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ショートショート→ショートへ(AIに文字数を増やさせホラー)  作者: 斉藤一


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『黒い扉』

「あの黒い扉だけは、開けちゃいけないよ」


祖母が亡くなる直前、震える声で遺した言葉を、俺はただのボケだと思って聞き流していた。

祖母の四十九日が終わり、親族のいなくなった古い実家の片付けをしていた時のことだ。

居間の隅、長年重厚な箪笥に隠されていた場所に、それはあった。

漆を塗りたくったような、周囲の光をすべて吸い込むほど真っ黒な観音開きの扉。高さは一メートルほど。仏壇にしては装飾がなく、ただそこに「穴」が空いているような不気味さがあった。

俺は祖母の警告を思い出しながらも、好奇心に勝てず手をかけた。古い木が軋む音と共に扉が開く。中は、がらんどうだった。棚もなく、壁紙もなく、ただ古い木の質感が剥き出しになった狭い空間。


「なんだ、ただの物入れか」


俺は拍子抜けして扉を閉めた。異変が起きたのは、その日の夜だ。寝室でまどろんでいた俺の耳に、階下から音が聞こえてきた。

――ギ、ギギッ……。古い戸が擦れるような、あの黒い扉を開けた時と同じ音だ。泥棒かと思い、バットを手に階段を降りる。居間へ向かうと、月明かりの中で例の扉が、数センチだけ開いていた。


「風か……?」


戸締まりは完璧なはずだ。嫌な汗が背中を伝う。俺は扉をきっちりと閉め直し、念のためにガムテープで固定した。

翌朝、居間へ降りた俺は凍りついた。ガムテープは鋭利な刃物で切り裂かれたように裂け、扉は全開になっていた。そして、その中には「何か」が入っていた。それは、一足の古い、泥にまみれた草履だった。

昨日までは確かに空っぽだったはずだ。誰が、いつの間に?恐怖がこみ上げたが、俺はそれをゴミ袋に放り込み、家の外の集積場へ捨てに行った。

その夜、音はさらに激しくなった。


――ギギギ、ガリッ、ガリガリガリッ……。


何かが爪で木を引っかくような音が、一晩中一階から響き渡る。

俺は一睡もできず、夜明けと共に居間へ飛び込んだ。

扉はまた開いていた。中には、湿った土がこんもりと盛られていた。その土の上には、昨日捨てたはずの草履が、今度は綺麗に揃えて置かれている。そして、土の中から、白い指先のようなものが一本、突き出していた。

俺は叫び声を上げ、近所の寺に駆け込んだ。事情を話すと、住職は顔を真っ青にして俺を本堂へ上げた。


「……あれは仏壇ではない。あの扉は『帰り道』なのだ」


住職の話によれば、あの家はかつて、村の「忌み子」や、身寄りのない死者を一時的に安置する場所だったという。

あの扉の向こうは、この世のどこにも繋がっていない「澱み」であり、一度閉じたはずの死の縁を、誰かが開けてしまったのだ。


「祖母が死ぬ間際、開けるなと言ったのは、中にあるものを閉じ込めておくためではない。開けることで、向こう側に『こちらに誰かいる』と教えてしまうからだ」


住職はそう言うと、俺に数枚の御札を渡し、すぐに家を離れるよう命じた。

俺は家に戻り、荷物をまとめて玄関へ向かった。

その途中、どうしても気になって居間を覗いてしまった。

黒い扉は、今や部屋の半分を占めるほど巨大化しているように見えた。扉の中から、土まみれの老婆が這い出そうとしていた。それは、大好きだった祖母の姿をしていた。だが、顔の半分が崩れ、眼窩には黒い泥が詰まっている。


「―――……」


老婆が俺の本名を呼んだ。その声は、一晩中聞こえていた「ギギギ」という木が軋む音そのものだった。俺は腰を抜かしながらも、必死に家を飛び出した。


それから数年、あの家は貸家として貸し出されている。すでに何人もの住人が庭で首をつって自殺しているらしい。

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