外から覗いているのか。私は怖くなり、その手紙を証拠として保管することにした。

 それ以来、登校中も視線を感じるようになった。

 曲がり角で振り返ると、帽子を深く被り、マスクをした人影が慌てて電柱の影に隠れるのが見えた。

「間違いない、ストーカーだ」

 放課後、私は震える足で交番へ向かった。けれど、警察の対応は冷ややかだった。「手紙だけでは事件性が低いし、その人影が手紙の主という証拠もない。まずは様子を見て、何かあったらまた来なさい」

 帰り道、また後ろから足音が聞こえる気がした。早足で歩きながら、私は夜の配信でリスナーに相談することにした。「最近、ストーカーみたいな人がいて……そういうのって良くないですよね?」

 画面には『警察行け!』『俺が守ってやるよ! 住所知らないけどw』といった、冗談混じりの励ましが飛んだ。その無責任な明るさに、私は少しだけ救われたような気がしていた。

 翌日の帰り道、私は一刻も早く家に帰ろうと、住宅街の近道を急いでいた。

「あの、すみません! これ、落としましたよ!」

 澄んだ声に呼び止められ振り返ると、そこには可愛らしい中学生くらいの少女が立っていた。彼女の手には、この間友達と買ったばかりのキーホルダー。

「あ、どうも。ありがとう! 気づかなかった」

「いえ、どういたしまして!」

 少女は天使のような笑顔を浮かべて、軽やかに走り去っていった。私は彼女の後ろ姿を見送りながら、カバンを確認した。確かにキーホルダーを引っ掛けるフックだけが残り、本体がなくなっている。

 ……けれど、何かがおかしい。

「あれ……?」

 私が拾ってもらったキーホルダーには、真新しいフックがしっかりと付いていた。私がカバンに残していたフックとは別に、だ。まるで、最初から「完成品」を渡されたかのような……。

 けれど、当時の私は混乱していて、深く考えずにそれをカバンに付け直してしまった。

 数日後、私のSNSに異常なリプライが届き始めた。

『〇〇高校の制服、似合ってますね』

『今日の買い食いのコロッケ、美味しそうでした』

 特定されている。どこへ行っても、何をしていても。

 私は恐怖でアカウントをブロックしたが、次から次へと新しいアカウントが現れる。

「もう外に出たくない」

 私は配信を休み、学校も欠席して部屋に閉じこもった。

 さらに数日後の午後。両親が買い物に出かけ、家の中に私一人になった時、インターホンが鳴った。

 恐る恐るモニターを覗くと、そこに立っていたのは、あの「キーホルダーを拾ってくれた少女」だった。

「近所に住んでいる子なのかな?」

 少しだけ安心した私は、チェーンをかけたままドアを開けた。

「こんにちは。最近、ミユさんが動画を配信されていないので、どうされたのかなと思って……」

 彼女が私の活動名を知っていることに、心臓が跳ねた。

「えっ、リスナーさんだったの?」

「はい。ずっと見てましたよ。手紙も出したし、学校の後ろも歩いたし、ゴミ箱も確認しました」

 少女の口調が、少しずつ変わっていく。

「……え?」

「警察に行ったのも、配信で僕のことを相談したのも、全部知っています。あ、相談された時は、僕もコメントしましたよ。『守ってやる』って」

 私は恐怖でドアを閉めようとしたが、彼女の……いや、「彼」の細い指がドアの隙間に割り込んだ。

「何で……住所が分かったの……?」

 震える声で問う私に、少女の姿をしたその人物は、三日月のような不気味な笑みを浮かべ、喉の奥から男の低い声を出した。

「ああ、お返ししたキーホルダーに、高性能の発信機を仕掛けておいたんですよ。あの日、配信を切り忘れたおかげで、待ち合わせ場所がバレたのが運の尽きでしたね。おかげで、可愛い『少女』のフリをしてあなたに近づくことができました」

 男はウィッグを脱ぎ捨て、短く刈り込まれた頭を露出しながら、恍惚とした表情でミユを見つめた。

「さあ、ミユ様。僕の手紙、今度は破らずに、目の前で読んでくれますよね?」

「嫌……来ないで!」

 ミユは必死にドアを押し返そうとしたが、少女の格好をした男の筋力は、見た目とは裏腹に強靭だった。隙間に差し込まれた革靴が、容赦なく室内の聖域を侵食してくる。

「どうして逃げるんですか? あんなに夜通し、僕に向かって語りかけてくれていたじゃないですか。あの真っ暗な画面越しに、僕はあなたの吐息をずっと聞いていたんですよ」

 男の言葉が、ミユの脳裏にあの一晩の失態を蘇らせる。シャットダウンし忘れたあの夜、マイクは微細な寝息さえもこの狂人に届けていたのだ。

 ミユは脱衣所へ駆け込み、内側から鍵をかけた。震える手でスマホを取り出し、警察へ通報しようとする。しかし、画面は無情にも「圏外」を表示していた。

「無駄ですよ。玄関にジャミング(電波妨害機)を置かせてもらいました。あなたの配信環境を調べ尽くした僕にとって、電子機器を黙らせるなんて造作もないことです」

 ドア越しに聞こえる男の声は、もはや少女のそれではなく、低く濁った、粘り気のある執念に満ちていた。ガリガリ、とドアの木面を爪で引っかく音が響く。

「ミユ様、お願いです。僕がどれだけあなたを想って、そのキーホルダーを作ったか。発信機を仕込むために、どれだけ苦労したか分かってくれますよね?」

 ミユは床にうずくまり、耳を塞いだ。しかし、男の声は止まらない。

「あなたは配信で言いましたよね? 『誰か守って』って。だから僕は来たんです。両親という不純物を排除して、二人きりになれる時間を調整して、やっと……やっと、本物の『ミユ』に触れられる」

 その時、ドアが激しく蹴り破られた。

 悲鳴を上げる間もなく、ミユの視界は男の大きな手に覆われた。

「さあ、配信の続きを始めましょう。今度は僕がカメラを回してあげます。世界で一番幸せな、あなただけの特別番組を」

 数時間後、買い物から戻った両親が目にしたのは、主のいない子供部屋で、静かに再起動されたパソコンだった。

 ディスプレイには、配信ソフトの待機画面。

 そして、マイクの横には、あの「発信機入りのキーホルダー」が、丁寧に、大切そうに置かれていた。

 ミユの行方は、今も分かっていない。

 ただ、彼女の配信チャンネルには、時折、深夜の数秒間だけ「真っ暗な画面」と、誰かの「すすり泣くような声」が流れるという。リスナーたちはそれを『ミユの幽霊配信』と呼んで恐れているが、そのログに一度だけ、こんなコメントが書き込まれた。

『僕たちが、守ってあげているから大丈夫ですよ』

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