第118話 戦闘能力主義の国バーン
案内されたのは、比較的大きい石造りの無骨な建物だ。
中に入ると、受付カウンターのようなものがある。が、受付に人はいない。
「ここはもともと病院だった。今は医者も回復魔法使いもいないただのデケェ建物でしかないがな」
そう言って建物の奥に入っていく。
「ここだ」
「ここって……ただの壁に見えるが?」
「兄さん、隠し扉ッス」
「お、よくわかったな。そう、ここを押すと……」
壁が回転して奥に続く通路が出てきた。
通路を進み、階段を降りていく。
「こんな仕掛けまで作って、何かやましいことがあるんですの?」
「善悪で考えるなら、俺たちは善の行いをしているつもりだ。でも、この国では善悪なんて何の意味もないんだよ」
「察するに、さっきの騎士。あれがこの国の特権階級だね」
「お嬢ちゃん、正解だ。頭の回転が速い子だな」
「子供じゃないからね」
「おっと、これは失礼した。美しいお嬢さん、どうか許していただきたい」
急に気取った仕草で謝罪する。やけに様になっているな。この人こそ騎士だったりするんじゃないか?
「ふふ、多分勘違いしているね。ウチは実際に子供じゃないんだよ。150を超えてる」
「はぁ!? いや、流石に嘘だろ」
「嘘じゃないけれど……着いたみたいだね。その話は機会があればにしよう」
階段を降りて一つの部屋に入る。そこには10人くらいの人が集まっていた。
「さて、それじゃ好きに座ってくれ。この国について、説明しよう」
昔、モンスターが押し寄せたとき、一人の英雄が現れた。
強大なモンスターを打ち倒し、人の生きる場所を守ったその英雄を見た当時の王は考えた。
いつ強大なモンスターが押し寄せるかわからない。国の重要な人材には強さも求めるべきなのかもしれない。
領地を放って逃げた領主や、逃げなかったにせよ怯えるばかりで全く指示を出せなかった貴族たち。
そんな光景を見てきた後だったから、王に賛同する者は多かった。その逃げた本人たちの反対意見など聞く者はなく、新たな法が制定された。
流石に当時の貴族が強くないからといって爵位の剥奪をしたりはしなかったらしいが、その後、特権階級になるには強さも考慮されるようになった。
だから、貴族を騎士と改名、一等~六等までの位を与えた。この頃は強さのみではなく、国への貢献もしっかり考慮されていたと言われている。
それが変わったのは先代の王からだ。
先代の王はとにかく強さ至上主義だった。一等~六等騎士の座もただ強い者に与え、戦闘能力で劣る者はその席を降ろされた。
当然反発する者は多かった。だが、強さのみを重視して集められた騎士たちに太刀打ち出来る者などいない。その上、王本人が最も強いときている。
ただ強いだけの人間が上に立って、国としてまともに機能する訳がない。
この国はどんどん弱っていった。だが、特権階級である騎士たちは、平民を無理矢理働かせ、自分たちの生活を維持している。
少し話は変わるが、騎士にはどうやってなるか、という話をしよう。
4年に一度、審査会が開かれる。希望者は誰でも参加出来るという、平等な審査会だ。弱りきった平民が強さを得るなんてことがそうそう出来ないという点に目をつむればな。
その場で自分の強さを示すことで、騎士の座が与えられる。六等から始まるとは限らない。示した強さに応じて、一気に上の階級になることも可能だ。
既に騎士の階級を持っている者は、審査会で自分と同じ階級の騎士と一対一で戦い、勝った者は一つ上の階級の騎士に挑戦する権利が与えられる。
そこで勝つと位が上がるという訳だ。
一等騎士だけは少し変わる。全員でトーナメント戦を行うんだ。
そして優勝者は王への挑戦権を与えられる。
現在の王は29年前に先王を打ち倒し、今でも最強の騎士として君臨している。
「ふざけてますわね。国を動かすのを遊びか何かと勘違いしているのではなくて?」
「実際遊びみたいなもんなんだろう。奴は強い奴以外に全く興味がない。王になったのも、自分の強さを試したい、強さを示したい、それだけの理由だ」
「詳しいね? 王と知り合いなのかい?」
「俺はディレス。現王ブレド・エクスラーヴァの弟だ」
王の弟とは。こんなところで地下に潜っているのを見るに、王は家族にも興味がないんだろう。
「一応三等騎士だ。恐らくは、元、と言うべきだろうがな」
「元? 今は騎士ではないと?」
「いや、実際に証を剥奪された訳じゃない。ほら、これが騎士証だ」
そう言って胸に着けているブローチを指す。小さい赤い石が三つはめ込まれた本体から、リボンが垂れている物だ。
