第117話 騎士を名乗る暴漢
第4章 火炎国バーン 始まります。
遺体を埋める。バーンまで運んで遺族を探すべきかもしれないが、こんな状態で逃げ出してきたんだ、遺族はいないと思って良いだろう。
せめて埋葬しようということで、この場に埋めることにした。簡易的な墓を作る。
埋葬が終わり、また歩き出す。
「あの方……どうして逃げてきたのでしょうか?」
「火炎国がどんな国なのか全く知らないんだよな」
国境は巨大なモンスターの領域になっている関係上、他国の情報はほとんど入ってこない。それにしたって情報が少ない気はするが。隣国とはいえ、どんな国なのかはわからない。
「ろくでもない国なのは間違いなさそうだけれどね。もし辺境の街の治安が悪いってだけなら、国から出ようとする前に別の街に行こうとするはずだし」
「もしかして既に魔王軍に襲われた後で、国中が滅茶苦茶にされるくらい暴れられたとか……」
「どうでしょうね。あり得ないとは言いませんけど、可能性は低そうに思いますわ。魔王軍というのは必要以上に暴れてはいない印象ですし」
「ガイアを襲ってきたレッジは相当暴れていたように思うが」
「いや、話を聞く限り、そのレッジにしても王都以外の街を積極的に襲ったりはしていない。魔王軍が無駄な破壊はしなさそうというのには同意かな」
確かに、首都以外の街を魔王軍が襲ったことは一度もない。国を捨てなければならないほど暴れられる可能性は低そうに思える。
「魔王軍ってそれぞれの国を別の四天王が襲ってきてるじゃないッスか。残ってるのはドラゴが言うにはチーリィとかいう戦おうとしない奴だけッスよね? あんまり暴れなさそうッス」
「戦おうとしないというのが大人しいには繋がらないが……魔王軍の仕業ではなさそうってのはわかった。つまりもともと酷い国だってことになる訳だが……」
「そうだね。このまま引き返したい気分さ」
「手紙は火炎国にも届いているから、極論行く必要はないけどな……」
だからと言ってここから引き返すのもどうかと思う。火炎国宛ての手紙もあるし、何よりここで引き返す意味がない。国内が酷い状況というのは予想でしかないんだからな。
「流石に引き返したいは冗談だけどね。それくらい気が進まないってことさ」
「そうですわね……」
人が飢えて逃げ出そうとする国だからな。観光は最小限にして、さっさと抜けるか。
死体を発見してから28日、グリント出発から48日経った。
途中クラリスの誕生日を祝ったりしつつ歩を進め、ついに火炎国バーン最初の街に到着した。
広く畑が広がる田舎町といった風景だ。
「これは……酷いな……」
畑仕事をしている人々が見える。それは普通の光景だ。だが、
あらゆる人から気力を感じられない
あの逃げ出した人ほど痩せている人はいないが、それでも裕福とは言えないのは見て取れる。
畑仕事に全く楽しみを見出していない。嫌々やっているのが明らかだ。
なぜこんな……強制的に畑仕事をさせられているのだろうか。
「この街で休むのは難しそうかな。多分宿なんてないよね」
「そうだな……」
『こんな街もあるんですね……。これは国が悪いんでしょうか?』
『一地域の問題であるならば、王が対処するでしょう。恐らく国の問題かと』
『全然楽しそうじゃないね……。ご主人、助けられないかなぁ?』
(流石に国って規模の問題になるとな……。俺だって助けられるなら助けたいが……)
『流石に無茶よ。同じ国規模の問題と言っても、ウィンドで解決したのとはレベルが違うわ』
そう、レベルが違う。誰か悪人を討伐して解決、という類の問題じゃないんだ。
『むぅ……』
『仕方ないですよ。王に手紙だけ渡して抜けましょう』
王に会ったら苦言を言ってしまいそうで怖いところではあるがな。
「きゃあっ!?」
「何だ!?」
どこからか女性の悲鳴が聞こえた。リィンを抜く。
「兄さん、あっちッス!」
『……敵は2人』
木造の小屋のような建物の裏側、地面に倒れている女性と、それを襲おうとしている男が2人。
「先に行くッス!」