「六等騎士はもっと小さい石が六つはめられている。逆に一等騎士の証はデカイ石が1個だ。これで階級が一目でわかる」
「その証を持ってるってことは今でも三等騎士ってことッスよね? 何で元なんスか?」
「俺は王に反発して出てきた身だ。恐らく危険人物としてマークされている」
ここにいるのは王に追い出された訳ではなく、自分の意思だったか。そして、王に反発して出てきたディレスさんの周りにこれだけの人がいる、ということは、ここは……
「ここは革命軍の拠点、という訳だね」
「流石にばれるか。ああ、そうだ。ここにいるのは現在のふざけた国の在り方を変えたいという意志の下集まった同志たちだ」
やはりそうか。ここに集まっているのが革命軍。この街は革命軍の拠点としてこっそり協力しているということだろう。
だから、騎士を殺してしまった俺のことを告げ口しないと言える訳だ。
「おじさん、初対面の人にそんなに話して良いの?」
話に入ってきたのは、真っ赤なルビーレッドに輝く髪の20代半ばほどに見える女性。ディレスさんがおじさんということは、そういうことだろうな。
「大丈夫だろ。こいつらが騎士を攻撃したのはフィリアだって見てただろ?」
「この国のことを知らなかったから騎士を攻撃しただけで、もしかしたらあたしたちの情報を売るかもしれないじゃない」
「見知らぬ女性が襲われているところに何の躊躇いもなく助けに入る奴らが、そんなことをするとは思えねぇな」
「あれが打算じゃないってどうして言い切れるの?」
「打算だとしたら今頃助けた対価を要求してるはずだ。何も言ってこないのが善意で助けた証拠だろ」
「お2人とも、落ち着いてください。喧嘩してもどうにもならないでしょう」
仲間の男性が止めに入った。このまま言い合いをしていても平行線だろうからな。
どちらの言い分も正しいからこそ、結論は出ないだろう。ならここはこちらから提案させてもらおう。
「我々も騎士に攻撃してしまったという弱みを握られています。それでここは信用してもらえませんか」
「……あなたたちがあたしたちの不利益になることをしたら、騎士に攻撃したって情報をばら撒く、そういう契約ってことね。良いわ、ひとまず信用する」
「ディレスさん、この国についてよくわかりました、ありがとうございます。あなた方のことは口外しませんので、我々はこれで……」
「待ってくれ」
「何か?」
「俺たちに協力してくれねぇか?」
正直、予想していた言葉ではある。騎士に対抗し得る戦力はいくらでも欲しいだろう。
俺だって人々が苦しむ姿を見て、何も思わないなんてことはない。助けられるなら助けたいとは思う。
だが、
「すいません。この場では了承出来ません」
「そうか……。理由を聞いても良いか?」
「あなたたちの話以外で、この国を知らないからです」
ディレスさんが嘘を言っているとは思わない。きっとこの国は、さっきの話の通りの酷い国なんだろう。
だが、それはあくまで予想。実際に見た訳じゃない。実感もないのに、命を懸けることは出来ない。
今までの戦いのように、誰か1人を倒して終わりじゃないんだ。
王を倒し、まともな人間を代わりの王として国民に認めさせないといけない。そこに至るまでにどれだけの障害があるか。ただ話を聞いただけで協力出来るほど簡単なことじゃない。
「だから、これから王に会ってきます」
「な!? 正気か!? どうやって会うって言うんだ!」
「今、各国を魔王軍が襲っているというのは知っていますか?」
「魔王軍……? いや、聞いたことねぇな」
王には手紙が渡っているはずだが、恐らくは一部の人間にしか知らされていないんだろうな。
事情を説明する。各国の剣が奪われ、あとはこの国の剣、火炎剣バーグボルドしか残っていない、という話だ。
王への手紙を持っているので、王に会う気があるのなら恐らく会うことが出来る、ということ。
「そんなことが……信じがたいが……。いや、お前たちの髪色、各国を渡ってきたってのは間違いなさそうだ。なら、その話も……」
「信じるの?」
「この場で俺らに嘘を吐いて何になる? 別に俺の誘いなんて断ってさっさと行っちまえば良いだけのこと。それをわざわざ王に会うって言うんだぞ?」
「それは……確かにそうね」
「これからこの国を見て、王と話をして、この国の現状を実感してきます。その上で、ディレスさん。あなたの誘いに乗るか否か、決めさせてください」
「わかった。良い返事が聞けることを期待して、待ってるぜ」