エイミーが先に走っていくのを追いかける。
「ライラ、いつでも撃てるようにしといてくれ」
「了解」
「クラリスも、結界の準備を頼む」
「わかりましたわ」
俺は念のため、ソルを取り出しておく。どんな状況にも対応しようと思ったら、ソルで様子を見るのが一番だろう。
「お? 何だお嬢ちゃん。文句でもあるってのか?」
「あるに決まってるッス! 何してるッスか!」
エイミーが先に現場に到着し、男共と女性の間に割って入る。
俺たちも建物を回り込み、現場に到着した。
男共を見た瞬間、それほどの相手ではないと理解できたので、ソルを体内に戻す。
(悪いな、ソル)
『問題ない』
「お前ら、何をしてる!」
「ああ? なんだってんだ、ぞろぞろと。俺は六等騎士様だぞ? 星なしがいきがって逆らってんじゃねぇよ」
「俺も六等騎士様なんだよなぁ。わかったら失せな。今なら見逃してやる。ヒュー、俺ってやっさしー」
六等? 何が言いたいのかわからないが、こいつら……
「今、騎士を名乗ったのか? お前らのようなチンピラが」
「あ? そうだよ、騎士様だぜ? 何か文句があんのか?」
「ふぅー……。今なら見逃してやる。この女性に謝罪して失せろ」
「はぁ? 何上から目線で言ってくれてんだ? 良い度胸だ、ぶっ殺してやるよ」
「お前こそ、女共を置いていけば見逃してやるぜぇ?」
そう言って腰に差した剣を抜く自称騎士共。ただのチンピラにしては様になった構えだ。
だが、関係ない。ヴィラを抜く。
「ライラ、降りていてくれ」
「はいはい。でも大丈夫かい? 何か偉そうに名乗ってたよ? もしかしたら立場ある連中かも」
「それでこいつらを見逃せって?」
「はは、冗談。こんな奴らはただの犯罪者だ。大丈夫だろう」
「何くっちゃべってんだぁ、おらぁ!!」
1人、剣を振り上げ向かってくる。思ったより速い。
だがあくまで思ったより、だ。
「ふっ!」
敵の剣を紙一重で回避、隙が出来た奴の腹を上下に断つ。
そのままもう1人との距離を詰め、
「しっ!」
頭に突きを一つ。反応して弾こうとしてきた剣をすり抜け、額を貫いた。
「ただのチンピラかと思ったが、意外と戦える連中だったな」
「治安が悪いですわねぇ。あなた、大丈夫ですの?」
「え、ええ。でも、あの……あなたたちは大丈夫ですか?」
「ん? 全く攻撃も受けてないし、全然大丈夫ッスよ? ねぇ?」
「ああ、あの程度の連中は問題ない」
「いえ……そうではなく……」
「お前ら! こっちだ! 急げ急げ!」
「ん?」
何やら人がわらわらと集まってきた。
「お前ら急げ! 隠せ隠せ!」
そして俺が斬った自称騎士をどこかに運んでいく。
「お、おい……」
「おう、お前さん、良くやったと言いてぇが、ついてきてくれ。いったん身を隠そう」
俺に返事をくれたのは赤髪の40歳ほどの男性。なかなか鍛えているように見える。
「身を隠そうとは?」
「あ? 騎士を斬っちまったんだから隠れねぇと面倒なことになるだろう。安心してくれ。この街の住民は告げ口したりしねぇ」
どういうことだ? あの自称騎士共、もしかして自称ではないのか? 自称ではなく騎士だったとしたって、あいつらがただの犯罪者であることには変わりないはずだが。
「あー、ユーリ君。連中ただの犯罪者って訳でもなかったみたいだ。ここは従っておいた方が良いかもしれない」
「明らかに女性を襲おうとしていましたわよ? それに逆上して斬りかかってきました。あれで犯罪者じゃないなんて、そんなことあり得るんですの?」
「お前さんたち、もしかして外から来たのか? そういえば髪色が……。あー、知らずにやっちまったのか……。その辺りの説明もしてやる。とりあえずついてきてくれねぇか?」
「……わかった。従おう」
男性の後についていく。この国は一体どうなっているんだ。
クラリスの誕生日だけさらっと流したのは、クラリスをないがしろにしている訳ではなく、死体を見た後すぐにお祝いの描写をするのはどうかと思ったからです。作中時間はそれなりに経っていますが、読者様から見れば一瞬ですからね。




